登山をするなら「ぜったい読んでおくべき!」と思う本を厳選しました。
随時更新していく予定です。
登山の運動生理学とトレーニング学
下山したら体重が増える、むくみが出る…。
先輩に相談したとき教えてもらったのが前作「登山の運動生理学百科」です。
どうやら原因は、登山中の食べ物や飲み物の摂り方にあったようでして、
本を読んで改善したところ、悩みだった体重増加やむくみが無くなったばかりか、疲労回復も早くなるというオマケまで付いてきました。
「登山の運動生理学とトレーニング学」は、「登山の運動生理学百科」を最新データをもとに大幅に改定、加筆したもの。
716ページの分厚さに圧倒されますが、必ずや「読んでよかった!」と思える内容です。
山に行く時には、その山を知るためにガイドブックを参考にする。本書は、山に行く自分の身体を知るためのガイドブックである。
前書きにある通り、
「登山の運動生理学とトレーニング学」は、食べ物や水分の取り方、歩き方、筋肉痛などのトラブル、トレーニング方法など、登山における身体の働きや仕組みについて網羅しています。
平易な文章で書かれているので、わたしのように栄養学や医学などの専門知識がない人でも理解できるのが素晴らしい!
現在のところ、この本を超える指南書はありません。
巷には「登山にオススメの○○はコレ」といった安直なハウツー情報が溢れていますが、
根本的な原理を理解していないと、個々人に落とし込んで応用・発展させることができません。
本書はまさに「魚を与えてくれるのではなく、魚の釣り方を教えてくれる」本。
読後には試行錯誤の楽しみが待っています。
特筆すべき点は、中高年登山者に向けての情報やアドバイスが豊富であること。
加齢とともに身体能力は衰えていきますが、知識を補うことで、知的レベルでの登山能力を上げていくことは可能です。
「高みを目指すアスリートのための本」をイメージするタイトルですが、どっこい、60代~70代の中高年登山者にこそ読んでもらいたい。
加齢による体力の低下に可能な限り抵抗したいなら、読んでおくべき1冊です。
ドキュメント 道迷い遭難
登山歴25年以上になるわたしにも、下山途中で登山道を外れ、1本隣の沢筋を下ってしまった経験があります。
道が違うことに気づいて、たどってきたルートを必死で登り返すこと30分。
正しい道に合流して、安堵したとたんに恐怖が襲ってきました。
「迷ったときは、もと来た道を引き返せ」
「沢を下るな」
道迷い時の行動の大原則を知っていたからこそ、大事に至らなかったのだと思います。
わたしがそうだったように、道迷いしたときに陥りがちな行動パターンや心理を確認し、対処法をあらかじめ知っておくだけで、防げる事故はたくさんあるでしょう。
著者は、山岳遭難に関する本を多く執筆している「遭難ルポ」の第一人者です。
実際に起きた道迷い遭難を取材し、生還した遭難者や関係者からの聞き取りから、遭難者の当時の行動や精神状態をつまびらかにして、事故の検証を行っていきます。
災害や非常事態の際に、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、「まだ大丈夫」「自分は大丈夫」と過小評価してしまう心理を「正常性バイアス」というのだそうです。
インタビューに答える遭難者の多くが、道に迷ったことに気づきながらも「何とかなる」と道なき道に入りこんでいってしまう様子はまさにそれ。
正常な判断力を失っていく過程が怖いほどわかる本です。
「道迷い」は遭難原因の第1位で、遭難事故の約4割を占めています。
しかも、雪山でも険しい山でもなく、ハイキングレベルの夏山に多く発生しています。
だから、登山初心者は”いの一番”に。
ベテラン登山者にも、”気を引き締める”ために折りに触れて読み直してもらいたい本です。
著者の本は多数出版されており、どれも外れがありません。
シリーズで「滑落遭難」「単独行遭難」がありますが、まずは「道迷い」から優先して読んでもらいたいですね。
トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか
2009年7月、北海道トムラウシ山で8名が低体温症で死亡した気象遭難事故の検証本です。
当時近くに住んでいたわたしは、多くの山仲間が捜索や救助、事故後の検証に携わっており、身近な山で起きた悲劇に大きな衝撃を受けました。
防寒対策の不備、縦走中の食事が各人任せで栄養不足だったこと、低体温症への知識不足、ツアー登山ならではのお客様意識、強行スケジュール、ガイドの知識不足…様々な問題が凝縮した事故でした。
それだけに、多くの教訓を残してくれています。
遭難事例は、自分の問題としてとらえることで「自分の身にそれがおきたときにはどうしたらいいか」ということを、現実的に考えられるようになります。
「自分だったらどうするだろう?」
本書を読み進めながら、対処法を頭の中でシュミレーションしてみてください。
それだけで、体調管理力や適応力、危機管理力といった、過酷な条件下で生き残る能力を高めることができるはずです。
さらに、本書では低体温症について詳しく記述されています。
低体温症は冬山に多いと誤解されがちですが、夏山で風雨にさらされるほうが加速度的になりやすく、夏山シーズン限定の登山者にとって他人事ではありません。
同事故も本州からの登山ツアーでしたが、北海道の山での低体温症の症例は、道外からの登山者がほとんど。暑さ対策は念頭にあっても、寒さへの備えが不十分なんですね。
トムラウシ山の事故が起きたときの気象条件は、特別厳しいものではなかったようです。
ということは、北海道で登山するなら、いつなんどき、トムラウシ山遭難事故のときと同程度の悪天候に遭遇してもおかしくないということ。
北海道の山に登る予定の人や、気象条件が厳しい本州の3000m級に登る人は必読です。
ネット上でも時系列になった事故報告書を見ることができますが、本書では、各分野の専門家による包括的な検証がなされています。
北海道夏山ガイド(シリーズ)
北海道在住の登山愛好家で、知らない人はいないガイドブックです。
わたしは北海道へ移住してから存在を知り、以来、ネットをはじめとして様々なところで情報を入手できる現在も、本書をアンカー(基準や条件)として利用しています。
なぜそこまで信頼しているかと言いますと、
道内の登山道のある山全てに、筆者自ら入り取材。自分の脚で登ってデータを収集し、写真を撮って執筆しているからです。
そのため、情報やデータに統一性があり、他の山やコースとの比較検討が容易になっています。
道内の山を網羅したシリーズ全6巻を揃えれば、道内くまなく自分のレベルに合った山選びが可能になるでしょう。
大手出版社のガイドブックのほとんどは、山域に住む人に依頼して得た情報などで編集しています。
全て著者が取材するということは、実はとてもすごいことなのです。
本書では、掲載するすべての山に初・中・上級の難易度を設定。
体力・高山度・険しさ・迷いやすさをプラスした総合点は、非常に参考になる評価だと思います。
登山口に至る林道や登山道の情報などにも過不足がなく、景色や周囲の植生などの説明も詳細で、ルート全体の様子がイメージしやすいと思います。
著者のひとりである梅沢俊氏は、植物写真家でもあり、ガイドブックに載っている高山植物や風景写真も魅力のひとつですね。
ガイドブックは計画段階で参考にするもの。命に関わるものですから、信頼できるものじゃないといけません。
北海道の山の情報なら、「夏山ガイドブック」が安心です。
本書は1989年に刊行されたロングセラー本です。何度も改訂されて情報が更新されていますから、購入するときは最新版を選ぶようにしましょう。
また、登山道や林道の状況は刻々と変化します。登山前には最新情報を各自確認してからお出かけください。