単独登山は危険だと知っていても、一人で登る人は後を絶ちません。
なぜダメなのか。それは、アクシデントが起きたとき助けを呼ぼうにも呼べないからです。そのため、死亡や行方不明などの重大事故につながる危険性が高くなるのです。
ひとりで登る人にはふたつのタイプがいます。登山仲間がいない、もしくは仲間と休みが合わないなどで、仕方なく単独で登るタイプ。もうひとつは、気ままで自由度が高いからあえて一人で登るタイプです。
世界の高峰に挑戦するアルピニストのように、日ごろから入念なトレーニングを積んでいる人なら話は別ですが、初心者には単独という選択肢は初めからないものと思いましょう。
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単独登山の遭難は複数より深刻
警察庁の令和5年山岳遭難統計では、単独登山における死者・行方不明者は単独遭難者の14.4%を占め、複数(2人以上)登山における遭難者の割合(6.1%)と比較すると8.3ポイント多いと報告されています。(出典:「令和5年における山岳遭難の概況」警察庁)
単独登山が危険だと言われるのは、何かアクシデントがあったとき助けを呼ぶことができないからです。そのため、死亡や行方不明などの重大事故をまねくことになり、とても危険です。
身近で実際にあった例です。
水枯れした沢を下山中、1名が2メートルほどの落差を滑るように落ちました。頭部から出血。意識ははっきりして受け答えはできるものの、体が動かない上に手足にしびれを感じていました。
携帯電話は圏外、無線も通じません。ここでパーティーは、救助要請のために下山するグループと負傷者に付き添うグループの2つに分かれます。
登山口に到着した救助要請グループは、携帯電話が通じるところまでさらに車で20分移動し、地元消防署を通じて道警に救助を要請しました。
ヘリが現場上空に到着したのは救助要請から2時間後。GPSによる計測で位置を正確に伝えていたので、すぐに負傷者を発見。ピンポイントで降下しています。
救助隊員による処置が終わり、負傷者を乗せたヘリが医療機関に向かったときには、事故から約3時間30分が経過していました。
その間、付き添いグループは何をしていたのかというと、出血に対する応急措置を行ったあとは安全な場所に移動し、レスキューシートなどで保温しています。
水分補給、定期的に脈や体温の確認、励まし、焚き火をして暖をとらせ(※緊急時のため)、ヘリに対する位置表示も行いました。
これがあなたが単独登山中に起きた事故だったらどうでしょう? ケガをして動けないあなたを誰かが発見してくれることを、ただ祈るしかありません。
運よく見つけてもらったとしましょう。でも、発見してくれた人があなたのような単独登山者だったら、救助を要請するために立ち去ることになります。付き添いもなく、たった独り山の中に残されてしまいます。
救助を待っている間にも、出血がひどくなったり低体温症になるなどして、生命に危険が及ぶ可能性もあります。
ヘリは動けないあなたをすぐに見つけることができないかもしれません。医療機関に収容されるまで時間がかかることを覚悟しなければなりません。
お判りいただけたでしょうか。
単独登山で遭難すると、迅速な救助ができず、死亡や行方不明などの重大事故をまねくリスクが格段に高くなるのです。
悪いように考えすぎだと思われるかもしれませんが、「山では臆病なくらい慎重になれ」とは先人の言葉です。
ツアー登山
気の合う友人や家族、信頼できるリーダーを中心としたグループで登るのがベストですが、一緒に登る仲間がいないなら、ツアー登山やガイド登山を利用するのもいいでしょう。
ツアー登山には旅行代理店や登山用品店が募集するもの、登山学校スタイルや地元山岳会の募集登山会などいろんな形態があります。一般的に大人数になることが多く、複数名の引率者が同行します。
バスで登山口まで連れて行ってくれますし、チケットや宿泊の手配などの細々としたこともやってくれます。
土地勘のない地域ではとても心強く感じるでしょう。他の人と一緒に登る安心感もあります。
登山を満喫できるように至れり尽くせりのもてなしをしてくれる、といっても過言ではありません。
デメリットは、人に合わせないといけないということ。人のペースに合わせて登るのは意外と難しく、初心者には足手まといになるのでは?と精神的負担になることもあります。
また、初めての人ばかりで信頼関係がないなか、トラブルや困難に遭遇したときの意思疎通が難しいこともあげられます。
2009年7月のトムラウシ山大量遭難事故では、ガイド自らが低体温症になりツアー客を引率することが不可能になりました。
ツアー登山に慣れ切って、登山は何もかもお任せして連れて行ってもらうものという認識でいると、もしものときのリスクは大きいといえます。
ガイド登山
プロのガイドが引率してくれる登山です。クライアントの年齢や体力、経験に合わせたオーダーメイドが可能です。
経験豊かなガイドであれば、地形や気象、花や鳥などの知識も豊富で、山の世界を各段に広げてくれます。間近でプロの技術を学ぶことができるのも、ガイド登山の楽しみのひとつです。
デメリットは高額だということ。高額な料金を支払っても、参加者の実力が不十分だったり天候が悪ければ途中で引き返すことがあります。人間ですから相性の良し悪しもあります。
プロガイドをしている知人は、80代の方を北海道の日本百名山トムラウシ山へ案内したことがあります。
休憩なしのタイム換算で往復10時間ほどのコースを日帰りする計画でしたが、年齢的なことを考慮してテント泊装備を準備し、全ての荷物をガイドである知人が背負いました。
無事登頂したあと、やはり疲れが見られたことから無理をせず、テント泊して翌朝下山しています。
距離は長いし急登やガレ場もある難関の山ですから、通常なら高齢の方にはおすすめできません。優れたガイドとの出会いは不可能を可能にすることもあると感じた一件です。
このように、ちょっと背伸びしないと行けない山など、ここぞというときはプロの力を借りるのもひとつだと思います。
参考:公益社団法人日本山岳ガイド協会が運営するサイト「コンパス」では、日本山岳ガイド協会認定ガイドの検索ができます。