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風穴の恵みが生き物たちを支える「東ヌプカウシヌプリ」登山ガイド

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然別火山群大雪山国立公園の南に位置する東ヌプカウシヌプリは、標高1,252mの山。ガレ場には多くの風穴が存在し、ナキウサギやエゾイソツツジなど、本来は高山にしかいない動植物を支えています。

十勝平野の大パノラマを望みながら、ナキウサギの出現を待つ。たった1時間の登りでそんな贅沢が味わえる、東ヌプカウシヌプリの魅力をお伝えします。

 

 

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たった1時間のハイクで贅沢な自然が味わえる

東ヌプカウシヌプリは、北海道の鹿追町、上士幌町、士幌町にまたがる1,252mの山。

とかち鹿追ジオパーク ジオラマ地図

東ヌプカウシヌプリは約6万年前の火山活動によって誕生した溶岩ドームで、然別火山群を構成する火山のひとつです。

その溶岩が崩れて積み重なった風穴(ふうけつ)が冷涼な環境を生み出し、本来は高山にしかいないナキウサギをはじめとする生き物たちを支えています。独特の自然は、日本ジオパークに認定されています。

「ヌプカ・ウシ・ヌプリ」はアイヌ語で「原野の上にいる山」の意味。頂上からは、日本で3番目に広い平野である十勝平野の大パノラマが広がります。

十勝平野の雄大な景観を眺めながら、ナキウサギの出現を期待と不安を抱きながら待つ。そんな贅沢で濃厚な時間が味わえます。

 

とかち鹿追ジオパークの象徴

東ヌプカウシヌプリは、とかち鹿追ジオパークのなかにあります。ジオパークとは、Geo+Parkを組み合わせた造語で、地球を学び、丸ごと楽しむことができる場所という意味。2021年4月現在、国内には43の日本ジオパークがあります。

とかち鹿追ジオパークのテーマは「火山・凍れ・生命」。

【火山】粘り気の多い溶岩がつくった山々、そして当時の火山活動が川をせき止めてできた然別湖。豊かな地形は川と火山がつくりました。

【凍れ(しばれ)】然別湖周辺の山々には、夏でも溶けない「氷」を含む永久凍土があります。そして風穴が北極圏とよく似た森を育みました。

【生命】然別湖の固有種ミヤベイワナや、氷河期の生き残りナキウサギ。そして火山灰土壌の大地は美味しい農作物を育んでいます。

とかち鹿追ジオパークホームページより抜粋

東ヌプカウシヌプリも、然別湖周辺の山々と同じく、粘り気の多い溶岩が噴出して盛り上がった溶岩ドームです。その溶岩が崩れてできた風穴の存在により、冷涼な環境でしか生息できないナキウサギや高山植物を観察できます。「火山・凍れ・生命」が3拍子揃った、とかち鹿追ジオパークを象徴する存在です。

 

風穴が生き物たちを支えている          

東ヌプカウシヌプリはナキウサギを観察できる山として有名ですが、その生息環境を支えている風穴について知る人は多くありません。

風穴とは、傾斜地に積み重なってガレ場(岩塊斜面)にできた穴のことです。風穴を通して空気が岩の隙間を対流している一体を風穴地帯といいます。

東ヌプカウシヌプリの風穴

風穴から吹き出る冷たく湿った空気が、本来は高山にしかいない動植物を支えています。東ヌプカウシヌプリの独特な自然を語るうえで欠かせない存在です。

風穴から冷たい空気が吹き出る仕組みはこうです。

風穴地帯では、冬は斜面の下から外気が入り、斜面に上から吹き出します。冬の間ずっと冷気が入り込んでいた斜面の下は、春になっても氷点下。そこに雪解け水が流れ込み、氷となります。

風穴の仕組み 冬

とかち鹿追ジオパークビジターセンター展示パネルより

 

夏の間、温かい空気は斜面の上から入り、下の風穴から吹き出します。春に作られた氷は夏の間も風穴内を0℃前後に保ちます。秋になっても溶け切らなかった氷はそのまま残り、地下に永久凍土をつくります。

風穴の仕組み 夏

とかち鹿追ジオパークビジターセンター展示パネルより

 

7月13日14:00、風穴内の温度を測ったら1でした。麓の鹿追町の同じ時刻の気温は26.8℃。天然の冷蔵庫です。

風穴の温度

 

北海道有数のナキウサギ生息地

日本では北海道にしか生息していないナキウサギは、氷河期に陸続きだったシベリヤから北海道に渡ってきたと考えられています。別名「氷河期の生き残り」。暑さが苦手で、12℃前後が好適だといわれています。

東ヌプカウシヌプリのナキウサギ

生息に適した場所は、主に標高1,500m~1,900mほどの冷涼な山岳地帯にあるガレ場や岩塊堆積地に限られています。ところが、標高1,252mの東ヌプカウシヌプリは、風穴がつくりだした冷涼な環境により、一大生息地になっているのです。

標高800mの登山口を出発してすぐに、ナキウサギの鳴き声が聞こえくるはずです。残念ながら、ここでは深い森に阻まれて姿を見ることはできません。ナキウサギの観察に適しているのは、頂上から80mほど先にあるガレ場です。

東ヌプカウシヌプリのガレ場

ナキウサギは体調15cmほどの小さなウサギです。毛色も冬は灰色、夏は茶色で岩や草木と同化します。なかなか見つけられません。

頂上付近のガレ場は、むき出しになった巨石が斜面にゴロゴロしています。植物で覆われていないので、比較的見つけやすく、写真にも納めやすいですね。

ガレ場周辺は視界をさえぎる木々がないので、十勝平野の大パノラマを望むことができるのも魅力です。東ヌプカウシヌプリの周辺エリアには他にもナキウサギ観察スポットがあるのですが、苔むした樹林帯に囲まれている場所が多く、ここまでの開放感はありません。

ナキウサギに会えるかどうかは運次第。絶対に見たいなら、数時間待ちする覚悟が必要です。ここは景色がいいので、待機する時間も有意義に過ごせます。

 

特異な植生と見事なコケの森

風穴の周囲は、風穴がつくる冷気で局地的な低温環境になります。それにより、周辺とは明らかに異なった植生が形成されることがあります。

次の写真は、東ヌプカウシヌプリの標高1,000m付近に広がる岩場です。トドマツとアカエゾマツが多い林のなかに、ぽっかりと穴があいたようにガレ場の風穴地帯が広がっています。

東ヌプカウシヌプリ 植生の反転

この風穴地帯には、大雪山では標高1500m以上で見られるエゾイソツツジやガンコウランなどがみられます。主に森林限界の岩場などに生育する高山植物ですが、風穴が低温をつくりだしたことで、生育できる環境が整っているのです。

風穴がない上部は本来の植生に戻り、再びダケカンバなどの樹木におおわれています。このように植生が上下逆転することを、植生の反転といいます。

東ヌプカウシヌプリには、ガンコウランを食べる国の天然記念物カラフトルリシジミも特異的に分布しているのだとか。見てみたいものです。

稜線に出るまでは、美しいコケの森を歩きます。然別湖周辺の風穴地帯は、日本蘚苔類学会が選定する「日本の貴重なコケの森」に選ばれているコケの名所です。

東ヌプカウシヌプリ コケの森

ゴレツミズゴケ、ホソバミズゴケなどの厚いマットでおおわれた緑の森は目に優しく、木漏れ日が降りそそぐ癒しの空間。見事に苔むした森を見るだけでも、登る価値があると思います。

 

 

東ヌプカウシヌプリ登山ガイド

然別火山群

十勝平野から見た然別火山群 右が東ヌプカウシヌプリ

予備知識があると面白みが格段に増す山です。とかち鹿追ジオパークビジターセンターで東ヌプカウシヌプリの独特の自然を予習しておくことをおすすめします。

 

基本情報

東ヌプカウシヌプリ 登山地図

標高1,252m
標高差348m
登山口道道726号線の白樺峠
難易度初級
水場なし
山小屋なし
駐車場白樺峠の両サイドにある駐車帯を利用する
トイレ道道726号の扇ヶ原展望台のトイレを使用する

山中では携帯トイレを使用(携帯トイレブース無し)

携帯電波状況Docomo・au使用可能、softbankは一部使用可能
問合せ先ひがし大雪自然館 tel:01564-4-2323

開館時間9:00~17:00 水曜定休日

頂上まで1時間の初心者コースです。迷いやすい場所はなく、特別な知識や技術も要りません。登山専用の装備も必要ありませんが、防寒着雨具だけは持ち歩きましょう。

稜線から頂上まで、登山道の左(東側)が崖になっています。植物が茂っているので気づかないかもしれません。人とすれ違うときは注意してください。

頂上から80mほど南に進むと、ナキウサギが観察できるガレ場(風穴地帯)があります。市販の地形図には記載がありませんが、登山道はしっかりとついています。ぜひ訪れてみてください。

ストックを使用する場合は、登山道の荒廃を防ぎ、植物を保護するため、ストックの先端(石突)にはキャップを付けます。

逆に、ガレ場ではストックにキャップがついていると滑ります。両手が使えたほうがバランスが取れるので、ストックはザックに収納することをおすすめします。

 

コース概要

標準ガイドタイム(休憩なし)

白樺峠(0:40)稜線(0:20)頂上(0:05)ナキウサギ観察スポット(0:05)頂上(0:20)稜線(0:20)白樺峠

登山口は白樺峠にあります。この名称で誤解している人が多いのですが、峠付近に生えているのは白樺ではなくダケカンバ。ダケカンバ峠より白樺峠のほうが、風情がありますね。右に見えるのが東ヌプカウシヌプリです。

東ヌプカウシヌプリ登山口

東ヌプカウシヌプリ登山口

明るく開けた草原を進みます。振り返ると、白樺峠をはさんで西ヌプカウシヌプリが見えます。この山も東ヌプカウシヌプリと同様、溶岩ドームです。道路わきには大きな岩がゴロゴロした千畳崩(せんじょうくずれ)があります。

西ヌプカウシヌプリ

西ヌプカウシヌプリ

ほどなくして、トドマツとアカエゾマツが多い樹林帯に入ります。

東ヌプカウシヌプリの登山道

ここでは天然林でしか見られない、森林の再生を観察することができます。トドマツとアカエゾマツは、倒れた古木を土台にして次の世代の若木が育ちます。これを倒木更新といいます。

東ヌプカウシヌプリ 倒木更新

朽ちた木の上に種が落ちて幼木が育つ

凍裂(とうれつ)です。冬の厳しい冷え込みによって木が裂ける現象で、水分を多く含むトドマツでよく見られます。

東ヌプカウシヌプリ 凍裂

標高1,000m付近には植生の反転が見られる風穴地帯があります。登山道の左側にあるのですが、残念ながら、樹木が邪魔をして見ることができません。お隣の西ヌプカウシヌプリから撮影した写真がこちら。

西ヌプカウシヌプリから見た植生の反転

徐々に高度が上がると、美しい苔の林床が現れます。日本蘚苔類学会によって「日本の貴重なコケの森」に選定された見事な苔の森です。

東ヌプカウシヌプリ コケの森

苔の下には風穴が隠れています。6月に登ったときは、まだ雪が残っていました。

風穴の中の雪

登るに従い木の幹が細くなり、太陽の光が差し込んで頭上が明るくなってきます。木立の隙間から周囲の山々が見えるようになると、稜線です。

東ヌプカウシヌプリの稜線から見た白雲山

6月の桜と白雲山(左手前)

稜線に出たら20分で山頂に到着です。

東ヌプカウシヌプリ頂上

頂上からは、踏み跡というには立派すぎる道がさらに伸びています。80mほど南下するとナキウサギが観察できるガレ場に到着です。ここが東ヌプカウシヌプリのハイライト。望遠レンズを構えたナキウサギ・ウォッチャーでこの日も賑わっていました。

東ヌプカウシヌプリのガレ場

「今日は少ないほうだよ」常連さんが教えてくれましたが、それでも滞在時間20分の間に1匹のナキウサギが姿を現しました。どこにいるのかわかりますか?

東ヌプカウシヌプリのナキウサギ

夏毛に生え変わったばかりなのか、体毛はボサボサです。時折見せる岩の上で瞑想するような姿は「森の哲学者」ともよばれています。

ナキウサギは鳴き声で縄張りを宣言したり、仲間とコミュニケーションを図ります。鳴き声は「キチッ」という、金属音のような声です。

東ヌプカウシヌプリのナキウサギ

ナキウサギは見た目のかわいらしさとは裏腹に、厳しい環境でたくましく生きています。でも今は開発や温暖化によって少しずつ生息地が狭まり、絶滅の危機に瀕しています。ナキウサギの存在は、北海道の自然が豊かで多様性に富んでいることの証。守り抜きたいですね。

ガレ場から目を上げれば、パッチワークのような畑に彩られた十勝平野が広がります。

東ヌプカウシヌプリから見た十勝平野

十勝平野は大規模農業が盛んな土地。ジャガイモや砂糖ビート、大豆や小豆、小麦などがつくられる全国有数の畑作地帯です。「ヌプカ・ウシ・ヌプリ」はアイヌ語で「原野の上にいる山」の意味。「なるほど」と思わせる景色です。

 

 

 

ナキウサギ観察のコツ

東ヌプカウシヌプリのナキウサギ

ナキウサギはとても警戒心が強い動物です。探すときは、やや離れた場所から静かに待つのがコツです。

体長は15cmほどの大きさです。小さいうえに、冬は灰色、夏は茶色の体毛が保護色となって、岩や植物と同化します。

ベテランのナキウサギ・ウォッチャーは、巣穴の位置や個体まで知り尽くしてカメラを構えていますが、一般的にはキチッ、ピチッという鳴き声が頼りです。

金属的な鳴き声は、ガレ場によく響きます。ナキウサギの鳴き声が聞こえたら、声のする方向に目をやり、動くものを探してください。

肉眼で見ることができるほど至近距離に現れることは稀です。双眼鏡があるといいですね。写真撮影に関しては、スマホは全く役に立ちません。望遠レンズ付きのカメラ必須です。

 

 

 

行ってみよう!とかち鹿追ジオパーク ビジターセンター

東ヌプカウシヌプリは、予備知識があると一層楽しめる山です。とくに風穴は、何の知識もなく登っているだけでは気づきません。「とかち鹿追ジオパークビジターセンター」で学んでおくことをおすすめします。

とかち鹿追ジオパーク ビジターセンター

場所は白樺峠のすぐ近く。道道85号線の鹿追町方面にあります。火山や風穴の展示が充実していますね。とくに、十勝平野の成り立ちがわかるプロジェクションマッピングには感動しました。子どもも一緒に楽しめます。

とかち鹿追ジオパーク ビジターセンター プロジェクションマッピング

 

 

 

東ヌプカウシヌプリの自然をより深く知りたい方は、こちらの記事もどうぞ。

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