装備 北海道の山事情

熊よけスプレーは最終兵器と心得よ

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北海道の山では、万が一ヒグマに遭遇したときのために「熊よけスプレー」を携帯する登山者を見かけます。

熊よけスプレーはネット通販で誰でも簡単に手に入れることができますが、使い方を誤ると大変危険な非殺傷武器です。

熊よけスプレーとは何か、その効果や種類、使用するときの注意点などをまとめました。

 

 

1.熊よけスプレーとは

国道 のり面 ヒグマ

国道脇に現れたヒグマ 

熊よけスプレーは、世界中で護身用に使われている非殺傷武器「催涙スプレー」の一種です。

販売されている熊よけスプレーの成分は、ほとんどの場合、唐辛子などから抽出する辛味成分から成っています。

ヒグマに遭遇して攻撃されたら、数メートル近づいたところで顔面にスプレーを噴射します。

命中すると成分が粘膜や皮膚に付着し、成分が組織内部に浸透して末梢神経を刺激します。

目、鼻、喉などの粘膜には最も強く作用して、激痛で目が開けられなくなり、大量の涙や鼻水が出るなどし、皮膚にも焼け付くような痛みが走ります。

ヒグマが退散したり、もだえ苦しんで動けなくなっている間に、人間は安全な場所まで退避するわけです。

これだけの苦痛を動物に与えるのですから、使用する側もそれ相応の覚悟を持って使いたいもの。これは、不幸にして遭遇してしまったときの最終兵器です。

そんな危険なものが、何の許可も必要なく、登山用品店やインターネット通販で簡単に手に入ることに疑問を感じる方も多いかもしれません。

北海道の国立公園内のビジターセンターなどでは、ビジター向けに有料で貸し出しているところもあります。

熊スプレーレンタル

大雪高原温泉にて 1日1000円、使ったら追加5000円

規制や罰則もないまま、観光客でも気軽に携帯することが可能なのが現状です。誤使用による事故も起きていることから、きちんとした指導やルールの策定が必要でしょう。

※熊よけスプレーを、ヒグマより小さいツキノワグマやその他の動物に使用することは絶対に避けてください。熊よけスプレーの成分はヒグマ級の大型動物用に調整されていますから、成分が強すぎて過剰な苦痛を与えることになってしまいます。

 

2.国内で流通している主な熊よけスプレー

商品名 カウンターアソールト CA230

カウンターアソールト・ストロンガー CA290 ガードアラスカ

成分 唐辛子エキス 唐辛子エキス 唐辛子エキス
SHU 322,000 322,000 194,000
性質 油性 油性 油性
対象 エゾヒグマ、ハイイログマ、アラスカアカグマ、ホッキョクグマ エゾヒグマ、ハイイログマ、アラスカアカグマ、ホッキョクグマ エゾヒグマ、ハイイログマ、アラスカアカグマ
重さ 320g 380g 255g
最小噴射距離 9m 10.5m 5m
噴射持続時間 7.2秒

無風状態の室内実験データ

9.2秒

無風状態の室内実験データ

 

SHUとは?

Scoville Heat Unitの略で、唐辛子の辛さを示す値です。

Scoville が1912 年に報告したもので、唐辛子抽出物を甘味水で希釈した時の辛味を感じる値を希釈倍率で示したもの。1,000倍に薄めて辛さを感じなくなれば1,000SHUと表記されます。

食品用の表記では、タバスコソースがタバスコソース1,600-5,000、生のハラペーニョが2,500-8,000、チリパウダー30,000-50,000となっています。(農林水産省HP カプサイシンに関する詳細情報より)

上記ベア―スプレーのSHU表記は軍事用の基準なので、食品用の1/10で表しています。

登山者に人気の高い「カウンターアソールト」なら、食品用表記では3,220,000SHUとなり、チリパウダーの65倍~107倍という猛烈な刺激があることがわかります。

性質について

熊よけスプレーは油を主原料とした溶剤で成分を薄めた「油性」です。

水性の場合は水で洗い流すことが容易で安全性が高く、対人用や小・中動物に使用されます。対人用の催涙スプレーがそうですね。

油性は効果が早く、洗い流すことが非常に困難になるように製造されていますから、長く付着して強力に作用します。危険性が高くて、大型動物や猛獣用。日本国内で熊に使用するなら、対象はツキノワグマではなくヒグマです。

購入は信頼のおける店で

ヒグマ用の超強力スプレーなのに「相手が10人いても一気に全てをカバーする噴射」「イノシシの出現する地域にお住まいの方や、登山にもおすすめ」…。

ちょっとネットで調べてみただけで、首をかしげたくなる表記をしている販売店がありました。正しい使用方法を理解しているとは到底思えません。

使用期限のある商品でもありますし、保管状態も気になります。正規輸入しているものなのか、個人輸入なのか、PL法に入っているかなど、値段の安さでは換えられないものがあります。

信頼のおけるお店で購入するようにしましょう。

航空機で運べない

危険物ですから、飛行機に乗る時は機内持込も預けることもできません。

本州から航空機で北海道入りする場合は、あらかじめ宿泊場所に宅急便で陸路運送してもらうか、現地で調達することになります。

 

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3.まずは「出会わないこと」

国道脇 ヒグマ

国道脇に現れたヒグマ

ヒグマと遭遇したくないなら、まず考えるべきは、熊よけスプレーを持ち歩くことではなく、ヒグマと出会わないことです。

ヒグマの方も人間に会いたいとは思っていませんから、こちらの存在を知らせることで、お互い不幸な出会いをしないようにするのです。

ヒグマと出会いやすい条件がいくつかあります。

  • 餌場に移動する早朝や夕方の時間帯
  • 霧がかかって見通しが利かず、音も聞こえにくいとき
  • 風が強くて音が流れるとき
  • 近くに水場があって音がかき消される場所
  • ヒグマの好物がある場所

出会わないためには、熊よけ鈴を付けたり、大声で叫ぶ、常にホイッスルを鳴らし続けるなどして、人間の存在を知らせます。

見通しが利かない場所では、足を踏み入れる前にホイッスルを鳴らし、物音がしないか、草や木が揺れたりしないか、しばらく様子を見て確認します。

川の近くでは、熊よけ鈴程度の音では水の音にかき消されてしまいます。あまりおすすめできませんが、沢の入渓時には爆竹を鳴らすこともあります。

登山は、ヒグマの棲み処に出入りするようなもの。どこで出会ってもおかしくないと思って行動することです。

 

4.不幸にも出会ってしまったら

熊 糞

林道でみかけた熊の糞

ヒグマを見たとき、やってしまいがちな禁忌行為があります。

  • 叫ぶ
  • 逃げる

ヒグマも人間と出会ったことでびっくりしています。そこに更に驚かせるような行動をとると、ストレスのあまり防衛的な行動に移らせてしまう可能性があります。

距離があるときは、ヒグマから目を離さず、背中を見せずに静かに後退しましょう。

ただ、頭で分かっていても、実際に遭ってしまったらパニックになってどう反応するか検討がつかないのが正直なところでしょう。

叫ばない、逃げない。この二つで精一杯かもしれません。

 

5.攻撃されたら

ヒグマが突進してきても、威嚇突進行動であることが多いそうです。

途中で止まり、激しく地面をたたくなどした後に後退する。このような場合には、ヒグマとの間に障害物を置くようにしてゆっくり後退します。

本当の攻撃なら、熊よけスプレーの出番です。

といっても威嚇なのか本物なのか区別がつきませんから、突進してきた時点で熊よけスプレーを準備する必要があります。

ヒグマが3~4mの距離まで接近したら、目と鼻をめがけてスプレーを噴射します。

ここで疑問です。

スプレーを取り出し、ノズルの向きを確認し、数メートルの距離まで近づくの待ってヒグマの顔面にスプレーを噴射する。

ヒグマが時速60キロともいわれる速さで猛突進してきたとき、冷静にこれらの動作をとり、顔面に命中させることができる人はどれほどいるでしょうか?

わたしなら自信がありません。しかも自分が風下側だったら?・・・最悪です。熊よけスプレーを過信してはいけません。

 

6.実際にあった誤噴射事故

北海道で実際にあったスプレーの誤噴射事故です。

大雪山 黒岳 ロープウェー

2007年、大雪山系黒岳のロープウェーのゴンドラで、登山客が持っていた熊よけスプレーの安全ピンが外れて噴射。近くにいた外国人2名が目や鼻に痛みを訴えて病院に搬送されました。

警察の調べでは、登山客は熊よけスプレーを入れたザックを床に置いており、混雑したゴンドラ内で乗客の足が当たってストッパーが外れたようです。

2008年には、道内の温泉旅館に宿泊していた登山客が、翌日の山行に備えて室内で熊よけスプレーの使用方法を確認していたところ、誤噴射してしまいました。

結果、宿泊客24名が目の痛みを訴えて救急搬送、1名が入院しています。

これほど強烈な効果があるのに、スプレーという名称から気軽なイメージがぬぐえません。非殺傷武器だということを忘れず、心して携行するべきでしょう。

 

7.処分方法

スプレーには有効期限があります。

処分方法はお住まいの自治体の指示に従ってください。一般的には、カセットボンベと同様に中身を全て使い切り、穴をあけて一般ごみとして捨てることになるでしょう。

熊よけスプレーの中身を出し切るには、人気のない場所で、自分にかからないように細心の注意を払って噴射する必要があります。都会では無理がありますね。

登山用品店では引き取ってくれません。一部、無償で破棄をしてくれる護身用品店があるようです。自分で処分するのは抵抗があるという方は調べてみるといいでしょう。

使用するのも、保管するのも、処分するのも、厄介で危険な代物です。安易に購入しないことをおすすめします。

 

参考:
知床財団「ヒグマ対処法」
日本護身用協会「熊よけ(ベアー)スプレーの実態および危険性の勧告」

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