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【北海道の山】十勝岳~美瑛岳 日帰り縦走コース登山ガイド

更新日:

 

十勝岳

火山がつくりだす景観と登山の醍醐味である稜線歩きを味わう、十勝連峰「十勝岳~美瑛岳」日帰り縦走コースの紹介です。

レキと噴煙で無機質な印象の十勝岳、豊富な高山植物に彩られた美瑛岳。このコントラストが魅力です。

道迷いをはじめとする遭難事故が多いエリアです。入山に際しての注意点もしっかりお伝えします。

 

 

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十勝岳~美瑛岳 日帰り縦走コースの魅力 

大雪山国立公園の南に位置している十勝連峰の主峰「十勝岳2,077m」と第2の高峰「美瑛岳2,052m」を日帰りで縦走します。新旧の火山がつくりだす景観のなか、スケールの大きな稜線歩きを味わいます。

 

新旧の火山がつくりだす景観が素晴らしい

コースのメインは新旧の火山がつくりだす比類なき景観でしょう。

今なお噴煙を上げ続ける十勝岳は、噴火警戒レベルが導入されている活火山です。もっとも最近の爆発は1988年で、地球規模でいえば「ついさっき」。このときは火砕流が中腹の避難小屋にあと100mまで迫りました。

望岳台から見た十勝岳

登山道わきには幾つもの火口があり、風で運ばれる硫黄性のガスの臭いをかぎ、噴煙を全身に浴びながら登ります。活きた火山のパワーを感じられるはずです。

美瑛岳は火山としては十勝岳よりも早く活動を終えた山。高山植物が豊富で緑に覆われた穏やかな印象ですが、十勝岳側から見た山容は、山の半分が爆発でえぐられ、馬蹄形の爆裂火口が大きく口をあけた荒々しい姿。

十勝岳から見た美瑛岳の爆裂火口

かつての激しい火山活動の名残をとどめています。

 

時間を凝縮して植物の変遷をたどる

数百年の時を数時間に凝縮して、植物の変遷をたどります。

火山が噴火すると、溶岩や火砕流が流れ出して大地を覆い、草木が一本もない裸地になります。そこから気が遠くなるほど長い年月をかけて、植物が生え、樹木が育っていきます。

昭和だけでも2回の噴火を経験している十勝岳は、茶褐色の山肌が露出したモノトーンの世界。植物はほとんどなく、イワイソツツジやマルバシモツケなどが観察できる程度です。

十勝岳

一方、火山としては十勝岳よりも古い美瑛岳は高山植物の宝庫。頂上付近の岩場にはイワウメ、イワブクロなどが咲き、少し下ればエゾコザクラ、エゾツガザクラ、さらに下にはウラジロナナカマド、ウコンウツギなどのかん木帯が現れます。

美瑛岳

殺伐とした十勝岳と緑濃い美瑛岳。このコントラストが魅力です。

 

稜線歩きの眺望と開放感がケタ違いのスケール感

スケールが大きい稜線歩きが味わえます。

十勝岳から美瑛岳への稜線は、顕著な尾根がない平坦なレキ地。むき出しの地球を歩くような感覚と開放感が味わえます。自然が織りなす美しさに、驚嘆せずにはいられません。

十勝岳・美瑛岳の稜線歩き

前後に十勝連峰のつながりが見えることで、眺望に奥行きが加わります。後ろには上ホロカメットク山や上富良野岳、富良野岳、前方にはオプタテシケ山。はるか遠方には、トムラウシ山をはじめとする大雪山系の頂が重なりあっているのが見えるでしょう。

十勝岳から見たトムラウシ山・旭岳方面

上富良野岳から旭岳まで、6日間くらいかけてつなぐことも可能です。登山者なら誰しもが憧れる究極の縦走路です。

 

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十勝岳~美瑛岳 日帰り縦走コース登山ガイド

望岳台からスタートして、十勝岳、美瑛岳を反時計回りするコースの基本情報です。

十勝 美瑛岳 時間地図

 

基本情報

距離15.7km
標準ガイドタイム9時間

望岳台(3:50)十勝岳(2:30)美瑛岳(2:40)望岳台

登山口望岳台
難易度上級
水場なし
山小屋十勝岳避難小屋(木造、トイレ無し、水無し、無人)
装備防寒着(厚手のフリース等)、ヘルメットの着用を推奨
駐車場登山口に70台(無料)
トイレ十勝岳望岳台防災シェルター内(24時間使用可)

山中では携帯トイレを使用(携帯トイレブース無し)

防災施設十勝岳望岳台防災シェルター(24時間利用可、12月下旬から4月下旬は閉鎖)水道、トイレ、ヘルメット、非常食、自家発電機の備えがある
携帯電波状況docomoauは利用可能、softbankは一部利用不可
問合せ先美瑛町役場 総務課 総務係 電話:0166-92-4316

 ガスがかかると道迷いしやすい地形です。視界不良時は引き返すことも念頭に置いて行動しましょう。要注意チェックポイントは2か所、十勝岳の頂上付近と稜線です。

幸いなことに、山域の携帯電波状況は悪くありません。スマホGPSで現在地を確認することも、最悪の状況になったときは救助要請することも可能です。緊急時の通信手段として使えるように、山行中はスマホを機内モードで節電し、予備バッテリーを持ち歩くことをおすすめします。

距離が長く体力がいるため、難易度は上級です。十勝岳や稜線には日差しをさえぎるものがありません。悪天候では吹きさらしになり、身を隠す場所にも困ります。熱中症低体温症には常に注意が必要です。食料や水、雨具や防寒着などの装備は万全に。

活火山であることにも注意が必要です。登山口のある望岳台には防災シェルターがありますが、縦走コース上には噴火に備えた避難場所はありません。ヘルメットは自分の身を守る唯一のギア。ぜひ携行したいものです。入山前には火山活動に関する情報を確認し、非常時にとるべき行動を頭の中でシュミレーションしておきます。

 

コース概要

トータル9時間(休憩なし)

望岳台(1:00)避難小屋下分岐(1:30)すり鉢火口(1:20)十勝岳(2:30)美瑛岳(0:50)分岐(0:30)ポンピ沢(0:40)避難小屋下分岐(0:40)望岳台

長時間コースなので、不測の事態に備えて早立ちします。考えることは皆同じで、日の出とともに駐車場が混雑してきます。望岳台から避難小屋下分岐までは、扇状に広がった泥流跡を登ります。周囲はマルバシモツケやイワイソツツジが多く、7月ころには満開になります。

望岳台

 

1時間ほど歩いて体が温まってきたころ、十勝岳と美瑛岳の分岐にさしかかります。ここから250mほど進むと、十勝岳避難小屋に到着します。

避難小屋下分岐

 

2008年に建替えられた小屋は木造平屋建て。内部にはヘルメットや毛布などが備え付けられています。道迷いや気象遭難の防止を目的に建築された施設で、宿泊利用はできません。

十勝岳避難小屋

十勝岳避難小屋内部

 

息が上がるような急峻な登りはほとんどありません。ガレとレキのスロープのような斜面をひたすら登る、持久力が試される山です。

十勝岳

 

噴煙が白くたなびいています。風向きによっては硫黄性のガスを吸い込んで、喉を傷めることも。否が応でも活火山であることを認識させられます。

十勝岳 すり鉢火口

 

噴煙を全身に浴びながら、すり鉢火口の縁をたどります。うっすらと踏み跡が残る程度の不明瞭な登山道には、所どころケルンやピンクテープを巻いたポールがあるだけ。ガスがかかれば、いとも簡単に方向感覚を失います。

十勝岳 すり鉢火口の縁を歩く

 

巨大なグラウンド火口を右に見ながら進むと、小首を傾げたような円錐の十勝岳山頂が見えてきます。

十勝岳

 

稜線にとりつく斜面は十勝岳いちばんの急登です。雨裂でえぐられた山肌は、粒子の細かい火山灰で滑りやすく、歩きにくいのが難点。

十勝岳 山頂直下

 

次々と訪れる登山者で身動きが取れなくなることもある十勝岳山頂。登り切った達成感にひたりながら、十勝連邦の最高峰からの眺めを満喫します。

十勝岳山頂

 

来し方を振り返ると、上富良野岳、上ホロカメットク山が見えます。

十勝岳山頂から見る上ホロカメットク山方面

 

進行方向を見ると、美瑛岳の爆裂火口越しにオプタテシケ山の三角形の頂がちょこんと顔を出し、はるか後方の左端に旭岳、右にはトムラウシ山が見えます。

十勝岳山頂から見た大雪山系

 

足元には激しく噴煙を上げる62-2火口。その向こうには美瑛町や上富良野町の市街地が広がります。

十勝岳から見た上富良野町方面

 

十勝岳から先は、尾根というより土漠を歩いているような、スケールの大きな稜線歩きです。登山道といえるものはなく、薄っすらとした踏み跡が幾筋もついているだけ。道迷いに最大限の注意を払わなくてはいけない場所です。悪天候時は無理をせず、引き返す判断をしましょう。

十勝岳と美瑛岳を結ぶ尾根歩き

 

振り返って見た十勝岳は、見事な溶岩ドームでした。

十勝岳山頂の溶岩ドーム

鋸岳を右にトラバースします。

鋸岳

 

巨大な爪にひっかかれたような雨裂。雨水が大地を削って尾根や谷を形成する過程を見ることができます。

雨裂

 

十勝岳では生命の気配さえ感じませんでしたが、美瑛岳に近づくにつれて大地に緑が増えていきます。美瑛岳山頂は、爆裂火口を左に大きく回り込んだ奥。登山道脇は、キバナシャクナゲやエゾツガザクラ、メアカンキンバイなどの高山植物におおわれています。花を楽しむなら、7月下旬がおすすめです。

美瑛岳の爆裂火口

 

美瑛岳 イワギキョウ

イワギキョウ

 

美瑛岳の山頂は鋭鋒だけに狭く、片側は大きく崩れ落ちた崖です。足元に視線を落とすと、ゾクっとするような高度感に襲われます。

美瑛岳山頂

 

美瑛岳の山頂から爆裂火口越しに見る十勝岳。ひときわ重々しい佇まいを見せています。

美瑛岳から見た十勝岳

          

左は美瑛富士、右はオプタテシケ山です。

美瑛岳から見た美瑛富士とオプタテシケ山

 

ひとしきり展望を楽しんだら、気を引き締めて下山。美瑛岳の下りには、笹やハイマツをつかんで下りる急斜面が続きます。長時間の山行で疲れが出てくるタイミングでもあるので、滑落や転倒に注意したいポイントです。

美瑛岳の下山

 

美瑛岳は高山植物の宝庫です。頂上付近の岩場にはイワウメ、イワブクロなどが咲き、少し下ればエゾコザクラ、エゾツガザクラ、さらに下にはウラジロナナカマド、ウコンウツギなどのかん木帯が現れます。高度によって植物が移り変わる様子も魅力です。

美瑛岳 ガンコウラン

ガンコウラン

 

ポンピ沢は、美瑛岳の爆裂火口に作られた深いV字沢が源頭です。通常なら、登山靴を濡らすことはないはず。

美瑛岳 ポンピ沢

 

雲ノ平の手前には深くえぐれた函状の北向沢があります。7月上旬まで雪で埋まっていることが多く、時期によってはハシゴで上り下りします。

美瑛岳 北向沢

 

振り返れば、緑におおわれて穏やかな表情を見える美瑛岳。緊張を強いられた下山がウソのようです。稜線から見た爆裂火口の荒々しいイメージともまるで違う印象です。

美瑛岳

 

道はなだらかな下りになり、望岳台までの山腹をトラバースします。このあたりは雲ノ平と呼ばれ、登山道脇の高山植物が見事なハイキングコース。右手には美瑛町や上富良野町の街が広がり、展望もよし。やがて避難小屋が見えてくるころには、疲労感とともに、広大な山域を一周してきたことを実感するでしょう。

美瑛岳 雲の平

 

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コース上の注意点

この山域では、道迷いが多く発生しています。道迷いをきっかけに身動きが取れなくなり、低体温症を発症して重大な結果を招いた事故も少なくありません。調べてみると、転倒による負傷も多いことがわかりました。

十勝岳と美瑛岳付近で、平成29年~令和2年までの4年間に起きた夏山シーズン中の遭難事故です。

発生日山岳名遭難者態様原因事案概要
平成29年9月10日美瑛岳70代女性負傷転倒望岳台から入山し美瑛岳山頂に到着、ポンピの沢付近を下山中、登山道上で転倒し頭部と臀部を負傷
6月10日十勝岳50代男性死亡不明登山者から「十勝岳9合目付近で50歳くらいの男性が倒れている」との110番通報
7月9日十勝岳60代女性負傷体調不良望岳台から入山、山頂に到着後、7合目付近を下山中、右膝の痛みで行動不能となり、消防に救助要請
平成30年7月28日十勝岳40代男性無事疲労白銀荘から入山し十勝岳山頂 に到着、上ホロ分岐を下山中、疲労で歩行困難となり、同行者が消防に救助要請
8月16日十勝岳40代男性死亡道迷い午後2時頃札幌管区気象台火山センターから「十勝岳で道に迷った 登山者がいる」と警察署に通報
              9月26日十勝岳40代男性無事道迷い望岳台から入山し山頂に到着、十勝岳避難小屋付近を下山中、登山道を見失い道に迷い、 110番で救助要請
令和元年9月20日十勝岳50代男性死亡道迷い望岳台から十勝岳山頂に向け登山中、吹雪による視界不良のため道に迷い自ら110番で救助要請
令和2年7月29日十勝岳70代男性負傷転倒上ホロ分岐付近を登山中、転倒し左足を負傷、自ら110番で救助要請
9月20日十勝岳60代男性負傷転倒1合目付近を下山中、めまいにより転倒して行動不能となり、他の登山者が110番で救助要請

北海道警察 山岳遭難発生状況 平成30年~令和2年より

 

道迷い

十勝岳と十勝岳から美瑛岳をつなぐ稜線では、道迷い遭難が頻発しています。

要因のひとつは、地形的な特徴に欠けること。十勝岳は火口が点在する複雑な地形で、目印となるようなピークや樹林帯もありません。稜線は尾根というにはあまりにも広く平坦で、晴れていてもルートを見失いそうなほど。

そんな地形的な要因に、不明瞭な登山道が追い打ちをかけます。一般的な草付きの登山道とは違い、このルートの登山道はレキや火山灰で覆いつくされた大地に、うっすらと踏み跡がついているだけ。ガスがかかれば僅かな手がかりさえ消えてしまい、現在地を把握することが難しくなります。

道迷いから死に至るケースが多いことも特徴でしょう。このあたりは夏でも気温が一桁になることがあり、進退窮まって動けなくなれば低体温症のリスクにさらされます。寒さに対する備えは命を左右します。

北海道の2000m級の山の気象条件は、本州の3000m級に匹敵します。装備ひとつとっても冬に準じたものが必要で、防寒着は厚手に限ります。雨具は防寒着になりませんので、念のため。

ビバークを余儀なくされる場合は、ツエルトが明暗を分けます。いつでも、どこに行くときも、常にザックの底にしのばせておきましょう。

 

疲労

改めて遭難事故の統計を調べてみると、転倒による負傷が多いことに驚きました。体力不足、疲労が要因として考えられます。

十勝岳には日本全国のみならず世界中から登山者がやってきます。日本百名山の知名度に加え、アクセスもいい。登山口から山頂まで見晴らしが効くため、近くに感じることもあるのかもしれません。普段は山に登らないような人まで、観光気分で登る傾向があります。

実際には十勝岳だけでも往復10.4kmと距離があり、十勝岳と美瑛岳への縦走ともなれば15.7kmのロングコース。体力の要る上級レベルです。はやる気持ちを抑えて、自分の体力に見合っているかを客観的に判断することが大切です。

疲労にも、エネルギー不足、脱水、暑さ、寒さによる疲労があります。とくに十勝岳から美瑛岳までは、日差しや風雨をさえぎる木々もない吹きさらしの裸地。熱中症や低体温症のリスクが常につきまといます。

知人は脱水と長時間の山行で疲労困憊し、美瑛岳の下山でふらついて10m滑落しました。幸い軽傷で済んだことから、周囲の助けを借りて自力下山しています。山岳遭難件数にカウントされているのは氷山の一角でしょう。その陰にはたくさんの救助要請未満の事故が隠れていると思って間違いありません。

登山の食事についてはこちらの記事をどうぞ。

登山にぴったりの飲み物と水分量についてはこちらの記事をどうぞ。

 

活火山

十勝岳山頂付近と上ホロカメットク山の安政火口は、今も活発に活動しています。登っている最中、突発的な噴出現象が発生する可能性は十分あります。

最も新しい噴火は1988年12月で、十勝岳避難小屋の手前100メートルまで泥流が流れました。そのときは、十勝岳、美瑛岳、三段山の登山が全面的に禁止されています。

平成26年12月16日には噴火警戒レベル2が発表され、グラウンド火口近くの62-2火口、大正火口周辺から概ね1mの範囲の立ち入りが規制されました(翌年2月24日に解除)。それに伴い、十勝岳避難小屋から山頂への登山道は閉鎖されています。

2014年の御嶽山噴火を教訓に、2016年、登山口のある望岳台には噴石から身を守るための防災シェルターが建設されました。

望岳台 防災シェルター

しかしながら、縦走コース上には噴火に備えた避難場所はありません。多くの登山者は丸腰です。ヘルメットは自分の身を守る唯一の防具だということを忘れずに。入山前には火山活動に関する情報を確認し、非常時に躊躇なく行動できるように準備しておきましょう。

ヘルメットの選び方はこちらの記事をどうぞ。

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