登山の飲料水確保に、浄水器SAWYER MINI(ソーヤーミニ)SP128を購入しました。
これまで、行動中に飲料水を確保するときは煮沸消毒をしてきましたが、時間がかかるうえ、今年は山も猛暑で温かい飲み物は欲しくない。
そこで携帯浄水器を購入。水道水レベルの水質は望めませんが、行動中に給水してすぐに飲める安心感は絶大です。
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購入したのは【SAWYER MINI SP128】です
中に入っているのは、フィルター、0.5リットルパウチ、ストロー、洗浄用注射器の4点。製造はアメリカですが、日本正規品には日本語の説明書も入っています。
サイズは13.3センチ×3.5センチ。重さは55グラムです。手のひらサイズなので、軽量コンパクトを追求する登山者に絶大な人気を誇っている商品です。
価格が手ごろであることも、人気の理由のひとつだと思います。わたしが購入した日本正規品は3,960円でした。並行輸入品はもっと安価です。
ろ過能力は38万リットル。メンテナンスを怠らなければ、1日10リットルろ過しても100年以上使える計算です。実質、フィルターカートリッジの取り換えは必要ないことになります。
フィルター孔は0.1ミクロンで、中に入っているストロー状の孔が開いた中空糸膜で不純物をろ過する仕組み。北海道で最も恐れられているエキノコックスの卵は直径30ミクロンで、テント場近くの水場にウヨウヨいそうな大腸菌は1~2ミクロン。このような肉眼では見えない大きさの寄生虫や菌もろ過できます。
エキノコックスは勿論、バクテリアや微生物など有害な病原菌を除去する能力は薬品を入れる方法以外のポータブル浄水器としては世界最高レベルの製品です。
取り扱い説明書の表です。米国環境保護局の基準値がわからないので、どう評価していいのかわからないのが本音です。
水生微生物・病原体 | 米国環境保護局の基準値 | SAWYERフィルターの除去率 | 基準値を上回るかどうか |
バクテリア(コレラ菌、ボツリヌス菌、チフス菌、アメーバ赤痢菌、大腸菌、大腸菌群、レンサ球菌、サルモネラ菌) | 99.9999%(6 log) | 99.99999%(7 log) | YES |
微生物(ジアルジア、クリプトスポリジウム、サイクロスポラ) | 99.9%(3 log) | 99.9999(6 log) | YES |
ただし書きはこちら。
当フィルターでは、水にとけているカルシウムやマグネシウム、重金属等を含む溶解固形分や放射性物質、細菌よりもさらに微細なウイルスは除去できません。
そうなんです。ウイルスは細菌よりはるかに小さくて、単位もミクロンのさらに1/1000の単位(ナノメートル)が用いられる大きさのようです。このサイズはさすがにフィルター孔をすり抜けてしまいます。
限界はあるということですね。
浄水器を通した水を容器にためて飲む
使い方は主に5つありまして、
- ストローで飲む
- パウチにセットして飲む
- ハイドレーションにセット
- ペットボトルにセットして飲む
- きれいな水を容器にためる
わたしはナルゲンボトルにきれいな水をためて飲んでいます。
付属の0.5リットルパウチで取水したら、フィルターを取り付けて逆さまにしてナルゲンボトルに注ぎます。パウチに圧をかけて水を押し出します。
持ち歩いているのは0.5リットルパウチとフィルター、2リットルのプラティパスです。0.5リットルのパウチだけだと少ないんですよね。わたしのように何度も給水するのが面倒な人は、2リットルのプラティパスがあるといいですよ。
ストローは家に置いていますが、沢登りするときはストロー方式で直接沢から飲むのもいいかなぁと思ってます。水に困らない場所なので、必要に応じてその都度給水すれば、予備の水を担がなくて済む。装備が軽量化できるのはうれしいです。
ちなみに、ペットボトルを取り付けてろ過するときは、「いろはす」のような柔らかいペットボトルがあると便利です。硬いペットボトルは水を押し出しにくいので。
複数の容器を使うときは、取水用(汚染された水を入れる)ときれいな水を入れる容器を取り違えないようにしないといけません。行動中何度も浄水するときは、うっかりミスに要注意です。
それから、使ったときは帰宅後すぐに洗浄するように心掛けています。【SAWYER MINI SP128】は、付属の注射器を使って逆方向からキレイな水を注入して洗浄するだけなので、メンテナンスが簡単です。
メンテナンスが行き届いていないと、菌やウイルスをわざわざ体内に取り込むようなものですからね。構造が複雑でメンテナンスしにくそうな商品や、消耗品を頻繁に取り換える必要があるものは、管理が大変なので購入前の検討段階で除外しました。
これまでは煮沸消毒してました
わたしが浄水器を購入した理由は、水分補給が短時間でできることが魅力だったからです。
山の水はそのまま飲めないことはご存じですよね。雪渓の融水、沢の水、雨水、湧き水、たとえ水場と表示されている場所だろうと、取水した水を直接飲むのは危険です。
水を消毒するには煮沸と浄水器を通す2つの方法がありまして、わたしの場合はこれまで煮沸していました。北海道では夏山シーズン中でも低体温症のリスクがあるので、加温するためのガスとストーブ、コッヘルは基本装備なんです。常にザックの中に入れて持ち歩いているので、わざわざ浄水器を使おうとは思いませんでした。
ところが今年の北海道も異常気象で、山の上でも30℃を超える猛暑続き。ケガをしたときに使う予備の水さえ飲み干してしまうことが続きました。そんなときはどこかで調達するしかない。
でも、給水したらエキノコックス対策で煮沸5分。そこから飲める温度になるまで数分待って、暑いなかフーフー言いながら熱い飲み物をすする。それがね、つくづく嫌になったんです。
そこで給水してすぐに飲める携帯浄水器を購入。水分補給までの時間が短縮できるのは、今年は大きなメリットでした。加えて、水質が悪い場所で水を汲まなければならないときは、安心感がずいぶん違いました。
日本正規品じゃなくてもよかったと思う
さて、わたしが購入したのは日本正規品ですが、最終的に買う商品を決める前に、並行輸入品とも比較検討したので、それについても書いておきます。
SAWYER MINI SP128は、安価な並行輸入品も出回ってます。日本正規品との価格差は1000円程度。
どんな違いがあるのか調べてみたところ、食品衛生上の基準を満たすよう一部の部品を日本側で再構成しているとの情報を得ました。それが決定打となって日本正規品を購入したわけです。
ところがですよ、届いた商品の取り扱い説明書を見ても、何をどう日本仕様に変えたのか詳しいことが何も書いていないんですよね。
そこで販売代理店に問い合わせたところ、次のような回答がきました。
この度は、お問い合わせありがとうございます。
①並行輸入品との違い
→弊社で検品を行い、一部の部品を日本側で再構成しております。
②説明書に『食品衛生法の基準を満たすよう一部の部品を日本側で再構成しております。』とあるが、具体的にはどのような基準を満たすために、どの部品を再構成したのか。また、再構成とは何か。
→大変申し訳ございませんが、詳細につきましては弊社の規定によりお答えできかねます。
ご希望に沿えず誠に申し訳ございませんが、何卒ご了承下さいますようお願い致します。
まさかの回答拒否。どんなに優れた性能や機能があったとしても、公にできないのであれば無いも同然。軍事機密でもあるまいし。
買ってしまったので後の祭りですが、並行輸入品との違いが日本語の取扱い説明書と6カ月間の保証期間がついている程度なら、日本正規品じゃなくてよかったと思いますね。
水道水レベルの水質を求めてはいけない
わたしなりに理解したのは、浄水器に水道水レベルの水質を求めてはいけないということ。
理由のひとつは能力に限界があること。どんなに良い浄水器でも、完全にすべての物質を取り除くわけではありません。
2000年の調査ですが、個人レベルで使用する携帯用浄水器の能力を評価した報告のなかに、次のような記述がありましたので紹介します。
しかし,環境水中にはヒトの腸管系ウイルスも多く混入しており7),水源として河川水や湖沼水を使用することを前提とした場合は,粒子の大きさが20nmレベルである腸管系ウイルスも除去できる浄水器の開発が望まれる。
「携帯用浄水器の浄水性能評価実験」東京衛研年報 Ann. Rep. Tokyo Metr. Res. Lab. P.H., 51, 253-258, 2000より
20nmは0.02ミクロンです。SAWYER MINI SP128のフィルター孔0.1ミクロンではスルンと通り抜けてしまいます。完全にはいかないんですよね。
ほとんどの商品が安全基準や規格の認証を受けていないのも引っ掛かっています。
クライミングロープだと、国際的な山岳とクライミングの団体がロープの安全基準を定めて適合するロープにUIAAの認定マークを与えています。ヨーロッパで販売するロープはEN(ヨーロッパ規格)の基準に適合していなければいけません。
わたしが調べた範囲では、ほとんどの浄水器には安全基準や規格が明示されていなくて、どこのメーカーのデータもメーカーサイドから提供されたものでした。
評価基準も相当違うと思います。たとえばろ過能力は【SAWYER MINI SP128】は38万Lで、他のメジャーな浄水器は1000L~2000Lくらいです。ケタが違いすぎる。
こういったことを総合すると、水道水並みの信頼を寄せることはできません。
最上位クラスの浄水器はさすがに違う
0.02ミクロンレベルの除去が可能になる、かなり性能が高い浄水器があるので紹介します。
MSR Guardian
MSRという登山装備では有名なメーカーの商品で、その名はGuardian(守護者)。邪悪なものから守ってくれそうで実に頼もしい名前です。
米軍と共同開発した商品で、0.02ミクロンの中空糸膜のフィルターによって、原生生物やバクテリアはもちろん、ウイルスまで除去できます。
収納サイズ23×13cm。重量490グラム。フィルターカートリッジ寿命1万リットル以上。メーカー希望小売価格は税込み61,600円。価格は性能に比例するという好例でしょうか。
LIFESAVER LifeSaver Bottle
こちらは英国軍で採用されているというLifeSaver Bottle。サバイバルっぽいネーミングですね。0.015ミクロンの中空糸膜のフィルターによって、細菌、ウイルス、微生物を除去します。
ボトルの容量は750l。重量635グラム。フィルター寿命は4000リットル。交換時期がくると、自動的にフィルターが使えなくなるんだそうです。メーカー希望小売価格は26,400円。
この商品は米国や英国、ヨーロッパ、WHOなどの飲料水の水質基準適合の認証を受けていまして、それが製品への信頼性と安心材料になっています。
山では雪渓の融水や沢の水を水源として利用することが最も多いですが、今年は雪渓が早くに溶けてしまい、オタマジャクシが泳ぐ沼での取水もありました。もともとの水質によって、浄水器の除去能力の変動も激しいことが予想できます。より安心安全を求めるなら、これらの上位機種を使うことになると思います。
さて、話をSAWYER MINI に戻します。購入前は「浄水器があれば安心だ!」と思っていたんですが、限界を知って「沢の水を飲むより安全」くらいに一気にトーンダウンしました。お値段なりの性能だといえます。
そんなわけで、浄水器単体での使用は積極的にしていません。購入後も相変わらず飲料水作りはガスとストーブによる煮沸式です。
それでも、何かあったとき、いつでもすぐに水分補給できる安心感は絶大でした。行動中に水が不足することに対する不安や恐怖は、とても大きかったんですよね。思いがけない暑さや見込み違いで水が足りなくなったときは、「持っててよかった!」と思える商品だと思います。