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膝の痛み(原因と対策)

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膝の痛み

登山中の膝の痛みは、年齢を重ねた人だけが経験するものではありません。むしろ登山歴が長い人ほど多い傾向にあります。

日常的には問題をかかえていなくても、重量オーバーの荷物を背負ったり、自分の限界を超える距離を歩いたときなど、予期せず起こるものです。

わたし自身も30代のころ、重い荷物を担いだ数日間の縦走で膝を痛め、その後1か月近く階段の上り下りやトイレで苦労した覚えがあります。

登山を長く楽しむためには、慢性的な膝痛持ちになるのは避けたいもの。

トレーニングで筋力を付けるのは当然ですが、道具の助けを借りることも含めて、膝の痛みの原因や対策についてお伝えします。

 

1. 膝の痛みはなぜ起きる?

一口に膝の痛みといってもさまざまです。

①膝の外側が痛む

膝の屈伸運動を繰り返すことで、太ももの外側にある筋肉(腸脛靭帯)が大腿骨の外側に出っ張っている骨とこすれて炎症を起こし、痛みが生じます。主な原因はオーバーユース。繰り返しやすいといわれています。

②膝の内側が痛む

膝が内側に入るのを抑制している筋肉(大腿筋膜張筋や内側広筋など)が疲労して、痛みを引き起こします。ひどくなるとX脚気味になってきます。荷重によって痛むので、体重の重い人は要注意!

③膝の下が痛む

太ももの前面にある、膝下を伸ばして股関節を曲げる働きをする大腿直筋が疲労して伸縮性が悪くなると、膝のお皿が上に引っ張られて痛みを生じます。着地の衝撃に対応し続ける下山中に多くみられます。

④膝が笑う

下りで大腿四頭筋が疲労して筋力が大きく低下してしまうと、体重を支えられなくなってふんばりが利かなくなってきます。転倒が起こりやすいので要注意。脚力が弱い人に多く見られます。

 

2.膝のトラブルをサポートする道具

①ストック

膝のトラブルをサポートする道具として、最もコストパフォーマンスが良いのはストックです。

ストックを使うと脚部の筋力にかかる負担が上半身にも分散されますから、膝に慢性的な問題を抱える人や脚力の弱い人には無くてはならない道具。

ただし、正しく使えばという条件付きです。どんな道具も使い方を誤ると道具の持つ性能が発揮されないばかりか、ケガや事故につながることがあります。

よく見聞きするのは、体重を預けすぎて転倒するケースです。ストックの長さ調整が甘く突然短くなったり、ストックの先端が滑ったりした場合、頼り切っているとバランスを立て直すことができません。

下りでは、脚より先にストックを突かないと脚部のサポート効果は十分に発揮できません。ただ漫然と持ち歩くのではなく、自分の手足のように使いこなす必要があります。

ストックは沢の渡渉などでバランスをとるのにも便利ですし、ぬかるんだ登山道での転倒予防など、山で使える範囲が広い道具です。持っていて損はありません。

持ち手の形状や長さ調節の方法、1本で使うタイプ、2本のダブルストック、アルミやカーボンといった素材の違いなどを含めると、さまざまな種類があります。

おすすめは、I型グリップ(持ち手)でバランスがとりやすい2本タイプ。使わないときはザックに収納するので、2~3段階で長さ調整でき、手首の負担が軽減できるアンチショック(衝撃吸収)機能が付いたストックがいいでしょう。素材は耐久性のあるアルミ合金が丈夫で長持ちします。

わたしが愛用しているのは10年近く前に購入したアルミ合金のひとつジュラルミン製のストック。後継機種はこちらになります。

ストックの選び方やメンテナンス方法について詳しく知りたい方はこちらを参考にどうぞ!

登山用ストック ダブル シングル
ストック(選び方/メンテナンス)

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②機能性タイツ

テーピングの原理を応用しているのが、登山の機能性タイツです。

筋肉疲労の軽減や膝関節への衝撃緩和を目的としたこのタイツ。周囲でも装着率がかなり高く、ほぼ登山の標準仕様になりつつあります。

わたしが2002年から愛用しているのは、1991年にワコールが発売した機能性タイツのロングセラーCW-Xシリーズです。

機能性タイツ ワコールCW-X

高額な商品なので購入を迷っていたとき、60代の山の先輩の「今はわからないだろうが、自分の年齢になったら効果がはっきりと自覚できる。」という言葉に背中を押されました。

今のところ明らかな効果を実感することはありませんが、いくつになっても登山を楽しむために、転ばぬ先の杖として夏山から冬山まで一年を通して愛用しています。

タイツには「サポート系」とパフォーマンス向上を目的とした「アスリート系」の2タイプあります。

ケガや痛みの予防対策用には「サポート系」のタイツを選びましょう。部分的に生地の伸縮力を変えることで、筋肉疲労や膝関節のブレを押さえる作りになっています。

股関節サポートを基本に、ひざ関節の安定を追求したワコールのCW-X STABILYXモデルがおすすめです。わたしも含めて山仲間はほとんどこれ。

機能性タイツのデメリットを挙げるなら、脚全体に締め付けがあるので長時間での着用は窮屈に感じることですね。

わたしの妻は、汗をかくとウェストやラインの入ったところがかゆくなるのがネックだと言っています。

 

 ③テーピング

これまでのテーピングは、疲れや痛みが出たあと、固定や可動域を制限する目的がメインでした。

使い方が難しく、わたしは習ってもすぐに忘れてしまうため、扱いにくい印象があります。

現在は予防目的で使用するテーピングが主流です。

スポーツ用品店でひときわ目を引くのは、キネシオロジー(人体運動機能学)を由来としたキネシオロジーテープ。カラフルで若い人に人気です。

筋肉に沿って貼ることで動きを助けたり、関節を優しく固定します。

登山で使うなら5センチ幅のテープがおすすめ。膝専用にカットされているものなら、説明を見ながらすぐ貼ることができて扱いも簡単です。

予防が目的なので、登山中に痛くなって使うのではなく、登る前に使用することになります。

登山に行く回数が年に数回程度の人なら、機能性タイツを購入するより安上がりでしょう。

ネックなのは、皮膚に直接貼るので、体毛の多い男性は毛を剃らないと痛みや違和感があること。山に行くたびにすね毛を剃る気にはなれません。

 

④靴のインソール

足裏のゆがみからくる膝痛もあります。

家にたとえると、脚は体を支える土台で、足裏は基礎部分。基礎にゆがみがあると家全体にも悪影響を与えます。

足裏のアーチは歩いているときの衝撃を受け止めて、和らげてくれる大切な役割を果たします。そのアーチが崩れると、膝の痛みや腰痛、肩こりや頭痛の原因になります。

登山靴に中敷きを入れて足裏のゆがみを矯正すると、歩行がずいぶんと楽になり、膝痛や腰痛なども改善できる可能性があります。

登山やスキーなど足裏の感覚が重要なスポーツは、オーダーメイドで中敷きを作る人が多ですね。

わたしもスポーツ専門店で1万円程度のものを作りましたが、効果は抜群で非常にバランスがとりやすくなりました。

自分の体温で徐々に足形に成型することができるカスタムタイプもありますし、特にトラブルを感じていないのであれば、一般的な中敷きでもかまいません。

少なくとも、登山靴に最初から入っている貧弱な中敷きは交換しましょう。

 

3.道具に頼らない解決方法

①筋力トレーニング

「老化は脚から」と言われるように、加齢で真っ先に衰えるのは、登山で最も重要な脚の筋肉でもあります。膝痛対策の本筋は、筋力を付けることです。

膝の筋力トレーニングには、スクワット運動が最適です。スクワットはトレーニングの王様ともいわれているくらいですから、全ての登山者に共通しておすすめできる運動でもあります。

肩幅程度に足を開き、膝と脚のつま先の向きを一致させます。そして、股関節も曲げながらお尻を突き出すように曲げてから伸ばします。

このとき、膝がつま先よりも前に出ないように注意しましょう。背筋はまっすぐに伸ばすこと。手を前に出すとやりやくなります。

回数は10回を1セットとして3セットくらいから始めましょう。

やりすぎは厳禁。間違ったやり方をすると逆に痛めてしまいますから、正しいフォームで行うようにしてください。

②正しい歩き方と工夫

膝に負担がかからないように、歩き方を工夫しましょう。

登山でバテない歩き方3つのコツ」でもご紹介しましたが、脚にかかる負担は下山時が最も大きくなります。そのため、下山の歩き方を工夫することで改善も可能なのです。

登山歴が長いほど膝痛を抱えている人が多いというのは、蓄積した負担の大きさを感じさせます。長く登山を楽しむためには、1回1回の山行が大切になってくるということなんですね。

 

まとめ

膝痛は予防がとても重要です。

登山を長く楽しむためには、慢性的な膝痛持ちになるのは避けたいもの。

テーピングやサポーターなど弱さを補う道具を取り入れつつ、筋力をつけたり歩き方を工夫するなど、膝痛の原因を根本から見直すことも大切です。

ここでは紹介していませんが、ストレッチ素材のパンツをはくことでも、膝の曲げ伸ばし動作が楽になり、結果的に膝関節や足の筋肉にかかる負担が軽減されます。

また、忘れがちですが、体重を落としたり装備を軽くすることで体が軽くなると、膝にかかる負担も小さくなります。改善の余地のある人は頑張りましょう。

 

参考
「テーピングで快適登山(山登りABC)」高橋仁 山と渓谷社
「登山の運動生理学とトレーニング学」山本正嘉 東京新聞

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