トラブル

遭難原因ワースト1は「道迷い」

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山岳遭難といえば、クライミングや冬山のような厳しい環境下で起こるイメージを抱いているかもしれません。

ところが、事故の大部分はハイキング程度の山で発生しています。しかも、遭難原因の第1位は危険なイメージとは程遠い「道迷い」。遭難原因の約4割を占めています。

そこには道迷いをきっかけに滑落や転倒した事例など、新たな事故を誘因したケースは統計に含んでいません。隠れた数字はもっと多いでしょう。

登山歴にかかわらず、誰にでも道に迷う可能性はあります。読図など迷わないための対策を事前にとることも重要ですが、いざ迷ったとき人はどのような心理に陥って、どう行動してしまうのか、知っておくことも大切です。

 

 

1.迷ったときにとるべき行動

道迷いは、遭難事故の中でもっとも恐怖を味わうとされ、恐怖心に支配されて冷静さを失い、信じられないような行動に出てしまうともいわれています。

山岳遭難 道迷い ピンクテープ

滝つぼに飛び込んで大けがをして動けなくなったところを偶然訪れた釣り人に発見された事例では、本人が後から振り返り、なぜそんな大胆な行動に出たのか自分でも分からないと語っています。

自分は冷静さを欠いていると認識できるだけで違います。さらに言えば、何をすべきで何をすべきではないのか、基本的な知識があれば、事態を一層悪くするような状況を避けることができるでしょう。

 

①もと来た道を場所が分かるところまで引き返す

登山標識

おかしいなと思った時点で引き返す。これは道迷いの大原則です。

遭難して運よく生還した人の手記には、おしなべて「引き返すポイントはいくつもあった」という言葉があります。

窮地に陥ると、人は自覚しないまま平常心を失い、冷静な判断ができなくなっているものです。

迷っているのが分かっているのに引き返さず、根拠もないのに「何とかなるかも」と、どんどん深みにはまっていきます。

こんなときは闇雲に動かないこと。そして、ちょっと落ち着いて、もと来た道を「場所が分かるところまで」引き返すことです。

ただし、どの地点まで引き返すのか、少し頭をクールダウンして落ち着いて考えてからにしてください。

 

②ヤブには入るな

登山藪に入らない

ヤブに入ると方向感覚を失います。

登山道から数十メートル外れただけでも、ヤブに入ると戻れなくなってしまうこともあります。

「このヤブを抜けたら登山道があるはず」「尾根があるはずだから」とショートカットのつもりで入るのも絶対に避けましょう。

ヤブに入った登山者の行動を追う実験では、思ってもみないところに出てしまったり、まっすぐ進んでいるつもりでも大きな円を描く「リングワンデリング」のような軌跡を描いていたという報告があります。

また、道なき道を行くヤブ漕ぎは、想像以上に体力を消耗します。感覚を研ぎ澄ませ、進む方向を見定めるために頭もフル回転させます。

沢登りなどでヤブ漕ぎを経験した人ならわかると思いますが、登山道を歩くのとは別次元のタフネスさが求められるといえるでしょう。

むやみに登山道を外れないこと。ヤブに入ってしまったらすぐに引き返すこと。そのまま突き進むことは、運を天に任せたも同然だと覚えていてください。

 

③迷ったときは沢を下るな

登山 迷ったら 下るな

「迷ったときは絶対に沢を下るな」という鉄則があります。

沢に入りこめば、やがてほぼ間違いなく滝にぶつかります。

無理に滝を降りようとすると転落する危険もあるでしょう。登り返す体力もなく、かといって滝を降りることもできず、進退窮まって動けなくなることもあります。

GPSや携帯、スマートフォンの電波も、谷間ではうまく受信することができません。ヘリでの捜索も、沢筋にいる人間を発見するのは尾根よりも難しくなります。

川を下ればいずれ人里に出るイメージがありますが、山では自殺行為です。沢は登るより下るほうが技術的にも圧倒的に難しく、ザイルなどの特殊な装備を必要とします。

迷ったとき、人は少しでも麓に近づこうと無意識に下ってしまいます。沢には入っていけない。そう知っておくだけで命運を分ける知識です。

 

④ビバークは早めに

エマージェンシーツェルト 簡易テント

暗くなってから歩き回っては、転倒や滑落のリスクが高くなります。

それ以上状況を悪化させないためにも、明るいうちに野営(ビバーク)の準備を始め、その場に留まることで体力を温存しましょう。

ビバークするときに使うのは、ツェルトという簡易テントです。

ストックを支柱にしたり、木に紐で結びつけて形状を保ちます。何もなければ被るだけでもかまいません。それだけでも驚くほど温かいのです。

コンパクトで軽量なことから、常にザックの中にいれておきたい装備のひとつです。値の張るものなので最初から装備に加えるのは無理かもしれませんが、登山を続けるならいずれはそろえるべきでしょう。

ツェルトがなければ、レスキューシートを使います。防災グッズとして自宅に常備している人も多いでしょう。

ポリエステルフィルムにアルミを蒸着したシートが主流で、シート状のものや寝袋のような筒状のものまでいろいろあります。

非常に薄いシートですが、効率よく身体の熱を反射することができるため、自分の体温を逃しません。これ1枚あるだけで寒さがかなり違ってきますし、数百円と安価ですから必携です。

何もなければ、ハイマツ帯の中に入って寒さをしのいだり、落ち葉にもぐったり、岩陰に身をひそめたりと、可能な限り自分の身を守る努力をしてください。

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2.迷いにくい登山道は「一本道」か「道標が整備された道」

道迷いは誰にでも起こりうることです。ベテランだろうと初心者だろうと関係ありません。 

山には目印になるような人工建造物はほとんどありません。ヤブや樹林帯に四方を囲まれたり、延々と代り映えのしない風景が続くと、いつ道迷いが始まってもおかしくないのです。

山岳遭難研究の第一人者である青山千彰の著書「山岳遭難の構図」より

”(中略)多くの登山者はカーブの多い、見晴らしの悪い山を歩いている場合、ほとんどめざす山の方向を失っている可能性が多いと考えられている。”

”登山道が一本道で、前進か後退か、進行方向さえ間違わなければ、分岐点までは完全に方向を失った状態であってもたどり着く。さらに、節となる分岐点に道標が設置されているか、地図で正しい方向が確認できると、道迷いはほとんど起こらない。”

これによると、道迷いがほとんど起こらない理想的なコースは、「登山道が一本道」か「登山道の分岐には道標が設置されるなど整備が行き届いた道」ということになります。

わたしの住む地域にも、そのような「理想的なコース」を持つ山がいくつかあります。

そんな山は、季節を問わずいつも人で賑わっています。単独登山者が多く、高齢者から滅多に山には登らないであろう幼い子どもを連れた家族まで、幅広い年齢層が見られることも特徴です。

道迷いの心配のない山は、誰でも安心して登れる山ということ。初心者は、こういうコースから登るべきなのは言うまでもありません。

 

◆ツエルトについて詳しく知りたい方は、こちらをどうぞ。

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