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死亡例も! マダニが媒介する感染症と予防策

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登山で気を付けたいダニは、布団や衣類などに付着する屋内のダニではなく、屋外にいるマダニです。

日本国内には、命名されているものだけで47種類のマダニが生息するとされ、その多くは春から秋(3月~11月)にかけて活動が活発になります。

「ダニごときで大騒ぎするな」と言っていたのは一昔前まで。最近では、マダニが媒介する感染症の中に、特効薬がなく、重症化すると命を落とす危険性のある感染症が発見されています。

登山をする人は毎回マダニの生息地に入っていくのですから、無防備ではいられません。マダニが媒介する感染症と対策をご紹介します。

 

1. マダニが媒介する恐ろしい感染症

マダニが媒介する感染症には、野兎病、日本紅斑病、ライム病、ボレリア症などがありますが、中でも恐ろしいのがSFTSとダニ媒介性脳炎です。

2011年に中国で発表された比較的新しい感染症であるSFTS(重症熱性血小板減少症候群)は、2013年に日本国内で渡航歴のない人から発見されています。

SFTSウイルスに感染すると、6日~14日間の潜伏期間を経て、発熱、消化器症状(食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛)、神経障害や失語などの神経症状などを起こします。致死率は6.3%~30%。現在のところ有効なワクチンがありません。

ダニ媒介性脳炎は1996年に北海道で1例発生が報告されていただけでしたが、2016年に北海道でヤブの中で作業中にマダニに噛まれた男性がダニ媒介性脳炎を発症。国内で初めての死亡例となりました。

中部ヨーロッパ型とロシア春夏型の2つがあり、いずれも潜伏期間は7~14日間で、頭痛や発熱、筋肉痛などのインフルエンザに似た症状がでます。

致死率は中部ヨーロッパ型で1~5%なのに対し、ロシア春夏型は30%と高くなります。いずれも国内には有効なワクチンや治療法がありません。

2017年に北海道大学の研究グループが札幌市の山林で行った調査では、野ネズミの約1割にダニ媒介性脳炎のウィルスに感染していたことを示す抗体が見つかったと報道されました。

人口の多い都市で見つかったことで、ウイルスが一定程度存在することが分かり、身近なリスクとしてとらえる必要性が出てきています。

出典
国立感染症研究所「ダニ媒介性脳炎とは」
「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)とは」

 

2.もし咬まれたら

素人療法は避けて、すぐに皮膚科を受診しましょう。

マダニは「刺す」のではなく、咬むこと「咬着(こうちゃく)」で吸血しています。3~8mmの体は、吸血して満腹状態になると10~20mm程度の大きさになります。

はさみのような形をした口で皮膚を切り裂き、ギザギザの歯で咬みついた上で、唾液に含まれるセメントのような物質でがっちりと固定。おいそれとは取り除けません。

注意深く頭部をピンセットなどで摘まんで除去する必要があるのですが、素人にはちょっと難しいでしょう。

無理に引き抜こうとすると、頭部や体の一部が体内に残ってしまいます。また、強く摘まむとマダニの体液が逆流して、感染症のリスクを高めてしまいます。

一昔前は「たばこの煙を吹きかける」「お酒で酔わせて落とす」「火で焼く」といった民間療法がおこなわれていました。

そうやって取り除こうとした例をいくつか見てきましたが、成功した試しがありません。無理矢理引っ張ったあげく頭部など体の一部が残り、結局は皮膚科のお世話になっています。

マダニ本体がきれいに取り除けたとしても、発熱、倦怠感、発疹、関節痛、腹痛、下痢の症状が出ないか3週間程度は経過観察します。

症状があれば、すぐに最寄りの内科を受診するようにしましょう。そのときは、マダニに咬まれたことを伝えてください。

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3.マダニから身を守る方法

肌の露出を避ける

長袖・長ズボンを着用します。

感染症は3月から増え始め、6月が最も多くなります。蒸し暑い季節ですが、マダニの危険から身を守るためには長袖・長ズボンが基本です。

シャツの裾はズボンの中に入れ、ズボンの裾は登山用のスパッツで覆います。帽子・手袋を着用し、首回りにはタオルを巻くなどして、徹底的に露出を無くします。

登山用のタイツをズボンの中に履くのもいいでしょう。マダニが付きにくいツルツルした素材の衣服もおすすめです。

②虫避けスプレーを使う

虫よけスプレー 液体タイプ 

襟元や袖口、ズボンの裾など、マダニの侵入口になる場所に虫よけスプレーをかけます。

マダニの忌避効果がある虫よけでは、ディートという成分が含まれているものがよく知られています。

殺虫効果はありませんが、人が皮膚呼吸で出しているCO2を感知して寄ってくる吸血性の害虫の触覚に作用して、CO2を感知しにくくすることで忌避効果を発揮します。

これまで日本で販売されている人体用虫よけ剤では、ディートは医薬品で12%、医薬部外品では10%以下の濃度しか承認されていませんでした。

2017年に入って、池田模範堂からディート濃度30%の高濃度タイプ「ムヒの虫よけムシペールα30」の販売が開始されています。ただし、使用年齢は12歳以上となっていますのでご注意ください。

子どもがいる我が家では、日ごろ公園や庭などで遊ぶときはアロマやハッカなど自然由来成分の虫よけ剤を使用しています。

ですが、山に入るときは別。薬の毒性よりも感染症が怖いですから、ディート成分12%の「ムヒの虫よけムシペールα」を使います。

鼻や口から吸いこんでしまう可能性のあるエアゾールタイプではなく、液体タイプを選んでいます。

基本は服の上からスプレーしていますが、液体タイプのほうが付着性もよいと感じています。

汗や衣類に触れて消失しやすいので成分は数時間で薄くなってしまいますが、毒性を考えると頻繁に使うこともできません。

自宅で塗るのではなく、登山口に着いたら使うといった工夫で、なるべく塗り直しの回数を減らすようにしています。

※12歳未満の小児に使用するときは、厚生労働省ホームページを参考にするといいでしょう。

③物理的に取り除く

休憩や立ち止まったときなど、同行者とお互いの体やザックなどの装備にダニがついていないかをチェックします。

ダニがついていたらすぐに払い落とすなどして取り除きましょう。

④下山後すぐに全身チェック

下山後はすぐに入浴できればべストです。入浴できなくても、衣類や装備を叩いたり、着替えるだけでも違います。

お風呂では、わきの下、足の付け根、手首、膝の裏、胸の下、頭部(髪の毛の中)などを中心に、体をすみずみまでチェックしましょう。

どんなに気を付けていても咬まれることはあるものです。

最近では妻がマダニに咬まれました。山中でザックを這うダニを見たらしく、下山後すぐに子どもの全身をチェック。その後は安心してしまい、自分のことは忘れてしまったそうです。

わきの下に痛痒さを覚えて気づいたのが下山から4日も経ってから。マダニの唾液には麻酔のような物質が含まれているため、咬まれた直後は気づかないことが多いようです。

慌てて受診した皮膚科では皮膚を切開することなく済みましたが、抗生物質など飲み薬を2種類2週間分とステロイド軟こうを処方され、しばらく感染症の経過観察をするよう言われました。

これまでも、車の中に入り込んだマダニが運転中に体を這いあがってきたこともありますし、下山から数日経って自宅内で咬まれたこともあります。

下山後も、しばらくの間は注意が必要です。

 

参考:厚生労働省検疫所

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