日本百名山「阿寒岳」は一般的に雌阿寒岳を指すとされていますが、著者の深田久弥が実際に登ったのは雄阿寒岳。
高さでは雌阿寒岳に劣るものの、標高差は雄阿寒岳のほうが大きく、難易度は中級の登りごたえのある山です。
頂上に立てば、阿寒湖をはじめとする悠久の大自然がご褒美のごとく眼下に広がります。
雄阿寒岳の登山ルートや見どころ、登山口や駐車場情報、天気や服装などの注意点をまとめて紹介します。
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雄阿寒岳(1370.4m)
北海道釧路市の北に位置する雄阿寒岳は、
成層火山特有の円錐形が美しい、阿寒のシンボル的な存在です。
日本百名山として知られている雌阿寒岳は、なだらかで女性的な印象からアイヌ語で「マチネシリ=女山」。
それに対して、雄阿寒岳はすっくとそびえる雄姿から「ピンネシリ=男山」と言われています。
登山コースは、阿寒湖東端の付け根からスタートする「阿寒湖畔コース」の1つのみ。
阿寒湖温泉街近郊のバス停「滝口」にある登山口からスタートして、太郎湖、次郎湖の脇を通り、トドマツやエゾマツ、ダケカンバなどの針葉樹と広葉樹が混ざった針広混交林を奥深く分け入りながら登ります。
頂上からは、阿寒湖の反対側にある一般の人は立ち入ることができないペンケトー、パンケトーの全貌を望み、屈斜路湖や遠くに斜里岳や知床の山並みが見え、ひがし北海道の最高の景観をほしいままにできます。
日本百名山に選定されている「阿寒岳」は、一般的に雌阿寒岳を指すとされていますが、著者の深田久弥が登ったのは雄阿寒岳だったのはご存じでしょうか。
久弥が阿寒湖畔を訪れたのは1959年のこと。そのとき雌阿寒岳は火山活動が活発で入山禁止だっため、予定を変更して雄阿寒岳に登ったのです。
久弥が登ったのは旧道のオクルシュベコースで、現在は廃道です。
オクルシュベコースは、阿寒湖畔コースより距離は長いものの傾斜が緩やかで20分~30分の時間短縮になり、ルートも分かり易いことから、現在も冬期登山での利用がわずかにあります。
過去に地元山岳関係者による旧道の復活を求める動きがありましたが、民有地が含まれていることもあって課題が多く、実現には至っていません。
雄阿寒岳「阿寒湖畔コース」基本データ
標高 | 1370.4m |
標高差 | 950m |
距離 | 約6.2km(片道) |
山頂までの標準タイム(休憩含まず) | 登り:3時間20分/下り:2時間10分 |
難易度 | 中級 |
水場 | なし |
山小屋 | なし |
駐車場 | 登山口に約10台の駐車スペース有り。 国道240号を約500m釧路方面に向かうと滝見橋駐車場があり、乗用車20台、大型2台分の駐車が可能です。 ※車上狙いが多発していますのでご注意ください |
トイレ | 登山口に公衆トイレあり。 山中では携帯トイレを使用しましょう。携帯トイレブースは設置されていません。 |
山開き日程 | 6月中旬の日曜日 |
登山口までのアクセス | 国道240号線を阿寒湖畔より釧路方面へ進むと、バス停「滝口」があります。登山口はここからほんの少し林道を入ったところです。 |
問合せ先 | 阿寒観光協会 0154-67-3200 |
例年、雌阿寒岳オンネトーコースの安全祈願祭に遅れること2週間くらいで、雄阿寒岳山開きが行われます。
標高は雌阿寒岳(1,499m)より低いものの、難易度が初級で初心者向けの雌阿寒岳に対し、雄阿寒岳は中級。
高度な山岳技術が求められる険しい山ではありませんが、やや経験と体力が必要です。
雄阿寒岳「阿寒湖畔コース」参考ガイドタイム
【登り】3:20
登山口 ⇒ 太郎湖 0:10
太郎湖 ⇒ 次郎湖 0:10
次郎湖 ⇒ 3合目 1:10
3合目 ⇒ 5合目 1:00
5合目 ⇒ 7合目 0:30
7合目 ⇒ 山頂 0:20
【下り】2:10
山頂 ⇒ 7合目 0:10
7合目 ⇒ 5合目 0:20
5合目 ⇒ 3合目 0:40
3合目 ⇒ 次郎湖 0:40
次郎湖 ⇒ 登山口 0:20
※休憩は含みません
雄阿寒岳 登山ルートガイド
登山口の滝口は、阿寒湖から阿寒川への源流部です。
阿寒川の流れを調整する水門の上を通ります。
程なくして太郎湖に到着。ここには阿寒湖の湖水が流れ込み、鯉などの淡水魚が生息しています。
左に大きく折れて、ひっそりとたたずむ次郎湖の脇を通過してゆきます。
2016年8月の台風による倒木が登山道をふさぎ、またいだり潜ったりと、息を弾ませながら高度を稼ぎます。
登山道からは鹿が作った獣道(鹿道)が複数枝分かれして伸びています。
道迷いしやすいので注意しましょう。
雄阿寒岳のような成層火山は、山頂近くまで同じような勾配の単調な登りが続きます。
木々に囲まれて視界が利かないことも加わって、登りの辛さが応えます。
3合目付近から5合目までは、雄阿寒岳いちばんの難所といってもいいかもしれません。
ジグを切って登り4合目付近まで来ると、うっそうとして光がほとんど差し込まない樹林帯から抜けて、少しずつ視界が開けてきます。
1194m地点にある5合目付近からハイマツ帯になり、ようやく展望を遮るものがなくなります。
「え、まだ5合目?!」と、多くの人が絶望的な気分を味わうのがここ5合目。
実は、雄阿寒岳の標識は間隔がおかしいことで有名なのです。
標識に「ここまで来たら8割クリア」と書いてある通り、標高差で考えると8合目に相当します。
7合目付近の山頂部の台地に出てからは、背後の阿寒湖と雌阿寒岳の眺望を楽しみながら足を進めます。
8合目にあるのは、阿寒岳測候所山頂観測所の跡。
第二次世界大戦をはさみ、特に軍用機の飛行に必要な高層気象観測のため設置されました(1944年10月~1946年10月)。
火口の縁を反時計回りに進みます。
なぜか頂上直下にある9合目。
山頂に到着です。
頂上から見えるのは、ペンケトーとパンケトーです。
雄阿寒岳の噴火によって分断されました。
一般には、阿寒横断道路(国道241号)にある双湖台から、湖の一部を眺めることしかできません。
全容を見ることができるのは、雄阿寒岳に登った人だけの特権です。
遠くには斜里岳や知床の山並みも見え、ひがし北海道の大自然を全方位で味わうことができます。
天気と服装
夏山シーズン中(6月~9月)の気温を紹介します。
雄阿寒岳から6.7km離れた阿寒湖畔にある観測所のデータから、2017年(月ごとの値)の平均気温(℃)を見てみます。
気象庁ホームページより
6月 | 7月 | 8月 | 9月 | |
日平均 | 12.4 | 20.0 | 17.0 | 13.0 |
日最高 | 18.4 | 25.9 | 21.6 | 18.9 |
日最低 | 6.9 | 15.1 | 13.6 | 7.9 |
阿寒湖畔の観測所は標高450mに位置しているので、雄阿寒岳山頂との標高差は約920mです。
理論上は標高が100m高くなると気温が0.6℃下がる計算なので、雄阿寒岳山頂では、麓の阿寒湖畔より約5.4℃低い計算になります。
6月と9月は、雄阿寒岳の山頂付近では、最低気温は平均でも0℃近く、日によってはマイナスになることも考えられます。(※2017年6月と9月は、麓の阿寒湖畔でもマイナスを記録してます)
服装は、暑さ対策よりも寒さ対策を重視します。
長袖長ズボンを基本とし、雨具、防寒着(フリースや薄手のダウン)を必ず持ち歩きましょう。
5合目までの樹林帯は風がなくて蒸し暑いことが多く、そこから山頂までは吹きさらしになるため、風をもろに受けることになります。
小まめに脱いだり着たりして体温調整し、体を冷やさないように注意してください。
8合目にかつて気象観測所があったことからもうかがえるように、雄阿寒岳のような独立鋒は、上空の気象条件が反映されやすい山です。
雄阿寒岳山頂にレンズ雲や旗雲が現れていたら、上空で強い風が吹いている証拠です。
5号目のハイマツ帯を抜けると猛烈な風に襲われたり、天気が崩れる可能性がありますから、注意しましょう。
山の険しさをはかる指標のひとつに「標高」がありますが、北海道の山の気象は「標高プラス1000m」で考えます。
雄阿寒岳では、本州の2000m級の山の気象条件を想定した服装を心がけてください。
なお、天気や服装については、「北海道の山の気象条件はプラス1000メートルで考えよ」に詳しく書いています。
火山情報
雄阿寒岳の最初の噴火活動は1万3,000年前よりも古く、約1000年前までには山頂部での噴火活動は終了しています。
平成30年7月札幌管区気象台発表の「雄阿寒岳の火山活動解説資料」によると、下記の通りです。
火山活動に特段の変化はなく、静穏に経過しており、噴火の兆候は認められません。
噴火予報(活火山であることに留意)の予報事項に変更はありません。
ただし、雄阿寒岳の北西斜面には、赤外熱映像装置による観測で弱い地熱域が確認されています。
測定した噴気温度は66℃。前回(1991年7月、69℃)と同程度で、これまでと比較して状況に変化はみられていません。
気象庁の「噴火警戒レベル対象外火山」の中の「活火山であることに留意」に位置付けられていますから、念のために事前の情報収集は怠らないようにしましょう。
噴火に関する情報は、気象庁ホームページより入手できます。
➜気象庁「火山登山者向けの情報提供ページ(全国)」
➜気象庁「雄阿寒岳の活動状況」
ここまで、雄阿寒岳の登山コースを紹介しました。
「日本百名山」は深田久弥が実際に登った山の中から選定したはずなのですが、今ではなぜか登ったことがない雌阿寒岳だけが百名山とされています。
久弥が実際に登ったのは雄阿寒岳です。
百名山踏破を目指す方は、雌阿寒岳と雄阿寒岳をセットで登ることをおすすめします。
参考:北海道新聞2007年10月5日
梅沢俊、菅原康彦、長谷川哲「北海道夏山ガイド〈6〉道東・道北・増毛の山々」北海道新聞社
深田久弥「日本百名山」新潮文庫