途中でザックを置いて、身軽になって山頂に向かうことをデポ(デポジット:預けるの意味)するといいます。
槍ヶ岳では、急峻な頂上に登るときは直下でザックをデポします。
というのも、頂上は人が数人くらい立つのがやっとの広さ。しかも、次から次へと人が登って来てはすれ違うので、身軽になっておく必要があるからです。
本州ではよく見かける光景ですが、縦走装備でもなければ北海道では御法度です。そこには北海道ならではの事情もあります。
1.デポは野生動物を引き寄せる
北海道では全域がヒグマの出没地帯です。登山では、ヒグマに出会わないために神経を使います。みなさんご存知ですよね。
行動食や飲料水、非常食などが入っているザックを放置すると、ヒグマが匂いにつられて引き寄せられる危険性があります。
人間の食べ物を知ってしまったヒグマは、登山者のザックを魅力的なものが入っているものとして学習するかもしれません。
そうなれば、ザックを背負っている登山者が次からターゲットになる可能性があります。ヒグマにそう学習させた人物は何事もなく立ち去っても、後から訪れる登山者が狙われてしまいます。
オホーツクの清里町「きよさと観光協会」のホームページにはこんな記載があります。
北海道の山では荷物のデポ(置いていくこと)はしない。(斜里岳では馬の背、羅臼岳では羅臼平にザックをデポして山頂に向かう方がいますがヒグマをひきつける原因になりますので絶対にやらないでください。荷物と一緒に人が見張っていても気にせず近寄ってくるクマもいます。山中で調理するときはなるべく匂いのでないものにする。当然ですが食べ物や匂いのするものは捨てない。
キツネもヒグマ同様に、人間の食べ物に寄ってきます。デポしたザックは格好の餌食。テントはちょっとでも目を離すとキツネに狙われます。食料があることを学習しているからです。
テントのフライシートの内側に何か置いておくと、登山靴であろうとストックであろうと持って行かれます。食料以外の装備もテント内にしまっておくのが無難でしょう。
キツネに関して言えば、エキノコックス症を媒介する恐ろしい存在です。ヒグマとは違う種類の心配ですが、無用な接触は同じく避けたいものです。
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2.デポしている間に何かあったらどうするの?
デポしている間に滑落や転倒、天候の急激な変化、道迷いなどの遭難をしないという保証はありません。
緊急時に必要なものも含めた大切な装備を自分の身から離すなんて、一時でもあってはならないことです。
そもそも日帰り装備は最小必要限度のものしか入っていないはず。軽くしないと登れないなら、装備を根本から見直す必要があるでしょう。登る山のグレードを下げたほうがいいかもしれません。
わたし自身は、身軽になって楽して登るという発想自体に違和感を覚えます。楽をしたいのは同じですが、それは歩き方や食べものの摂り方を工夫したりすることによって。必要な装備を置いて安全を放棄することとは違います。
ちなみに、デポ中のザックを盗まれた知り合いがいます。野生生物や”もしも”の他にも、そういう心配が必要な世の中のようです。
「人の命に関わるものを盗むなんて」と憤慨していましたが、そんなに大切なものなら肌身離さず持ち歩いておけばよかったのにと思います。
3.自分さえよければいい人たちの出現
羅臼岳など知床の山のキャンプ指定地には、フードロッカーが備え付けられています。
というのも、テント内に食料がある状態で寝ることすら危険だから。
テントは寝るだけの場所にして、調理も食事もテントから離れて行います。ゴミは全て密封したうえでフードロッカーに入れます。もちろん全て持ち帰りです。
そのフードロッカーにザックをデポする日帰り登山者がいるんです。
フードロッカーにザックが何個もギューギューに押し込まれている写真を見たときは、ショックで言葉が見つかりませんでした。
彼らの自己中な利用でロッカーは満杯になり、本来利用すべき登山者が使えないという状況が生まれます。
そこを使うべきなのは、縦走装備の登山者やテント泊をする人。日帰り装備の登山者ではありません。
そこらへんにデポしてヒグマが寄ってくるよりいいじゃないか。きっとそういう考えなんでしょう。
さらには、携帯トイレブースにザックをデポするパターンもあるとか。「自分さえよければ」という思考が見事に具現化しています。付ける薬がありません。
デポする前提の登山自体、やめましょう。少なくとも、北海道では御法度です。