装備 北海道の山事情

北海道に行く前に知っておきたい、夏山登山の寝袋(シュラフ)の選び方まとめ

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寝袋3種類

「北海道に縦走に行くのだけど、どんな寝袋(シュラフ)を持っていくといいのかわからない!」という方、多いですよね。

「夏なのに?!」と驚くかもしれませんが、北海道の夏山で使用するなら、限界(リミット)温度-6℃の寝袋(シュラフ)が必要です。

 寝袋(シュラフ)に関する基本的な知識から、北海道ならではの山事情も含めて、選び方をわかりやすく説明してみたいと思います。

 まだ寝袋は1つも持っていない…という方は、これを機会にじっくり検討して、失敗しないように選んでくださいね。

 

 

1.「快適温度」と「限界温度」を知っておこう

寝袋を選ぶときもっとも重要なのが寝袋の「使用温度」です。その温度には「快適温度」と「限界温度」の2種類があることをご存じでしょうか?

・快適温度:しっかり眠れて疲れがとれる温度

・限界温度:文字通りなんとか寝れる限界ギリギリの温度

日ごろから耐寒訓練をしている人ならいざ知らず、一般登山者が限界温度帯で使用すると、寒さに凍えながらもうつらうつら寝て朝を迎えることができる感じです。修行でもあるまいし、何もわざわざ山の上で限界温度に挑む必要はありません。

 「快適温度」とは、限界温度の+5~+10℃が目安だとされています。寝袋を購入するときは、山の上でしっかり睡眠がとれるように快適温度を基準に選ぶことです。

 ただし、よく検討したうえで購入したのに、いざ使用してみると不満の残る結果になるケースが多いのも事実です。(妻もそのひとりです)

 温度の感じ方には個人差が大きく、また、使用する環境によってかなり異なるという点で、メーカーのスペックを鵜呑みにするのは危険でしょう。

 暑いときは寝袋から飛び出せば済みますが、寒いときはできることに限界があります。失敗しないためには、この程度で大丈夫と思う温度より、もう1段階低い快適温度の寝袋を購入することをおすすめします。

 

注意! 表記がまちまち

ISUKA エア450 寝袋

メーカーが独自基準に基づいて表記をしているのも、分かりにくさに追い打ちをかけています。

 国内メーカーのISUKA(イスカ)の場合は、温度表示が1つしかありません。

温度表示は「最低使用可能温度」とお考えください。これは、季節に応じた一般的な山用の服装を前提に、表示の温度域まではご使用いただけるという目安です。したがって、いわゆる「快適使用温度」とは、表示温度におおむね5~10℃をプラスした温度域となります。

ISUKA「FAQ/よくあるご質問」より引用しました

 「-6℃」と表示されているなら、最低使用可能温度が-6℃で、目安として-1℃~+4℃程度なら快適に眠ることができる寝袋だということになります。

 一方、国内メーカーのNANGAは、EU諸国の統一規格「EN(ヨーロピアン・ノーム)」基準を採用しています。

 これまでメーカー独自の方法で算出されていた使用温度を、第三者機関で公平に検査してEU内で同一基準で示すというもの。表示には、コンフォート(快適温度)、リミット(下限温度)、エクストリーム(限界温度)の3つがあります。

 このように、メーカーによって採用している基準も表記もまちまちです。とはいえ、メーカー独自であろうが、EU基準であろうが、押さえておくべきなのは「快適温度」と「限界温度」だということには変わりありません。

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2.北海道ではテント泊での使用が前提

トムラウシ山南沼キャンプ指定地

北海道の夏山で使う寝袋は、テント泊での使用を前提にして選ぶ必要があり、ここが本州の山中泊と大きく違う点です。

 北海道には、本州にあるような寝泊まりができる山小屋は数えるほどしかありません。避難小屋はありますが、名前の通り避難する場所であって、本来は宿泊を目的にする場所ではありません。

 屋根や壁に囲まれた山小屋で寝るのと、布を隔てただけで外気の温度がダイレクトに伝わるテントで寝るのでは、寒さの感じ方が違ってくるのは容易に想像できるでしょう。

 テントはいわば断熱材の入っていない家。外気温の影響を直接受けます。夕食時にストーブを使えば温まりますが、ストーブを消してしまえば温度を保つことができません。

 というわけで、北海道の夏山で使用する寝袋の対応温度は「外気温」そのもので考えます。

 具体的にみてみましょう。

 たとえばトムラウシ山(2141m)。気象サイトのデータでは、トムラウシ山頂付近の7月の気温は、最低気温が4.5℃、平均気温8.9℃、最高気温が12.1℃となっています。

山頂から少し下った標高1950mの南沼キャンプ指定地でテント泊するなら、山頂付近と気温はさほど変わらないと考えていいでしょう。ここで快適に眠れる寝袋は、「快適温度が4℃、限界温度が-6℃」ということになります。

 同じく7月の白雲岳避難小屋キャンプ地(標高1990m)をみてみると、最低気温5.6℃、平均気温が10.1℃、最高気温13.3℃となっています。ここでテント泊するなら「快適温度が5℃、限界温度が-5℃」が目安になります。

この温度帯が、北海道の夏山用寝袋の標準値といえるでしょう。

参考までに、温度表記が1つだけのISUKAから選ぶ場合は「-5℃もしくは-6℃」の寝袋を選ぶことになります。まさか夏山にマイナス・スペックの寝袋が必要になるとは、多くの人が思いもよらないでしょうね…。

 

3.使用条件で快適温度は変わる

山岳テント 8人用

快適に眠れる温度は、寝袋を使用する環境などによっても変わってきます。

 

気象要因で変わる

気温はもちろんですが、風でもテント内の気温が変わってきます。

 風が強ければテント内に隙間風が入ってきます。風によってテントとフライシートが密着して空気の層がなくなれば、熱伝導で外の冷気がダイレクトに伝わります。

 

使用人数で変わる

テントで寝泊まりする人数が多いと、人が体から発する熱で暖かくなります。体温ってバカにできないと実感するのがテント泊です。

 もっとも寒いのがソロテント。小さなテントに1人で寝泊まりすることほど寒いものはありません。

 

寝る位置で変わる

テント内のどこに寝るかでに、寒さの感じ方が違ってきます。

 いちばん暖かい場所は真ん中。寒がりな人は、人に挟まれて寝るポジションを狙うことです。寒いのはテント生地に接して冷気がもろに伝わる隅っこと、人の出入りがある入口付近です。

 

男女差で変わる

女性は男性に比べて寒さに弱い傾向があります。熱を生み出すのは筋肉なので、筋肉量の少ない女性は体が冷えやすく寒さを感じやすいのです。

 EUの統一規格EN(ヨーロピアン・ノーム)では、一般的な成人女子が寒さを感じることなく寝ることができる温度域を、男性より約5℃高く算出しています。

 

ここでは詳しく触れませんが、シュラフカバーの有無でも変わります。北海道の夏山ではシュラフカバーは必須ですから、シュラフカバーの役割についてご存じない方はこちらの記事もご覧ください。

山の上でテント
北海道の夏山には、防水性と保温性の2つ理由でシュラフカバーが必要です

シュラフカバーは「あるといい」程度に思っていませんか? かさ張って重いので、荷物を軽量化しようとすると、真っ先に必要性が疑問視される存在になっていないでしょうか? 北海道では、必要性を論じる段階を通り ...

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4.おすすめ寝袋(シュラフ)

北海道の夏山シーズンにおすすめの寝袋を選びました。とも3シーズンモデルです。日本のブランドですから、品質は間違いありません。

 

【ISUKA】

わたしが使用しているISUKAエア450の現行モデル「エア450Xレギュラー」です。限界温度が-6℃、3シーズン対応型。北海道の夏山で使う代表的なモデルです。  汎用性が高く、北海道の夏山からファミリーキャンプまで、これひとつでまかなっています。

 

【NANGA】

こちらはシュラフカバーのいらない寝袋、NANGA(ナンガ)オーロラライト450DXです。快適使用温度は0℃、使用可能限界温度は-5℃。シュラフカバー込みの値段と思えばコスパ良し。軽量化にもつながります。

 

 

5.失敗したシュラフ選び例

最後に、シュラフ選びに失敗した例を。

妻が購入したアメリカのメーカー「ウエスタン・マウンテニアリング」のエクストリームライトです。使用温度は0℃となっているので、快適温度は10℃くらいでしょうか。

ウェスタン・マウンテニアリングの寝袋

 北海道の2000メートル級の山でテント泊するために買いに行き、スポーツ用品店の店員に相談の上で購入したにも関わらず、いざ使ってみたら残念な結果になった品です。

 失敗の原因は、妻に「使用温度=寝ることができる温度」くらいの知識しかなかったこと。「大丈夫」とお墨付きをくれた店員が男性だったこと。そしてその店員のテント泊経験も怪しいと思われること。

 妻はこの寝袋でソロテント泊して、使用温度は「なんとか朝を迎えることができる温度」と言い換えてもいいと身をもって知ったとのこと。

持参した全ての衣類を着こみ、使い捨てカイロを貼りまくって、荷物を全部出した縦走用ザックに下半身を突っ込み、ようやく寝ることができたとか。

そんなわけで、現在はファミリーキャンプで使うほかはほとんどお蔵入り。他の寝袋と重ねて(レイヤリング)使用するときのインナーシュラフに使えるということで、かろうじて手放さずにいます。

 

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