トラブル 行動 コラム

たった20分で凍傷になりました

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凍傷 指先に水疱

山仲間が、たった20分で凍傷になりました。

行ったのは1月下旬の初級の雪山です。

でも、凍傷になったのは山ではなく、国道脇の駐車場です。

本人に許可をもらいましたので、経緯を振り返りながら、反省点について書きたいと思います。

 

 

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素手で装備を扱ったのが原因だった

その日は上空に寒気が流れ込み、出発地点の気温は20くらいと冷え込んでいました。でも、この時期としては想定内の気温です。

駐車場でスノーシューや山岳スキーに履き替えとき、仲間のひとりが装着に手間取って、手袋を外してしまいました。

たまたま撮った写真がこちらです。

凍傷 素手で装備を扱う

時間にしてわずか20分くらい。装備を素手で操作しているこの間に、凍傷になってしまいました。

ただし、この時点では自覚症状はなく、手袋をインナーとアウターの2枚重ねにして、何事もなかったように登山を開始しています。

15分くらい歩いて装備の不具合で立ち止まったとき、彼の様子がおかしいことに周囲が気づきました。

10人ほどいる同行者のなかで、彼だけがガタガタ震えています。「手が冷たい…」というので見せてもらうと、10本の指すべてが第一関節まで白っぽくなっていました。

後から調べてみると、白くなるのは凍傷の初期症状なんですね。この時点で引き返すべきでした。

ところが、わたしも含めて同行したメンバーは誰ひとりとしてサインに気づかず、極厚手のミトンに小さなカイロを入れて彼に貸し出して、再出発してしまいます。

 

 

凍傷の経過(激痛、水疱、爪がはがれる)

冬山山行

計画通り山行を続けて下山。

帰路の車中で体が温まってくると、指先が赤く腫れて、激痛に襲われました。その痛みたるや「吐きそうなくらい痛い」とのこと。想像を絶する痛みです。

帰宅して温水で温めたところ、いくつかの指に水疱ができてきました。

それから休日当番病院の整形外科を受診。待合室で撮った写真がこちらです。

凍傷 手の甲

指の第一関節から先が、赤黒く変色。水疱ができています。

凍傷 手のひら

当番病院では、水疱を切開して水を出し、ガーゼで覆う治療を受けました。

病院をたらい回しにされ、4日間で4つの医療機関を受診。幸いにも骨や筋肉には損傷はなく、凍傷のレベルでは中程度とのことで、最終的には皮膚科のクリニックで治療を受けることになりました。

皮膚科クリニックには3~4日おきに通院。このころには水疱は両手の指の全てにできてしまい、傷口から出る浸出液は、衣類や寝具を汚すほどでした。痛みは軽減して「耐えられる程度」に。

傷口が閉じたり開いたりを繰り返して、ようやく落ち着いてきたのは、凍傷を負ってから約14日後です。その後、通院は2週間に1度になりました。

傷口が落ち着いてくると同時に、根元から爪が剥がれてくるようになりました。最終的にはほとんどの爪が剥がれそうです。

こちらが受傷から約1か月後の右手親指です。いちばん症状が重く、内出血して黒く変色しました。

凍傷 一か月後

指先の皮膚が乾燥して多少つっており、右手の人差し指と中指が受傷前に比べてうまく動かなくなりました。

でも、「時間とともに回復しそう」とのこと。

心配していた後遺症もなく、何より壊死して切断するような大事に至らず、「あぁ~よかった」と胸をなで下ろした瞬間でした。

とはいえ、行動を共にしたものとして、早期に適切な処置ができなかったことを深く反省しています。この経験は、確実に今後に生かしていきたいと思います。

余談ですが、傷口が落ちつくまでは、手を包帯でぐるぐる巻きにされていたので、家事も含めて何もできなかったそうです。その後は爪がはれたこともあって、仕事は約1か月お休み。代償は大きかったです。

 

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後からこのくらいは知っておきたいと思った凍傷の基礎知識

手袋をしたままスノーシューを装着

これまで凍傷は、悪天候やアクシデントによるビバークなどの困難な状況下で負うイメージで、冬期登山のハードルの高さを象徴するトラブルでした。

まさか、国道脇の駐車場で、いとも簡単になるとは。ということで、一気に身近なトラブルになった凍傷について調べてみました。

凍傷とは、体の組織が凍結すること。凍結した深さに応じて、表在性凍傷、深在性凍傷の2つに分類されます。

表在性凍傷は、病変が表皮に留まるか、一部真皮に及ぶ凍傷。皮膚が赤くなったり、浮腫み、腫れ、水疱ができます。適切な治療をすれば、3週間程度で回復します。今回はこのレベルでとどまってくれました。筋肉や骨までに達していなかったのが、不幸中の幸いです。

深在性凍傷は、病変が真皮から皮下組織、骨までに達している状態。皮膚は黒紫色または白い蝋のようになり、そのあと黒く乾性壊死(ミイラ化)します。皮下組織よりも深いダメージを受けた場合は、元に戻らず、切断手術が必要になるこもあります。

山のような低酸素の環境で、低温・強風が加わると、凍傷にかかる危険性は飛躍的に高くなるとのことなので、当然ながら冬山では一層注意が必要です。

とまぁ、後の祭りではありますが、このくらいの知識は持っておくべきでした。

 

 

身近であった登山中の凍傷の原因と予防

 

手袋をしたままメモ

まず最初に、JRO(日本山岳救助機構合同会社)のホームページにある凍傷の解説が、とても分かりやすく参考になるのでご紹介します。

凍傷になりやすい体の部位は、手足の指先、耳や鼻、顔面など。とくに雪山では、濡れた手袋や靴下をつけたまま行動したり、肌の露出部が冷たい風に長 時間さらされたりすることによって起こるケースがほとんどである。靴ひもやアイゼンバンドの締めすぎ、靴のサイズが小さいなどの理由で血行障害が起こって いる場合にもかかりやすい。

もし行動中に手足の指や耳たぶなどが痒くなったりじんじんと痛んできたりしたら、それは凍傷の初期症状だと思っていい。指先を動かす、手でこすってマッサージするなどして血行の促進に努めよう。手袋や靴下が濡れていたら、できるだけ早いタイミングで取り替えたい。

JROによる山の安全講座:救急法「凍傷」より引用

 

周囲に凍傷の経験について聞いてみたら、意外と多かったので驚きました。みなさん積極的に語ろうとしないのは何故でしょう。

聞き取りで見えてきた原因は、大きく3つありました。

  • 肌を露出した
  • 装備が濡れた
  • 血行障害がおきた

事例を紹介しつつ、山で何ができるか考えてみたいと思います。

 

凍傷原因① 肌を露出した

素手になってはいけない。これは冬山の大原則なんですが、今回は駐車場で準備中だったことから油断。このルールから逸脱してしまいました。

手袋をしたままだと、山岳スキーのシールを外したり、ビンディングを装着するような、手先を使う細かい作業が非常にやりにくいんですよね。

でも、そこはぐぐっと我慢。絶対に素手になってはいけません。それが山ではなく駐車場であったとしても。

対策としては、アイゼンやスノーシューなどの道具を手袋したまま扱う練習を徹底的にやるしかありません。

顔も要注意ですね。気温が低いときに風が付くと、あっという間に鼻や頬が痛くなってきます。

今回調べて分かったことですが、これも立派な凍傷の初期症状です。言われてみれば、帰路の車中で体が温まってくる(=凍った細胞が融けてくる)と、痛かゆくなってきます。

顔の凍傷対策には目出し帽が有効です。わたしはネックウォーマーと目出し帽がくっついたタイプを愛用してまして、通常はネックウォーマー状態にしておいて、嫌な感じがしたらすぐに装着するようにしています。

身近では、滑落した際に手袋を無くして凍傷を負い、そこから遭難死亡事故につながったケースがありました。手袋をなくすのは致命的なので、リーシュコードとよばれる流れ止めを付けるようにしたいものです。

 

凍傷原因② 装備が濡れた

装備は濡らさない。濡れたら取り換える。これは季節を問わず重要です。

ある人は、秋の山行で雨に当たり、体は雨具を着ていたので大丈夫だったけれど、手が濡れて凍傷になりました。「冷たい雨は雪より怖い」と言っていたのが印象に残っています。

冬山では、汗をかかないようにペース配分しています。汗で衣類が濡れると、立ち止まったとたん、ものすごい寒さが襲ってくるんですよね。

レイヤーシステム(重ね着)で快適な体温を保つ工夫もしています。冬のアウターには、体温調整のためのベンチレーションが付いているので、汗をかきやすい登りに開けて、休憩時には閉める、といった調整もマメにしています。

凍傷になりやすい手の保護は特に注意していまして、手袋はインナー、アウターともに予備を携帯して、濡れたらすぐに交換するようにしています。

冬山では、手袋は常に数種類、複数枚持ち歩いています。通常は、手袋2枚重ねで、インナーはフリース製グローブ、アウターにはゴア製のペラペラ生地でできたグローブを愛用しています。

極寒のときは、バルカン星人みたいなダウン製の極厚ミトンをアウターにします。細かい作業は一切できませんが、ハイリスクな環境なので、作業性は無視するしかありません。

なにかの拍子に手袋の中に雪が入ることも考えられるので、アウター手袋はどれも手首を絞るドローコード付きを選んでいます。

 

凍傷原因③ 血行障害がおきた

血行障害を起こしても、組織がダメージを受けてしまいます。

よくあるのが、紐の締め付けが強すぎたり、サイズが小さくて圧迫されるケース。

最近では、足の指の付け根が軽度の凍傷になった仲間がいました。どうやら、外反母趾ぎみになっていたところに、山岳スキーのブーツが当たっていたようです。下山後に見せてもらうと、赤く腫れて痛みがあるようでした。

もともとブーツのサイズは合っていたのですが、けっこうハードな運動をする人なので、「だんだんと足が変形したようだ」とのこと。これはレアケースだと思いますが、靴下を替えたり、体重の増加によっても起こりそうです。

昔、友人たちとゲレンデスキーをしていたとき、スキーグローブが濡れたので、代わりにぴっちりしたゴム手袋をしていた友人が凍傷になったことがありました。

ゴム手袋は断熱性がなくて、外気の冷たい温度をダイレクトに伝えてしまうだけでなく、サイズが小さくて血行が悪くなるというダブルパンチ。知識があれば防げた事故なので、今考えると残念です。

 

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山でできるのは予防することだけ

手袋をしたままボードを装着

山で治療するのはほぼ不可能だと思うんですが、どう思いますか?

JRO(日本山岳救助機構合同会社)のホームページにある治療法です。

痛みが消えて感覚がなくなる、皮膚が真っ白になるなど、症状が第Ⅱ度以上になってしまったときは、コッヘルなどに40度前後のお湯を沸かし、患部全 体を浸して温める。温める時間は40~50分。湯の温度を保ちながら温めること。患部は感覚がなくなっているので、火傷しないように注意する。マッサージ は組織を破壊してしまうので行なってはならない。水疱が生じているときは、絶対に破らないように処置を行なうことだ。

JROによる山の安全講座:救急法「凍傷」より引用

 

一度融解した組織は非常にもろくて、動かすことで損傷がひどくなるようですし、融解後にまた凍傷になるのも避けなければいけない。医療従事者でない人には、荷が重い応急措置です。

自分にできるのは予防することだけ。もしも凍傷になってしまったら、凍傷の初期症状を見逃さないようにして、なるべく早く医療機関を受診するのが、現実的だと思っています。

今回は、両手の感覚が無くて、指に血の気も無くなって真っ白になったのが凍傷のサインでした。

その前に、かゆくなったりじんじんと痛むような症状があったと思うんですが、じつはこの程度のことは、北海道では通勤通学、雪遊びでも経験することなので、気に留めない可能性があります。今回も、道具の装着に夢中になるあまり、気づかなかったのかもしれません。

最大限できる予防策を講じて、いかに早期に発見するか。山のトラブルはこれにつきると思います。

 

 

凍傷になりやすい人がいる

氷点下20度の冬山

凍傷になりやすい人っているんですね。

苫小牧東病院のホームページに、こんな記述を見つけました。

なりやすい人は汗かきの人、体格が小さい人、皮下脂肪が少ない人、喫煙者、凍傷に一度なったことのある人だ。

苫小牧東病院による『雪山リスクマネジメント その症状と対策 凍傷』より引用

 

今回凍傷になった仲間は、日頃からランニングなどのトレーニングを欠かず、体を鍛え上げています。皮下脂肪が少なくて、低体温症になりやすい体質もうかがえます。もともと「指先などの末梢部位の血行が悪い」とも言っていました。

日ごろから朝ごはんを食べる習慣がなくて、山行当日の朝食はヨーグルトだけだったのも気になっています。歩きだしてすぐにガタガタ震えていたのは、10人ほどいた山行メンバーのうち、彼だけでした。

食事をすると体温が上がります。とくにご飯やパンなどの炭水化物は、エネルギーを作り出す大切な栄養素なので、不足していたことが少なからず影響したのかもしれません。

そして「一度凍傷になった人はなりやすい」。噂には聞いていましたが、これも本当のようです。

凍傷になった人はみなさんは、口を揃えて「寒くなると凍傷になったところが痛む」と言ってました。それが嫌で冬山に入るのはやめた人もチラホラ。

さらに驚いたことには、会社の同僚が、職場の除雪で毎回凍傷になっていました。

会社の除雪では、30分もすると手の指先が白くなって痛くなり、社屋に撤収。お湯で温めて再開。これを繰り返す。ちなみに、会社は街の中にあるので、気温はそれほど低くなりません。

 

 

凍傷予防を心に刻む

経緯を振り返りつつ、他の人の事例を見てきましたが、凍傷の原因のほとんどがヒューマンエラー、ということがわかりました。言い換えると、注意すればほとんど防げる、ということ。

ただ、なかには体質的に寒さに弱い人がいるようなので、心当たりのある人は、人一倍注意を払い、身を守る対策を講じる必要があると思います。

とにかく凍傷に関しては、凍傷に関する正しい知識を身に付けて、予防に徹することを、心に刻んでおきたいと思っています。

参考
『山の安全講座:救急法 凍傷』JRO
『登山と高所環境の医学』中島道郎
『雪山リスクマネジメント その症状と対策 凍傷』苫小牧東病院

 

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