深田久弥が「日本百名山」の執筆前に登っていたら、間違いなくそのひとつに選出されていたといわれるニペソツ山。
北海道の山には数少ないアルペン的な鋭鋒で、天にそびえる山容は多くの登山者をひきつけてきました。
現在ニペソツ山登山で利用できる唯一のルート「幌加温泉コース」を紹介します。
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東大雪の最高峰「ニペソツ山」
上士幌町と新得町に接するニペソツ山は、標高2013mの東大雪最高峰。独立峰的な存在です。
深田久弥が登頂したのは「日本百名山」の執筆後だったため、残念ながら百名山には選定されませんでした。
「日本百名山を出したとき、私はまだこの山を見ていなかった。ニペソツには申し訳なかったが、その中に入れなかった。実に立派な山であることを、登ってみて初めて知った。」と著書に記していることから、まぼろしの百名山と言われています。
丸みを帯びた山が多い北海道には珍しい鋭鋒。前天狗から望むニペソツ山は、美しくも迫力に満ちて、見るものを圧倒します。
主尾根に出れば遮るものがなく、ウペペサンケ山、トムラウシ山、石狩岳など、大雪山を一望にすることが可能。360度の絶景続きで、どこをとっても絵になります。
ガレ場にはナキウサギが生息しています。本来は臆病で滅多に姿を見せることのないナキウサギですが、行き交う登山者が少なく静かなニペソツ山では、驚くほど警戒心がありません。運が良ければ、小さく愛らしい姿を見ることができるかもしれません。
ニペソツ山「幌加温泉コース」基本情報
標高 | 2013m |
標高差 | 約1300m |
距離 | 登山口から 片道12.5km 登山道取付地点から 片道10.5km |
標準タイム | 登山道取付地点から 登り6時間/下り4時間10分 (休憩なし、日帰り装備) |
難易度 | 上級 |
水場 | あり |
山小屋 | なし |
トイレ | 登山口に簡易トイレあり 前天狗野営指定地に携帯トイレブースあり |
山開き日程 | 通年で登山可能なため「山開き」はありません |
登山についての 問い合わせ先 | 上士幌町観光案内所TEL:01564-4-2224 【営業】9:00~17:00(7月・8月は8:00~18:00) 【定休】水曜日(祝日の場合は翌日)年末年始 |
林道についての 問い合わせ先 | 十勝西部森林管理署東大雪支署 TEL:01564-2-2141 |
ニペソツ山「幌加温泉コース」は、登山口から往復25km、所要時間は11時間を超える、健脚向けロングコースです。
長らくメインルートだった「十六の沢(杉沢)コース」は、2016年の台風で登山口への林道が崩壊して通行止めになり、復旧のめどが立たっていません。
そのため、廃道と化していた「幌加温泉コース」が整備され、2018年より利用できるようになりました。ここが現在利用できる唯一のコースです。
ルートには、沼や樹林帯、ハイキング気分で歩くなだらかな台地もあれば、ロープを頼りに登る急登もあり、実に変化に富んでいます。
登山に関するあらゆる知識と技術が試されるといってもいいでしょう。
体力のある登山者なら、日の長い時期に早出すれば日帰り山行が可能ですが、一般的には「前天狗野営指定地」または「天狗のコル野営指定地」での1泊を前提にすることが推奨されています。
自分の体力をしっかりと見極めて、お出かけください。
ニペソツ山「幌加温泉コース」コースタイム
【登り】6時間
登山道取付地点 ➡ 三条沼 1:20
三条沼 ➡ 展望台 1:40
展望台 ➡ 前天狗 1:20
前天狗 ➡ ニペソツ山 1:40
【下り】4時間10分
ニペソツ山 ➡ 前天狗 1:20
前天狗 ➡ 展望台 0:50
展望台 ➡ 三条沼 1:00
三条沼 ➡ 登山道取付地点 1:00
※登山口取付地点:登山口より2km
※休憩は含みません
ニペソツ山「幌加温泉コース」ガイド
赤いゲートが目印の登山口には、約15台の駐車スペースがあります。登山届ボックス、仮設トイレ、携帯トイレ回収ボックスが設置され、早朝出発に備えて多くの登山者が車中泊しています。
更に林道を2km行くと、約10台分の駐車スペースがある駐車場が現れます。ここに駐車できれば山頂まで10.5kmとなり、往復で4km短縮できます。登山道取付地点は駐車場の数十メートル手前です。
登山口から3kmほどの距離にある沢が「水場」です。標識などはないため、通り過ぎないように注意しましょう。ここまで何度か沢の渡渉はあるものの、普段は登山靴を濡らすほどの水量はありません。
針葉樹林のなかを歩きます。登山道は広く笹が刈られ、道標も随所に整備されています。道迷いの心配はありません。
静かにたたずむ三条沼。樹林帯は風通しが悪く、暑い時期は熱中症対策が必須です。
1300m台地への登りでようやく視界が開けてきます。南に見えるのがウペペサンケ山。ニペソツ山と同様、百名山の最終候補に上がったものの落選した山です。
展望台から見た天狗岳(右)とニペソツ山(中央)。ここから山頂まで4.5kmです。
1662ピークを過ぎると、前天狗が目前に迫ってきます。ハイマツ帯の細尾根を少し下ると、急しゅんなカール状の地形が現れ、主尾根へと合流します。
一帯のガレ場はナキウサギの生息地です。撮影時はお昼寝する可愛らしい姿を見ることができました。
主尾根への取り付きはかなりの急斜面。垂れ下がったロープの助けを借ります。十六の沢(杉沢)コースと合流後は、長い稜線歩きがスタートします。風を遮るものがなくなりますので、強風時には早めに低体温症対策をしてください。
前天狗から見た天狗岳(手前)とニペソツ山。ここはニペソツ山の代表的な撮影スポットです。頂上はまだ遥か遠く。気持ちを奮い立たせて歩みを進めます。
野営指定地になっている前天狗には、テント8張分のスペースと携帯トイレブースがあります。緊急時を除き、野営指定地以外でのテント設営は禁止されています。
天狗岳からは、これまで稼いだ高度を130m一気に下ります。コルに降りたあとはコース最大の登り。体力気力を振り絞って、レキ地の急斜面を登ります。
鋭鋒の名が示す通り狭い山頂です。つい素晴らしい景色に見とれて足元がおろそかになりがちですが、山頂東側は岩がもろくて激しく崩落しています。転落死亡事故が起きていますので、ロープの外側には立ち入らないようにしてください。
来し方を振り返ります。はっきりとした尾根や沢があまりなくて、複雑な地形であることがわかります。
トムラウシ山(左)、忠別岳(中央やや右)、旭岳(右)まで、大雪山系をぐるっと一望。いつまでも眺めていたい大自然のパノラマが広がります。
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水場
ニペソツ山(幌加温泉コース)の水場は、登山口から3kmほどの登ったところにある「沢」1か所です。
これより先に水場はありませんので、前天狗野営指定地でテント泊をする場合は、ここから水を担ぎ上げることになります。
北海道はどこもそうですが、キタキツネが媒介する寄生虫による「エキノコックス症」感染の恐れがあるため、沢水をそのまま飲むことができません。
煮沸するか、浄水器を通してから飲用してください。
▼エキノコックス症と煮沸方法を知っておこう!
携帯トイレブース
入山するときは、携帯トイレを必ず持参しましょう。
前天狗野営場に、携帯トイレブースが設置されています。
天井はなく、囲いも便座も木製で、どこか懐かしさを感じる素朴なトイレです。
携帯トイレは、便座にかぶせて使うことができる「袋状タイプ」を選んでください。
このタイプは、地面に直接広げて使用することもできるので、携帯トイレブース以外でも使用できます。
使用後は、登山口駐車場にある「携帯トイレ回収ボックス」に捨てることができます。
▼おすすめ携帯トイレを紹介しています!
北海道の山のトイレ事情
どこの山でもトイレ問題は深刻です。 排泄物やティッシュなどのゴミの放置、用を足そうとした人が付けた踏み跡が獣道のように広がって生態系に影響を与えていることなど、全国的にも大きな問題になっています。 北 ...
登山口へのアクセス方法
国道273号から幌加温泉に向かい、1km地点で右折して林道に入ります。
赤いゲートのある登山口には駐車場(約15台)があり、入林届出箱(登山届ボックス)、仮設トイレ、携帯トイレ回収ボックスが設置されています。
登山口駐車場から更に林道を2km入ると林道終点となり、そこにも駐車場(約10台)があります。
終点の駐車場に運よく駐車できれば、往復で4km短縮できます。
気候と服装
ニペソツ山「幌加温泉コース」では、暑さ、寒さ、両方に対応できる服装が求められます。
約3分の1を占める樹林帯は風通しが悪く、天気の良い日はかなり蒸し暑くなります。熱中症に注意が必要です。
下着も含めて、汗をかいても乾きやすい速乾性素材のウェアが基本なのは、言うまでもありません。
序盤は東向き斜面なので、背中から日射しを浴びることになります。日焼け対策として、首回りにタオルを巻くことをおすすめします。
尾根歩きになれば、風をさえぎるものがなくなります。低体温症予防のため、雨具とフリース等の防寒着を持ち歩き、風が強いと感じたら、体が冷える前に着用しましょう。
山では山岳地形特有の気象条件や天候の急変などが加わります。
天気予報を鵜呑みにせず、もっとも過酷な環境や状況を想定した服装・装備で入山してください。
▼北海道の山の気象条件は厳しい!
北海道の山の気象条件はプラス1000メートルで考えよ
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ヒグマ対策は万全に
幌加温泉コースは健脚向きのロングコースですので、登山者はあまり多くありません。
北海道の山ではどこもヒグマ対策は必須ですが、より一層注意深くなる必要があるでしょう。
最も重要なのは、出くわさないようにすることです。
熊鈴をつける、ガスで視界が効かないときや樹林帯で見通しが悪いときはホイッスルを吹くなどして、接触を未然に防ぐ工夫をしてください。
熊よけスプレーは取扱いが難しいため、事前に操作方法を熟知し、スプレーの性能や効果を把握しておくようにしましょう。
安易に携帯することは避けたほうがいいと思います。
▼熊除けスプレーって何?
熊よけスプレーは最終兵器と心得よ
北海道の山では、万が一ヒグマに遭遇したときのために熊よけスプレーを携帯する登山者を見かけます。 熊よけスプレーは通販やホームセンターなどで誰でも簡単に手に入れることができますが、使い方を誤ると大変危険 ...
アルペン的な山容が登山者をひきつけて止まないニペソツ山。現在のところ、利用できる登山道はご紹介した「幌加温泉コース」のみです。
幌加温泉コースは変化に富み、十六の沢(杉沢)コースとは違う魅力があります。少々距離はありますが、達成感をたっぷり味わえるコースにぜひチャレンジしてみてください。