北海道の山事情 コラム

エゾ鹿とぶつからないために「知っておくこと」

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エゾシカ

エゾ鹿と車の衝突事故は、北海道で毎年2,000件以上発生しています。車の修理費は平均で48.2万円

登山の移動時間は、エゾ鹿の出没が集中する時間帯と重なります。事故を防ぐ対策をはじめ、万が一事故を起こしたときはどうしたらいいか、自動車保険の注意点などをまとめました。

 

 

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北海道はエゾ鹿と車の事故多発地帯

当サイトの読者はほとんどが道外の方なので、エゾ鹿と聞いてもちょっとピンとこないかもしれません。そんな方のために、北海道で運転する前に知っておいてもらいたい、エゾ鹿との交通事故について書きたいと思います。

北海道に生息する鹿はエゾシカといい、本州以南に生息するニホンジカよりも体が大きいのが特徴です。雄の場合は最大で体長190cm体重150kgに達する国内最大の草食動物です。

それゆえ、衝突したときのダメージは大きくて、車同士の事故と変わりません。一発で廃車になることはよくありますし、人身事故につながることもあります。

トラックがエゾ鹿と衝突し、弾みでエゾ鹿が対向車線を走っていた乗用車のフロントガラスに飛び込み、運転者が亡くなる事故もありました。もらい事故も油断できません。

 

札幌方面が最も多い

北海道地域別エゾシカ事故件数H30

「平成30年中 エゾシカが関係する交通事故発生状況(道内)」(北海道警察)を加工して作成

エゾ鹿が関係する交通事故は年々増加傾向で、平成30年には2,834件発生しています。

地域別では札幌方面が最も多く、釧路方面、旭川方面、北見方面、函館方面と続きます。

エゾシカ侵入防止柵

国道の両側に設置されたエゾシカ侵入防止柵

根室や釧路では、国道の両脇にシカが飛び越えられない高さ2メートル超の侵入防止柵が設置されています。初めて見た人は、何十キロと続くフェンスが、まさかシカ対策だとは思いも寄らないでしょう。

エゾシカ専用入口

エゾシカ侵入防止柵に一定間隔で設置されているエゾ鹿専用入口

フェンスには、所どころにエゾ鹿専用入口が設けられています。遊園地の出入り口にあるような一方通行タイプで、道路からは入ることができても、出られない仕組みです。

整備には相当な額がかかるようで、12km整備するのに2.5憶円という新聞記事を見たときは、思わずのけぞりました。そこまでの費用を投じるほど、シカによる事故の被害は深刻だということの証ですね。

シカ侵入防止柵整備に2.5億円 国交省北海道局
国土交通省北海道局は26日、北海道開発の重要分野の施策に充てる北海道特定特別総合開発事業推進費(得得推進費)として、道路整備事業1件に国費2億5500万円を分配すると発表した。北方領土隣接地域の交通安全対策として国道244号の本別海地区に全長12キロのシカ侵入防止柵を整備する。2017年9月27日北海道新聞

 

事故の傾向はわかりやすい

事故の傾向ははっきりしていて、割と対策が立てやすいです。

 

▼18時~20時が最も多い

事故は夕方から夜間にかけて多く発生しています。18時~20が最も多く、全体の31.4%を占めています。

件数は夕方16時~18時から急増します。この時間は暗闇に目が慣れていない薄暮時です。ましてや、エゾ鹿の毛色は茶色なので草むらや木立の中にいても保護色と化して目立たず、発見が遅れてしまいがちです。

 

▼10月がピーク

事故は10月の発生が最も多く、全体の24.6%を占めています。

エゾ鹿の繁殖期は10月~11月です。車との衝突事故件数も10月~11月がピークで、繁殖期と連動しています。繁殖期には動きが活発になり、行動範囲が広がるため、道路を横断して移動することが多くなります。10月の紅葉時期は要注意ですよ。

 

▼左右の横断が最も多い 

エゾ鹿との衝突事故は、道路を右または左から横断しているときがダントツで多く、全体の89.1%を占めています。

2位が佇立(ちょりつ)。道路上でたたずんでいる状態です。わたしは事故死したエゾ鹿に乗り上げて、車体を損傷させてしまったことがあります。なので、事故のあと道路に倒れたままになっている鹿の二次被害もあなどれない、と付け加えておきたいと思います。

 

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もしもエゾ鹿とぶつかったら、保険はどうなる? 

道路の法面にいるエゾシカ

道路の法面で草を食むエゾシカ。いつ道路に飛び出してきてもおかしくない。

 万が一エゾ鹿とぶつかったら、保険はきくのか、修理にどのくらいかかるか、心配ですよね。

エゾ鹿との事故はほとんどのケースで、ガードレールや電柱に衝突するのと同じ単独事故として扱われます。保険を語るうえでここが重要。

野生動物であるエゾ鹿には、飼育者や所有者がいませんよね(いるわけない)。事故を起こしても法律上の損害賠償責任を求めてくる相手がいないので単独事故扱いになる、というわけです。

 

車が壊れたとき

車の修理には車両保険を使います。ここで注意したいのは、自分の車両保険が「一般型」か「エコノミー型」なのか、ということ。

車対車の事故、危険限定などに補償範囲を限定しているエコノミー型の場合は、単独事故扱いになるエゾ鹿との事故は補償対象外になります。

 自分がどのような車両保険に入っているか、そもそも車両保険に入っているのか、確認してみることをおすすめします。

平成30年度の日本損害保険協会北海道支部調査では、エゾ鹿との衝突事故による車両保険平均支払額は48.2万円でした。

修理費が高額になる理由のひとつとして、ハイブリッドカーや電気自動車が普及し、電装系の進化で部品が高額になっていることがあげられます。

もっとも、修理がきく範囲ならいいほうで、廃車になることも珍しくありません。ところが、わたしの周囲に限って言えば、そこまでのダメージがあるときは「命に関わらなくてよかった」と身代わりになってくれた愛車に感謝する人が多いように感じます。

 

ケガをしたり、避けようとして事故をおこしたとき

では、エゾ鹿とぶつかったことで、自分や同乗者がケガをしたり死亡した場合はどうなるでしょうか。

この場合は、事故を起こした車の傷害保険(人身傷害保険搭乗者傷害保険自損事故傷害特約など)で補償を受けることができます。

これらは事故の相手方の有無にかかわらず補償を受けられる保険なので、単独事故扱いのエゾ鹿との事故であっても、保険金を受け取ることができるのです。

次に、エゾ鹿が道路に飛び出したことが原因でも、それを避けようとしてハンドル操作を誤り、事故を起こしたときはどうなるでしょうか。

この場合は、危険な運転をしたドライバー側に賠償責任が生じる可能性が高くなります。

車やガードレールなどの物であれば対物賠償保険で、人のケガであれば対人賠償保険で補償されます。

エゾ鹿は急に道路に飛び出してくるため、避けようにも避けられないケースが多いのですが、そのような事情は当然ながら考慮してもらえません。

なんにせよ、王道はスピードを出さないこと。ブレーキで回避するのがベストです。

  

車両保険を使ったら3等級下がる

車両保険を使うと翌年から等級が下がります。

事故の内容によって、3等級ダウン事故、1等級ダウン事故、ノーカウント事故の3種類に分類されるんですが、エゾ鹿との衝突事故は自損事故扱いで3等級のダウン!

わたしの例ですと、等級は20等級(事故有係数適用年数0年)で、現在の保険料は63%割引。もしも3等級ダウンするとどうなるか、単純計算すると下記のようになります。

  • 1年後:17等級、38%割引(事故有係数適用)
  • 2年後:18等級、40%割引(事故有係数適用)
  • 3年後:19等級、42%割引(事故有係数適用)
  • 4年後:20等級、63%割引(無事故)

無事故だったとしても、元に戻るのは4年後です。

修理費がわずかなら、車両保険を使うのは得策ではないことが明白です。

事故を起こしたら、まずは車の修理費を修理工場で確認し、同時に車両保険を使った場合の保険料の増額分を保険会社に確認します。

そのうえで、車両保険を使うか、自費で修理するか、慎重に決めましょう。

ここでは触れませんが、古い車なら「修理するか、廃車にするか」という問題も浮上すると思います。

 

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もしもエゾ鹿とぶつかったら、どこに連絡したらいい?

気を付けていても事故が避けられなかった場合は、次の手順で処理します。

警察に連絡する

真っ先にすることは、事故の発生を警察に連絡することです。

ドライバーや同乗者が負傷したり、ガードレールなどを破損させたり、後続車との衝突などが発生したら、それも伝えます。

車両の修理には任意保険を使いますが、それには事故証明が必要になることを念頭に置いておきましょう。

なお、一般的に動物と衝突したら、生きている場合は保護して病院に運ぶのが常識です。

しかしながら、エゾ鹿に関しては危険ですし、何より人間の力で運ぶことなど不可能です。静かに見守るしかありません。

 

道路管理者に連絡する

エゾシカが死んでいたら、道路管理者に連絡します。

便利なのは国土交通省が提供している道路緊急ダイヤル#9910(24時間対応、通話無料)。ここに連絡すると該当する道路管理者につないでくれます。

場所はなるべくピンポイントで場所を伝えると、その後の対応がスムーズです。ただ、土地勘がない場所ではそれも難しいですよね。そんなときは、道路の脇にある距離標を見ると位置が分かります。

車には問題ないからと、横たわるエゾ鹿をそのままにして立ち去るのは絶対にNG!。二次被害を防ぐためにも必ず連絡するようにしてください。

 

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エゾ鹿とぶつからないためには、どうしたらいい?

オスのエゾシカ

立派な角を持つエゾシカ。4本の角枝(3股)あるので4歳以上であることがわかる。 こんな角がフロントガラスを突き破ってきたら、ひとたまりもない。

事故を防ぐにはエゾ鹿の習性を知っておくことが重要だと言われています。実際に地元の人間も、これから紹介することを頭に叩き込んで運転しています。

 

10月から11月は事故が多い

エゾ鹿事故が最も多いのは10月。年間発生件数の45%以上が10月から11月にかけて発生しています。

10月から11月はエゾ鹿の繁殖期です。オスは数頭から数十頭のメスを従えて、ハーレムを形成。行動が活発になり行動範囲も広がります。そのあとは秋の移動期で、夏の生息地から雪の少ない冬の越冬地へと移動を開始します。

このような行動パターンにより、10月から11月にかけてエゾ鹿の交通事故が多くなるのです。

 

16時から24時は事故が多い

エゾ鹿事故の70%以上が16時から24時の間に発生。とくに多いのは18時~20時です。

エゾ鹿の出没は早朝と夕方に集中しています。にもかかわらず、夕暮れ時から事故が多くなるのは、エゾ鹿を認識するのが困難になるからでしょう。闇に紛れてしまえば、ヘッドライトで光る目だけが唯一の手がかりです。

登山者は、早朝に登山口へ向かい夕方下山して帰路につきます。エゾ鹿の出没時間帯とぴったり重なりますから、十分気を付けて運転しましょう。

 

エゾ鹿は素早い動きが苦手

草原を華麗に飛び跳ねる姿からは想像できないかもしれませんが、道路上では素早い動きが苦手です。

エゾ鹿には(ひづめ)があります。そのため、コンクリートやアスファルトの路面と相性が悪く、滑る転ぶは日常茶飯事。

車に驚いて茫然と立ちすくんだり、立ち去ったのに戻ってきたりと、予期せぬ動きをすることもあります。

だから、こちら側もスピードを落としたり、時には停車して、エゾ鹿が落ち着きを取り戻して立ち去るまで見届けてあげましょう。

 

1頭飛び出したら次々飛び出す

エゾ鹿は、1頭が道路に飛び出したら次々と続きます。個人的な感覚では、ほぼ100%の確率です。

エゾ鹿のメスは家族で群れを作り、オスは単独で生息していますが、繁殖期に入るとハーレムを形成します。

だから、エゾ鹿は群れで移動すると考えて、1頭飛び出したら次々飛び出すもの、と身構えていたほうが安全です。

1頭目をやり過ごしても油断せず、次に続く鹿がいないか飛び出し地点を確認しながら、ゆっくりと走行しましょう。

 

夜はヘッドライトで目を光らせて早めに発見

シカの目はヘッドライトが反射して光ります。

エゾ鹿の毛色は、夏は茶色、冬は灰褐色で、森や林の中にいても保護色になって目立ちません。夜になれば完全に闇に紛れます。

ヘッドライトで目を反射させ、できるだけ早く発見するのがコツ。というか、夜に関してはそれが唯一の手掛かりです。

ヘッドライトはなるべくハイビームにして上向きにしましょう。ハイビームは郊外で使う印象がありますが、エゾ鹿は住宅街にも出没します。臨機応変に対応してくださいね。

 

 

事故防止の基本はスピードダウン

鹿飛び出し注意看板

とどのつまり、スピードは出さないに限ります。ありきたりの結論で申し訳ありませんが、これが王道です。

スピードが出ていなければ、ブレーキで回避できることが多くなります。急ハンドルを切ったり急ブレーキをかけて、リスクを冒すこともない。鹿にも人間にもそれがベスト。

鹿の通り道ってあるんです。よく飛び出だしてくるので、祈るような気持ちで通過するポイントが。

山でも登山道と間違えるような立派な獣道を見かけますが、けっこうルートが決まってるんでしょうね。歩きやすい道とか、お気に入りの道とか。

そいうところにはたいていシカ飛び出し注意の看板がありますから、見たら即スピードダウンしましょう。

体重が150kgにもなるオスの場合、スピードが出ている車と衝突したときの衝撃は大きく、車対車の事故と変わりありません。

事故を避けることができなくても、安全運転していたら確実にダメージを軽減することができます。

北海道内には推定66万頭(平成30年度)が生息しているそうです。ピーク時(23年度)から11万頭減少しているものの、旺盛な繁殖力に対応が追い付いていません。

北海道で運転する際はくれぐれもご注意ください。

 

参考
「エゾシカ衝突事故マップ」北海道開発局釧路開発建設部
「平成30年 エゾシカが関係する交通事故発生状況」北海道環境生活部環境局生物多様性保全課エゾシカ対策グループ
「平成30年中 エゾシカが関係する交通事故発生状況(道内)」北海道警察
「エゾシカとの衝突による保険事故発生状況(2018年)」日本損害保険協会北海道支部
「平成30年度のエゾシカ推定生息数について」北海道環境生活部環境局生物多様性保全課

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