山の栄養学

バテない体を作る登山の食事

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登山でバテないためには、食事もトレーニングのひとつです。

何をいつどのように食べるといいのか。知識を得て実践すれば、トップアスリートを目指す年齢でなくても、運動パフォーマンスが向上することを実感できるでしょう。

多くの登山愛好者は食事に無頓着です。

年配女性に多くみられる、休憩の度にザックの中からお菓子やチョコレートなど取り出しては周囲に勧める現象など、心の底からいかがなものかと思います。

日帰り登山ならいざ知らず、数日に渡る山行ともなれば、考えなしに食事をとると必ずツケが回ってきます。

持てる力を最大限引き出し、より安全で快適な登山を楽しむために、登山で食べるものにもっと注目してみてはどうでしょうか。

 

 

1.登山前の食事

登山に限らず、スポーツでパフォーマンスを向上させるには、炭水化物の摂取がカギを握ります。

ご飯などの炭水化物に含まれる糖質は、運動するときの主要な燃料です。脳や神経系にとってはほぼ唯一のエネルギー源でもあります。

糖質の一部は、肝臓や筋肉の中にグリコーゲンとして蓄えられます。

肝臓と筋肉の中のグリコーゲン濃度が増加すると、筋グリコーゲンや血糖の低下による疲労を遅らせる役割を果たしてくれます。

グリコーゲンは一定量しか蓄えることはできませんが、せめて山に登る前には満タンにしておきたいものです。

山に行く数日前から、炭水化物を意識した食事を心がけましょう。

  • 4日前 脂質もOK。バランス重視の食事をとりましょう。
  • 3日前 糖質を中心に。炭水化物を多めにとります。
  • 2日前 同じ
  • 前日   消化によいものを食べましょう。

 

2.当日の食事

登山用語でエネルギーが不足して疲労することをシャリバテといいます。いわゆる急性低血糖がおきた状態です。

シャリバテのときは、空腹感にともなって全身に力が入らなくなる、集中力が低下するといった状態に陥ります。

ケガや事故のリスクが高まりますし、脳にも栄養が行きませんから、判断力が低下して道迷いなどの遭難にもつながりかねません。

2009年のトムラウシ山大量遭難事故の報告書を読むと、装備の不備や体力の違いの他にも、食べ物を定期的にとっていたため低体温症が深刻にならず、生還した登山者がいたことがわかります。

それひとつでは大きな障害にならなくても、過酷な環境に置かれていくつもの悪条件が重なった時、シャリバテは生死を分けるかもしれません。

わたしの場合は、幸運にも25年以上になる登山歴のなかで自分も含めてシャリバテでフラフラになったり、深刻な事故や遭難につながった人は身近にいません。

とはいえ、食べ物を見直したことにより、下山後のむくみや体重増加から解放され、疲れを引きずらす体調の回復が早くなった経験があります。

食べるものでこうも違うのか、という驚きを身をもって体験できたことは大きな収穫でした。

それでは、日帰り登山ではどのように食べるといいのか、出発前から下山までみていきましょう。

①朝食

朝食は、登山開始から逆算して3~4時間前までに済ませておきます。

食べ物は、それぞれ消化するまでの時間が大きく違います。

果物はは30分~1時間と速く、ご飯や麺類、イモなどの炭水化物は2~3時間。肉や魚などのタンパク質は4~5時間。脂肪は7~8時間かかるといわれています。

朝食には、おにぎり、脂肪の少ないパン、うどんなどを中心とした高糖質食を食べるといいでしょう。おにぎりをもち米にするとさらに糖質がアップします。

糖質をエネルギーとして燃焼する過程では、ビタミンB1が欠かせません。ビタミンB1を豊富に含む胚芽米なら、セットでとることができますからおすすめです。

他にビタミンB1を含む食品としては豚肉、玄米、海藻類、ナッツ類などが有名ですが、タンパク質や脂肪、食物繊維が多い食べ物は消化に悪いため、運動前は控えめにしましょう。

菓子や清涼飲料水などによる糖分の過剰な摂取は、ビタミンB1の欠乏を招くので注意が必要です。

インスタントラーメンは油で揚げた麺を使用していることが多く、消化が悪くて身体に負担がかかります。登山のときの食事にはおすすめしません。

 

②登る直前

1時間前はおにぎりやバナナなどをとり、30分前には消化のよいエネルギーゼリーなどをとります。

時間差でエネルギーになってくれるように、様々な種類の糖質をとり、血糖値を高めておきます。脱水予防のため、水分も500ml程度飲んでおきましょう。

プロガイドの知人は、登山開始30分前、持久系アミノ酸BCAAを含むドリンクを500ml飲む習慣があります。これだけで疲れが違うんだとか。

糖分を含んでいる清涼飲料水などを、単独で多量に摂るのは避けてください。血糖値が急上昇したあと、反動で低下し、かえってバテやすくなってしまいます。

楽しみながらいろいろ試して、自分に合った食べ物や食べるタイミングを探してみるといいですね。

 

③登山中

「行動食」と呼ばれる登山中の食事は、食べやすくて腹持ちが良く、軽くて保存性があるものがいいでしょう。パサパサしていて水が欲しくなるものは極力避けます。

山では、ゆっくりと腰を下ろし、景色を堪能しながらお弁当を広げて食べるなんてことはまずありません。

休憩の度に、おにぎりやパンなどの炭水化物を中心とした食べ物を、ちょこちょこ口に放り込むのが通常です。だから「行動食」。頻度は最低でも1時間おきです。

わたしは休憩中に食べきれるくらいの小さなおにぎりをたくさん作っていきます。

おにぎりは海苔とご飯の間が痛みやすいので、蒸し暑い季節は別々に持ち歩くといいでしょう。

お酢や梅、レモンなどに含まれるクエン酸は疲労回復によいとされています。

塩分とビタミン補給を兼ねて「塩付けレモン」を持ち歩く人もいますね。酸っぱいものが得意な人はいいかもしれません。わたしはしっかりめに味付けした稲荷ずしが好物です。

エネルギーにはなりませんが、塩分補給ができる漬物、魚肉ソーセージなども人気の行動食です。

疲れていると食欲がなくなりますが、同じものばかり続いても、やはり食欲がなくなるものです。自分が好きなものを中心に、変化に富んだメニューを心掛けるといいでしょう。

おにぎりなら、鮭やうめぼし入り、おこわ、炊き込みご飯、チャーハン、カレーピラフ、スパムおにぎり(ハムを乗せたおにぎり)など、いくつかのバリエーションがあると食も進みます。

自分で何種類も作るのが大変なら、コンビニのおにぎりを活用するのもひとつの方法です。コンビニおにぎりは調理の過程で油をつかっていますから、冷えても硬くならず美味しくいただけます。

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3.下山後

運動を終えた後、速やかに糖質を含む食品をとると、筋グリコーゲンの回復を早め、壊れた筋肉を修復する効果があることが知られています。とくに、運動後6時間以内の糖質摂取がよいとされています。

失われたのは糖質だけではありません。タンパク質やビタミン、ミネラルも運動によって大量に失われていますから、可能なら栄養バランスのとれた「ちゃんとした食事」をすぐにとりたいところ。

でも、現実はお風呂に入ったり移動することが優先になり、食事はどうしても二の次になってしまいがちです。

すぐに食事ができないときは、あらかじめ軽食や補食を用意しておき、下山後に食べるといいでしょう。

行動食の残りを食べても構いません。登山中に失った水分の補給も同時にしておきましょう。

 

参考:「スポーツ栄養士のキッチンから」こばたてるみ 日本医療企画
「アスリートのための栄養・食事ガイド」日本体育協会スポーツ医・科学専門委員会監修第一出版
「登山の運動生理学とトレーニング学」山本正嘉 東京新聞

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