警戒心が強くてなかなか人前に姿を現さないことで知られるエゾナキウサギ。
そんなエゾナキウサギと出逢える選りすぐりスポットを紹介します。
この記事の目次
1.エゾナキウサギについて
>エゾナキウサギとは何?
>エゾナキウサギの生態
>エゾナキウサギの生息地
2.エゾナキウサギ観察スポット
>最大級の生息地帯は然別湖周辺
>おすすめ観察スポット3選
駒止湖
東雲湖
東ヌプカウシヌプリ
3.観察するときの注意
北海道の山に登るなら、一度は見てみたいと思うのがエゾナキウサギ。
登山者の心をひき付けるのには、姿かたちの愛くるしさのほかにもワケがあります。
それは、滅多に見られないということ。
そんなエゾナキウサギを、高い確率で、かつ至近距離で見ることができる場所を厳選しました。
動画もありますので、ぜひご覧ください。
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ナキウサギについて
遭遇率を高めるに、まずはナキウサギのことを知ることから始めましょう。
エゾナキウサギとは何?
ウサギ目ナキウサギ科ナキウサギ属に属する哺乳類。
ネズミのように見えますが、ウサギの仲間です。
アジアと北アメリカに約30種いますが、日本では北海道にだけ生息。
一般に「ナキウサギ」と呼ばれていますが、正式にはユーラシア大陸北部に分布するキタナキウサギの亜種「エゾナキウサギ」です。
エゾナキウサギは、1万年前以上前の氷河期に、陸続きだったシベリヤから北海道に渡ってきたと考えられています。
氷河期が終わって海面上昇すると、戻れなくなったエゾナキウサギは涼しいところを求め、北海道の山岳地帯で生き残りました。
広く認知されるようになったのは、1928年(昭和3年)に北海道置戸町で捕獲されてから。
もちろん地元の人はもっと昔からその存在を知っていて、旭川地方や十勝地方のアイヌの人々は、チチッ・チュ・カムイ(チチッと鳴く神様)と呼んでいたそうです。
エゾナキウサギの生態
手のひらサイズの小さなウサギ
日本に生息しているウサギは、ニホンノウサギ、アマミノクロウサギ、エゾユキウサギ、そしてエゾナキウサギの4種類。
他のウサギが体長50cm前後、体重約2~3kgと大型なのに対し、エゾナキウサギは体長15~18cm程度、体重120~160g。
手のひらサイズの小さなウサギです。
よく鳴くからナキウサギ
ナキウサギという和名は、よく鳴くことに由来しています。
特に繁殖期には盛んに鳴きます。
というのも、鳴き声でコミュニケーションをとっているんです。
縄張り宣言する様子をとらえた動画です。※50秒ある動画の最後で鳴きます
エゾナキウサギといえば、鳴き声はすれど姿は見えず…実際に見たことがある人は非常に少なく、もしも遭遇できたら運の良さに小躍りしたくなるほどレアな動物です。
手のひらサイズの小ささで毛色が岩と同化し、人の気配を感じたらすぐに隠れてしまう警戒心の強さも手伝って、ただでさえ見つけるのは困難。
そんな彼らを見つけるには、鳴き声が大きなヒントになります。
ところが、北海道在住の登山愛好家でも、エゾナキウサギの鳴き声を知らない人は意外と多いのです。
「ピチュッ」という甲高い声は、聞きなれていないと鳥の声と勘違いしてしまいがち。
エゾナキウサギがいるサインに気づかない可能性がありますから、覚えておいてくださいね。
特徴
ネズミと間違えられるエゾナキウサギですが、決定的な違いは歯。ネズミは門歯(前歯)が1対、エゾナキウサギは2対です。
耳は小さく丸いのが特徴です。岩と岩のすき間に生息するナキウサギにとって、小さい耳は邪魔にならず好都合なんですね。
しっぽはありますが、5~7mmと短くて見えません。
長いヒゲはセンサーになっていて、このおかげで、暗い所でも狭いところでも動くことができるのです。
毛の生え替りは年2回、夏は赤褐色、冬毛は灰褐色~暗褐色になります。
エサはコケモモ、ヒメスゲ、エゾムラサキツツジ、イソツヅジなどの葉や茎、しだ、コケ類、きのこまで植物なら何でもござれ。イワブクロやチングルマなどの高山植物の花も大好物です。
出産は年に1回、1~5頭程度を産みます。
子どもは自立する際に縄張りを求めて放浪しますが、条件にあった適地を見つけるのは難しく、生存率は高くありません。
寿命は4~5年程度です。
冬眠はせず、9月~10月頃に冬に備えてせっせと食べ物を貯蔵します。
1日の中では、昼間に活発に活動します。観察に適した時間帯は日中、季節では冬になる前の貯食活動が活発になる時期がねらい目ですね。
食糞します
エゾナキウサギの糞は2種類あります。
ひとつは直径3~5mmの丸いコロコロうんち。
この画像のように、同じ場所にたくさん溜め糞する習性があります。
もうひとつは、直径3~6mm、長さ18~25mm程度の細長くて柔らかいうんち。
吸収できなかった食べ物(草)を盲腸に送って、盲腸で発酵させてからうんちにする「盲腸糞」といいます。
盲腸糞には、タンパク質やビタミンB群が豊富に含まれているので、残った栄養を摂りこむためにもう一度食べるんです。
エゾナキウサギの生息地
エゾナキウサギの生息地は、北海道でもごく一部。
大雪山系、日高山脈、夕張山地、北見山地を中心に生息しています。
その地域のなかでも、生息に適した場所はさらに限られてきます。
主に標高1500m~1900mほどの冷涼な地域にあって、むき出しになった岩が堆積したガレ場や
堆積した岩の上に薄い土壌層ができて、その上に森林(アカエゾマツ、エゾマツ、トドマツ、ダケカンバなど)やコケ、シダ類に覆われた岩塊(がんかい)堆積地。
エゾナキウサギは暑さに弱く、15℃以下でないと生き残れないといわれています。
夏は冷涼で乾燥していることが絶対条件。
岩と岩のすき間は、天敵のエゾオコジョ、エゾクロテン、キタキツネからの逃げ場にもなるんですよ。
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エゾナキウサギ観察スポット
最大級の生息地帯は然別湖周辺
然別湖の標高は810m。
他のエゾナキウサギの他の生息地と比べると標高が低いですよね。
にもかかわらず、エゾナキウサギの最大級の生息地になっているのは、然別湖周辺が日本最大の風穴(ふうけつ)地帯だからなんです。
風穴とは何?
風穴とは、火山が噴火した際に流れ出た溶岩がくだけて岩となり、岩と岩の間にすき間(穴)ができている場所です。
冬の間に風穴に雪が入り込み、奥のほうは夏の間も溶けることがない永久凍土になります。
これは7月に撮影した風穴の写真ですが、中にはたっぷりと雪が残っています。
外気温は20℃を超えていますが、風穴から噴き出す風は1.2℃しかありません。
標高が低くても、風穴があるため、夏でも常に涼しい空気が留まります。
暑い場所が苦手なナキウサギにとって、最適な生息地なのです。
おすすめ観察スポット3選
駒止湖、東雲湖は、わたしの知る限りもっとも気軽にエゾナキウサギに出逢える場所。
同時に登山も楽しむなら東ヌプカウシヌプリもおすすめです。
駒止湖
アクセスの良さと遭遇率の高さで、他を凌駕する観察スポットが駒止湖。
正確にいうと、駒止湖から東に50m離れた所にあるガレ場です。
ガレ場の面積が狭いので、発見しやすく、至近距離で見ることができるのもメリット。
道道85号線鹿追糠平線の然別橋の脇に路駐帯があります。
そこから伸びる登山道を歩くことわずか10分ほどでガレ場に到着です。
休日ともなれば、高価な望遠レンズを装着したカメラの砲列が敷かれることも。
その手軽さから観光客がスマホ片手に訪れることもあるほどで、登山装備は必要ありません。
周囲を深い森に囲まれ、苔むしたとても美しい場所です。
わたしが行ったときは到着から30分で姿を現してくれましたが、こればかりは運次第。
風穴地帯ですから、涼しく、山特有の変わりやすい気候です。
姿を見るまでは帰らない覚悟で行くなら、雨具や防寒具を持参しましょう。
東雲湖
北海道三大秘湖のひとつである東雲湖も、エゾナキウサギのおすすめ観察スポットです。
東雲湖までは、然別湖の白雲橋から湖沿いに歩いて90分ほど。
アップダウンもさほどなく、気持ちのいいハイキングコースです。
東雲湖を見下ろす小高い丘陵の岩塊地帯がエゾナキウサギの生息地です。
ここまで訪れる人は、登山者やネイチャーツアーの一行などごく少数。
神秘的な湖を見ながら、静かに対面を待つことができますよ。
登山とセットで行くなら、白雲橋~白雲山~天望山~東雲湖~白雲橋と、周囲をグルッと1周するコースがおすすめです。
白雲山山頂のガレ場もエゾナキウサギ観察スポットです。
東ヌプカウシヌプリ
登山道脇の至るところに風穴があり、エゾナキウサギの鳴き声が聞こえるのが東ヌプカウシヌプリ(標高900m)。
白樺峠の登山口から登り始めて、20分ほどで最初の風穴地帯に到着します。
ここもエゾナキウサギの鳴き声が響き渡っています。
東ヌプカウシヌプリでは、冷気が噴き出す風穴により、本来は標高の高いところに育つ樹木などの植物が、標高の低い所に育つ植物よりも下にある「植生の反転」も見られます。
貴重な自然に恵まれた山です。

白樺峠から見える植生の反転
エゾナキウサギの遭遇率が高いのは、山頂下のガレ場。

東ヌプカウシヌプリ 山頂下のガレ場
頂上より南へ80mほど、ガレ場に下りる道が続いています。
ガレ場につくとエゾナキウサギの鳴き声があちこちから聞こえてきます。
難易度としては初心者コース。登山道も明瞭で技術的にも体力的にもキツくありません。
ただし、ガレ場歩きに慣れていない人は、転倒に注意する必要があるでしょう。
観察するときの注意
ここまで、エゾナキウサギが生息できる場所は、非常に特殊で、限定されていることがお分かりいただけたと思います。
その環境は、温暖化やスキー場などの開発、道路建設による生育地の分断などがおきると、いとも簡単に破壊されてしまいます。
エゾナキウサギは、2012年に環境省のレッドリストで準絶滅危惧種に選定されています。
今すぐ絶滅することはないにせよ、存在基盤が脆弱で、いつどうなってもおかしくありません。
観察するときは十分な配慮をお願いします!
- 餌付けするのは絶対にやめましょう
- 大きな声や物音をたてず、静かに観察しましょう
- 持ってきたものは持ち帰ること(ゴミ、食べ物、排泄物…全部です)
- 高山植物などの植生を傷つけないようにしましょう
- むやみに近づかないようにしましょう
かつて、トムラウシ山から化雲岳に向かう途中のロックガーデンで、エゾオコジョがエゾナキウサギを追いかけるシーンに遭遇したことがあります。
いったん通り過ぎたエゾオコジョが、わたしの足元まで戻ってきて、後ろ足立ちして愛敬を振りまいたのには驚きました。
可愛らしい姿に似つかわしくないどう猛さを持つエゾオコジョが余裕しゃくしゃくなのに対し、エゾナキウサギは命がけの全力疾走。
逃げおおせただろうか?と今もときどき思い出します。
エゾナキウサギにであえる場所は、幸いにもまだたくさんあります。
鳴き声が聞こえたら、立ち止まって周囲を観察してみてください。
参考:「ナキウサギつうしん」ナキウサギふぁんくらぶ発行