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アイゼンの選び方-夏の雪渓は12本爪アイゼンがおすすめです

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雪渓 急斜面 アイゼン

アイゼンを買うなら、夏山シーズンだけの使用でも、使える場面が限定的な軽アイゼンより12本爪アイゼンがおすすめです。

その理由を、「山の難易度」と「登山靴との相性」で決まるアイゼン選びのポイントやおすすめ12本爪アイゼンの紹介を交えて解説します。

 

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軽アイゼンが使える場面は限定的

軽アイゼン

社会人山岳組織を主宰しているわたしは、「初めてアイゼンを購入したいのだけど、何を選んだらいいかわからない」という相談を受けることがよくあります。

そんなときは、夏山だけの使用でも「10本爪以上のアイゼンがおすすめです」と返答しています。

というのも、軽アイゼンが使える場面は限定的で、斜度があるルートや環境の変化が大きい山域にはふさわしくないからです。

 

軽アイゼンは夏の「緩い斜度」の雪渓向き

「初めてアイゼンを買うならまずは軽アイゼン」

「夏の雪渓を歩くといえば軽アイゼン」

そんなイメージを持っている人は多いと思います。

軽アイゼンとは、登山靴の土踏まずの範囲をカバーする、爪が4本~6本程のもの。適した用途は「夏の雪渓」に加えて「緩い斜度」という条件が付きます。

特徴を見てみましょう。

メリット

  • コンパクトで脱着が楽
  • 歩きやすい
  • 軽登山靴のようなシャンク(土踏まずの芯材)が軟らかくてソールが曲がる靴にも装着できる

デメリット

  • 土踏まずの範囲しか爪がないので、雪面に対してフラットに足を置ける(緩い)斜度にしか適さない
  • 体重を意図的にかけられるつま先と踵に爪がないため、本質的にグリップが弱い
  • 爪が短く鈍角なので、深い雪や融けてグサグサになった雪、硬く凍り付いた雪面にはグリップしない

夏の雪渓でもちょっと斜度が上がると軽アイゼンでは太刀打ちできません。

コンパクトで持ち運びが便利だし価格も手軽なのですが、汎用性に欠けるのがネックです。

 

軽アイゼンは雪に不慣れな人のお守り代わり

雪国に住み冬山登山もするわたしは、軽アイゼンが対応できる緩い斜度なら、雪面をつま先を蹴りながら歩くキックステップなどの歩行技術で十分カバーできてしまいます。

軽アイゼンを装着している時間があったら、そのまま歩いてしまったほうが早いのが正直なところ。持っていはいますが、必要性がなくて一度も使ったことがありません。

そんなわけで、アイゼン選びの相談を受けたら10本爪以上、できれば12本爪をおすすめしています。

ただし、軽アイゼンが無用の長物かというとそんなことはありません。雪に不慣れな人はちょっとした斜面でも怖く感じますよね。

恐怖で腰が引けるとスリップしたり転倒するリスクが大きくなりますから、軽アイゼンで得られる安心感は安全に直結するでしょう。そんな人にとっては大きな価値があると思います。

 

 

アイゼンの爪の数は登る山の難易度に比例する

重宝しているモンベルの12本爪アイゼン

重宝しているモンベルの12本爪アイゼン

アイゼンの爪の数は登る山(ルート)の難易度に比例して増えます。

10本爪以上で中急斜面の雪渓も登れるようになります。

12本爪なら本格的な冬季登山が可能で、アルパインクライミングにも対応できるようになります。

12本クラスのアイゼンになると前爪が付き、フラットに足裏を置けない斜度では前爪を斜面に食い込ませて登ります。爪は長く鋭く、靴底全体に配置され、足裏全体で雪面をとらえることができるようになります。

 

汎用性があるのは12本爪アイゼン

12本爪アイゼン

どんな場面でも使える汎用性に優れたアイゼンは12本爪です。

夏も冬も、緩斜面から中急斜面まで使えますし、販売されているラインナップが多いので選択肢も多い。

アイゼンと言えば冬山装備の代名詞ですが、夏山の雪渓歩行でも「山域の難易度」や「山行の時期」によっては12本爪の本格アイゼンが必要になる場面があります。

たとえば大雪山。年によっては差はありますが、6月下旬~7月上旬まで残雪があります。

この時期になると雪と雨が入り混じる天候で、日によって雪面の状態がコロコロ変わります。雪の下に「氷」が隠れていることもあるので、コースによっては本格アイゼンがないと不安です。

三笠新道

三笠新道

大雪山の高原沼から高根ヶ原にとりつく「三笠新道」は、ヒグマが頻繁に出没するため、ヒグマの活動が活発になる前の6月中旬~7月上旬の2週間程度しか開放されない幻のルートです。

高根ヶ原の台地にとりつく手前の斜度30度くらいの大雪渓では、12本爪アイゼンを装着します。

あるとき、メンバーのひとりが6本爪の軽アイゼンで来てしまいました。案の定、登るそばからズルズルと落ちてきます。

みんなで交代しながらピッケルで足場を階段状に削って登ったものだから、最後はヘロヘロ。これには参りました。

最初に軽アイゼンを購入しても、後から本格アイゼンを買い直すパターンが多いですね。

購入するなら通年で使えて、緩斜面から中急斜面まで広範囲にカバーできる12本爪が最も汎用性が高くておすすめです。

 

 

アイゼン選びは登山靴との相性も重要

3シーズン用の登山靴

3シーズン用の登山靴

アイゼンと登山靴には相性の良し悪しがあります。

 

シャンク(土踏まずの芯材)硬度との相性

靴底が軟らかい軽トレッキングシューズ(軽登山靴)には軽アイゼン、靴底が硬い重登山靴には軽アイゼンから本格アイゼンまで装着が可能です。

 軽トレッキングシューズ(軽登山靴)は、シャンク(土踏まずの芯材)が軟らかく曲がるので歩きやすいのが特徴です。心材はそれほど強度が必要とされないので、靴が軽くなります。

このタイプの靴に本格アイゼンを装着すると、靴底が曲がるたびに金具に無理な力が加わるため、破断する可能性が生じてしまいます。

軽トレッキングシューズ(軽登山靴)適しているのは、土踏まずの部分だけ爪(金具)が付いた軽アイゼン。これなら靴底が曲がっても問題ありません。

夏用の登山靴のなかでも縦走用や3シーズン用の重登山靴と呼ばれるグレードになると、土踏まずの芯材(シャンク)が硬くてソールが曲がりにくくなります。

本格アイゼンが無理なく使用できるようになり、軽アイゼンから本格アイゼンまで選択肢が格段に増えてきます。

 

登山靴の形状との相性

装着方法が靴の形状にマッチしているかどうかも重要なポイントです。

 

❶ベルトタイプ

LXT-12アイゼン

出典:モンベル

ベルトタイプはコバの無い登山靴にも取りつけることができる、もっとも汎用性があるタイプ。ただし、一部のメーカーを除き、シャンクが柔らかいものに対応できるタイプはありません。無理に装着して万が一壊れたら、場所とタイミングによっては命に関わります。メーカー補償も受けられないので注意しましょう。

 

❷セミワンタッチタイプ

LXB-12アイゼン

出典:モンベル

かかとにコバ(出っ張り)がある靴に装着できるのがセミワンタッチタイプ。脱着がスピーディーにできるメリットがあります。取り付けるには本格的な冬山用登山靴が必要です。

 

❸ワンタッチタイプ

LXF-12アイゼン ワイド

出典:モンベル

つま先とかかとにしっかりしたコバがある登山靴、もしくはスキー兼用ブーツ等に装着します。強い力で固定されるので、本格的な冬山縦走やアルパインクライミングに向いています。

その他にも、小さなサイズや、幅広、甲高の登山靴などと相性が悪く、装着できないアイゼンもあります。

購入するときは、必ず登山専門店に登山靴を持ち込み、購入予定のアイゼンが装着できるか、調整がきくか、しっかり確認するようにしましょう。

 

 

おすすめ12本爪アイゼン3選

もっともおすすめなのは、コバが無い登山靴にも取り付けられるベルトタイプの12本爪アイゼンです。

夏用の重登山靴にも装着できますし、冬期登山でも使用できます。

中急斜面まで登れるので、これ1つでかなりの範囲をカバーできます。

ワンタッチタイプのアイゼンに比べるとややフィット感に欠けますが、夏の雪渓メインのアイゼンとしては最適でしょう。

おすすめのアイゼンを3つ紹介します。※2021月8月現在の価格です

 

❶モンベル LXT-12アイゼン

樹脂製ハーネスとナイロンテープで固定する12本爪アイゼンです。

冬期登山やアイスクライミングにも使用できる本格タイプ。S/M、M/Lの2サイズ展開で、土踏まずのジョイントバーをスライドすることで微調整します。

重量はペアで825g( 本体平均重量)。メーカー希望小売価格17,490円(税込み)と、このクラスのアイゼンの中ではもっとも手頃で不動の人気です。

LXTシリーズには、横幅のある靴に対応したワイドタイプもあります。

➡モンベル公式オンラインショップ

 

❷グリベル エアーテック ニュークラシック 

プラスチックハーネスで固定する12本爪アイゼン。グリベルの一番人気とも言えるモデルです。

冬期登山やアイスクライミングにも使用できる本格タイプですが、爪が短めなので初心者向きです。

土踏まずのジョイントプレートをスライドすることで、小さなサイズの靴にも取り付け可能。オプションのロングプレートを購入すれば、大きいサイズの靴にも装着できます。

重量はペアで890g。メーカー希望小売価格18,200円+税。

ニュークラシックシリーズには、爪が長めの12本爪アイゼンもあります。こちらはエキスパート向き。

 

❸ブラックダイヤモンド セラックストラップ 

錆びにくいステンレス製の12本爪アイゼンです。

スタイリッシュな外観はブラックダイヤモンドならでは。冬期登山やアイスクライミングまでオールラウンドで使用できます。

サイズはワンサイズ(23~29cm)ですが、土踏まずのセンターバーをスライドすることで微調整が可能です。

重量はペアで860g。メーカー希望小売価格22,990円(税込み)

 

紹介したアイゼンは、どれもシンプルな構造で装着しやすく初心者向きです。参考にどうぞ。

 

 

アイゼンは訓練が必要です

アイゼン 訓練

「12本爪アイゼンは、歩き方の訓練とかしないと危ないんじゃないの?」と不安に思いますよね。

その通りです。

12本爪になると爪が長くなりますから、ズボンを引っ掛けないように歩幅を広くして歩く必要がありますし、雪渓の斜度が上がれば滑落したときのリスクも大きくなります。

でもそれは軽アイゼンも同じこと。アイゼンの使用にあたってはリスクが伴います。使い方を誤れば思わぬ危険を招きます。

使用前に正しい装着方法や限界をよく理解して、事前のトレーニングをしっかり行って本番を迎えておきたいもの。できれば、適切な指導者や講習会で技術を習得することをおすすめします。

軽アイゼンの歩行技術や基本について、こちらの記事に詳しくまとめていますのでぜひご覧ください。(動画あり)

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