日本百名山として広く知られる雌阿寒岳登山ルートには、野中(雌阿寒)温泉コース、オンネトーコース、阿寒湖畔コースの3つがあります。
火山らしさを存分に味わうなら「阿寒湖畔コース」がおすすめです。
阿寒湖畔コースの存在を知らない、聞いたことはあるが詳しく知らない、興味がある、という人のために、見どころや注意点などをまとめました。
Contents
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雌阿寒岳「阿寒湖畔コース」とは
阿寒摩周国立公園内の原始の森にたたずむ雌阿寒岳を、阿寒湖畔側から登るのがこれから紹介する阿寒湖畔コース。
ひと言で表現するなら、火山体を行くコースです。
雌阿寒岳は、中マチネシリ・ポンマチネシリ・阿寒富士・南岳・西岳・北山・東岳・1,042m山の8つの火山体に分かれています。
阿寒湖畔コースは、1,042m山と剣ヶ峰(マチネシリ)の山腹を巻きながら、中マチネシリ火口の縁を通り、ポンマチネシリ(雌阿寒岳頂上)に到達します。
途中で南岳と東岳、阿寒富士を望むこともできて、火山が作りだした景観を存分に堪能することが可能です。
昭和34年(1959年)に「日本百名山」の著者である深田久弥が阿寒湖温泉を訪れたときは、噴火のため雌阿寒岳登山は禁止されていました。
仕方なく雄阿寒岳と雌阿寒岳の両方に登る予定を変更し、雄阿寒岳のみ登っています。
そのとき深田久弥が登ろうとしたのがこのコース。
「日本百名山」のなかで「距離が長い代わりになだらかで、散策的登山ができる」と紹介されています。
由緒あるコースですが、近年ここを利用する登山者は、雌阿寒岳登山者全体の1割にも満たないという調査結果が出ています。
登山ガイドブックの中には阿寒湖畔コースを掲載していないものもあるほどで、存在を知らない人も多いようです。
百名山の頂上を踏んだという実績作りが目的ならいざ知らず、久弥が登ることを切望した雌阿寒岳の魅力を体感したいなら、阿寒湖畔コースから登るのが正攻法でしょう。
月面世界のような非日常的景観の中を、散策気分で歩く贅沢を味わってください。
雌阿寒岳「阿寒湖畔コース」基本データ
標高 | 1,499m |
標高差 | 700m |
距離 | 6km |
山頂までの標準タイム(休憩含まず) | 登り:2時間40分/下り:2時間 |
難易度 | 初級 |
水場 | なし |
山小屋 | なし |
駐車場 | 登山口に5~6台の駐車スペース有り |
トイレ | なし 山中では携帯トイレを使用すること(携帯トイレブース無し) |
山開き日程 | 通年で登山可能なため「山開き」はありません |
林道 | 国道240号線の「雌阿寒岳登山口」看板を目印に、フレベツ白水林道へ入ります。林道が分岐する地点が登山口です。 |
問合せ先 | 阿寒観光協会 0154-67-3200 |
通年で登山可能ですが、例年10月上旬には初冠雪が観測されますから、夏山登山に適した時期は5月下旬~9月いっぱいが目安でしょう。
ただし、年によっては上記の期間でも、残雪が多くて滑落や道迷いリスクが高くなっていることがあります。
その場合は、アイゼンなどの冬山装備が必要になり、難易度が格段にアップしますので注意が必要です。
雌阿寒岳「阿寒湖畔コース」参考ガイドタイム
【登り】2:40
登山口 ⇒ 剣ヶ峰コル 2:00
剣ヶ峰コル ⇒ 山頂 0:40
【下り】2:00
山頂 ⇒ 剣ヶ峰コル 0:30
剣ヶ峰コル ⇒ 登山口 1:30
※休憩は含みません
雌阿寒岳「阿寒湖畔コース」ガイド
林道の分岐にある駐車スペースに車を停め、林道をさらに1kmほど進むと登山道に入って行きます。
針葉樹の純林の登山道から、やがてハイマツ帯に。ジグを切って登ります。
右手に沢地形を見ながら進むと、噴気口が現れ、硫黄臭が漂ってきます。
1/25000地図には温泉マークがついています。
硫黄が付着した斜面
やがて剣ヶ峰が見えてきます。
次第に岩が露出し、荒涼とした火山体の景観が広がってきます。
同時に、高山植物が現れてきます。
後方にあるのは剣ヶ峰です。
左に広がるのは、約13,000年前の火砕流噴出で形勢された直径1.1kmの広く浅い火口「中マチネシリ火口」。
古くから硫黄の採掘が行われていた場所です。
オンネトーコースと合流したら、もう一息。
左手に約1,000~2,500年前に形成された阿寒富士。
眼下に赤茶色の台地との対比が美しい青沼を望みながら、ポンマチネシリ火口の外輪山の縁を登ります。
約3,000~7,000年前に形成されたポンマチンネシリの山頂が、雌阿寒岳の頂上です。
全体的にコースは登り易く、危険個所は特にありません。
ただし、剣ヶ峰付近でハイマツ帯から抜けると砂礫地帯となり、登山道が不明瞭になります。
ガスがかかれば周囲の様子は一変。
目標物になるものが乏しく、道迷いの危険がありますので、地図とコンパスで方向を確認し、慎重に行動するようにしてください。
気温と服装
気象庁ホームページにあるデータを元に、雌阿寒岳山頂付近の気温を計算してみます。
ふもとの阿寒湖畔にある観測所で観測された2017年の気温です。
6月 | 7月 | 8月 | 9月 | |
最高気温 | 30.1℃ | 34.9℃ | 27.9℃ | 24.9℃ |
平均気温 | 12.4℃ | 20.0℃ | 17.0℃ | 13.0℃ |
最低気温 | -1.1℃ | 10.9℃ | 9.7℃ | -0.5℃ |
気象庁ホームページ「阿寒湖畔 2017年(月ごとの値)主な要素」より
雌阿寒岳山頂(1,499m)と観測所(標高450m)の標高差は1,049m。
理論的には、標高が100m高くなると気温は0.6℃下がりますから、阿寒湖畔で観測された気温から6℃引くと、山頂の気温を推定することができます。
山頂付近の平均気温推定値は、6月6.4℃、7月14℃、8月11℃、9月7.0℃。
6月、9月にマイナス気温が観測されたときは、山頂では真冬並みの気温になっていたと思われます。
暑さより、寒さの心配をすべきですね。
夏山シーズン中も、フリースやダウンなどの防寒着は必ず持ち歩きましょう。
晴れていたとしても、雨具は防風対策として必要です。
なお、計算した数値は、参考にはなってもそのまま当てはめることはできません。
というのも、ここに山岳地形特有の強風や天候の急変などが加わるからです。
もっとも過酷な環境や状況を想定した服装・装備で入山してください。
雌阿寒岳「阿寒湖畔コース」の注意点
阿寒湖畔コースを楽しむために、押さえておきたい注意点を3つに絞って紹介します。
道迷い
剣ヶ峰付近から山頂までは、踏み跡が薄っすらと付いている程度のガレ場が続き、目ぼしい目標物がありません。
現在地や進行方向を割り出すには、尾根や沢などの地形だけが頼り。
天気の良いときは何ら問題ありませんが、ひとたびガスがかかって景色が見えなくなれば、頼みの綱の地形も見えなくなります。
道迷いしないように、地図とコンパスによる読図はしっかりしましょう。
風が強い
風を防いでくれる樹林帯を抜ける剣ヶ峰付近から先は、吹きさらしの稜線を歩きます。
山でもっとも恐ろしいのは風。体温を急速に奪います。
北海道では、夏山でも低体温症による遭難事故が発生しています。
阿寒湖畔コースは半分以上が稜線歩きですから、防風・防寒対策をしっかりするようにしましょう。
季節や天候に関わらず、雨具と防寒着は常に持ち歩いてください。
ヒグマ
北海道では、どんな山でもヒグマ対策は必須です。
特に阿寒湖畔コースは登山者が少ないコースですから、より一層注意深くなる必要があります。
熊よけスプレーは取扱いが難しいため、安易に携帯することは避けたほうがいいと思います。
まずは出くわさないようにすることが先決。
熊鈴をつける、ガスがかかったり樹林帯で見通しが悪いときはホイッスルを吹くなどして、接触を未然に防ぐ工夫をしてください。
火山情報
雌阿寒岳では、ポンマチネシリ火口周辺の火山活動が継続中です。
まぎれもなく、ここは「火山」。
2018年11月23日には火山性地震が頻発したことから、火口周辺警報が火口から約500メートル以内の立ち入りを規制する「噴火警戒レベル2」に引き上げられました。(同年12月21日、1に引き下げ)
今後も、いつ火山ガスや火山灰の噴出が突発的に発生してもおかしくありません。
火山情報は気象庁のホームページにある「火山登山者向けの情報提供ページ」より確認できます。
登る前は必ず最新情報を確認しましょう。
万が一、自分が登っているときに火山活動が活発になったら?
・・・考えただけでゾッとしますよね。
もしものときのために、噴火速報を受信できるスマホアプリをインストールしておくことをおすすめします。
何社か提供していますが、わたしが利用しているのは、日本気象株式会社の無料アプリ「噴火速報アラート」です。
自動でお知らせしてくれる「プッシュ通知」なので、スマホを取り出して自分から情報を取りに行く必要がありません。
緊急時はいかに早く情報を入手し、身の安全を図るかが重要です。
活用してみてください。
ここまで、雌阿寒岳「阿寒湖畔コース」を紹介しました。
興味をもたれた方は、ぜひ次回の雌阿寒岳登山の候補として検討してみてください。
記事中のコースの難易度や標準タイムは、こちらのガイドブックを参考にしています。北海道の山の定番とも言えるガイドブックで、信頼性は抜群です。