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登山は熱中症が起こりやすいスポーツです

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高温環境のもとで、生理的温度調節機能の限界を超えて体温が上昇し、発症するのが「熱中症」です。

登山では重たい荷物を背負って長時間に渡る激しい運動を行うため、体温が上昇しやすく、熱中症が起こりやすいスポーツといえます。

さらに、蒸し暑い季節にうっそうとした森の中や、直射日光を遮るものがない森林限界地帯を歩くなど、熱中症のリスクが高い環境に自ら分け入ることになります。

登山をする上で必ず知っておきたい、熱中症に関する知識と予防対策についてお伝えします。

 

1. 熱中症の3段階

 

登山 熱中症

熱中症とは、高温の環境のもとで発生する「暑熱障害」の総称です。

これには、症状が軽いものから順に、①熱けいれん(熱失神)、②熱疲労、③熱射病の3段階があります。

実際にはこの順番で症状が進むとは限らず、人によって違うことに注意してください。

①熱けいれん(熱失神)【軽症】

運動で大量の汗をかいたときに、水分だけ補給して、塩分が不足したときに発生します。

特徴的な症状として、脚や腕、腹部に痛みを伴ったけいれんが起こります。血圧低下、皮膚蒼白、立ちくらみなどの症状も。体の深部の体温は正常であることが多く、熱中症では軽症に分類されます。

対策としては、失われた水分と塩分をバランスよく補給すること。経口補水液(水1ℓ、塩3g、砂糖40g)を飲むと効果的です。

経口補水液がなければ、スポーツドリンクでも、小さじ1杯の塩を500mlの水で飲み込んでもかまいません。

涼しい場所に移動して、衣類を脱いだりして体の熱を逃がします。しばらく休んで回復を待ちましょう。

登山では、重たい荷物を背負って激しい運動を行います。登りはとくに膨大な体熱が生み出されますから、比較的短時間で、気温が高くない状況でも発症することがあります。

わたしの妻は、登り始めの20~30分で目の前が暗くなって立ちくらみして気分が悪くなるといった、貧血に似た症状が出たことが何度かあります。

軽度の熱中症のひとつに、めまいや立ちくらみを起こす「熱失神」があります。上がった体温を下げようと、皮膚の血管を広げて血液を多く流すため、脳の血液が少なくなることにより起こります。

症状が出たときを振り返ると、気温はさほど高くありません。いずれもグループ登山で、スタートからいつもの妻のペースをかなり上回る速さでした。

激しい運動中には、水分を補給していても熱中症はおきるといわれています。この場合も、オーバーペースで体に負荷がかかり、急激に体熱が発生して熱失神が起きたのかもしれません。

②熱疲労【中等症】

発汗による大量の脱水に水分と塩分の補給が間に合わず、体の放熱反応が追い付かない状態をいいます。

体温を下げようとして皮膚の血管が拡張し、そこに行く血液が増えると同時に、脳や筋に行く血液が減ってしまい、体のあちこちで血液不足が起きて循環不全に進みます。

運動能力は落ち、調整機能が破たんして体温が上昇。強い疲労感や頭痛、吐き気、嘔吐、脱力感に襲われます。

処置が遅いと最も危険な熱射病に移行しますから、このような症状が現れたらただちに運動を中止します。

涼しい場所に移し、意識があれば水分と塩分の補給をします。ザックなどに足を乗せて高くして寝かせましょう。衣類をゆるめて水をかけてタオルなどであおぎ、体温を逃がすための措置を行います。

わたしは真夏の山行で激しい頭痛に襲われることが頻繁にあります。いずれも下山時に始まり、一度起きると下山後もしばらく続きます。

下山で休憩を取ることがあまりなく、急ぎ足で一気に下りてしまう傾向があるため、体を休めて体内にたまった熱を逃がすこともできず、水分補給も不十分になるのが原因かもしれません。

毎回熱疲労を起こしているのだとしたら、体に大きな負担がかかっていることになります。改善しないといけませんね。

③熱射病【重症】

体温が上がりすぎて(40℃以上)調整機能が狂った状態です。

意識がない、言動がおかしい、反応が鈍くもうろうとするといった症状がでたら生命の危険があります。ただちに救助要請し、医療機関に搬送しましょう。

救助を待つ間は、いかに体温を下げるかに全力を注ぎます。

運動を中止し、直ちに全身に水をかけてタオルで風を送るなどします。首や脇の下、脚の付け根は動脈が体の表面の近くを通っているため、冷却効果が高い場所です。濡れタオルや水、アイスパックで冷やすと効果的でしょう。

高体温が持続すると、脳機能障害、肝機能障害、腎機能障害、血液凝固障害など、再び重篤な状況に陥ることもあります。一時的に体温が下がって意識が戻っても、油断は禁物です。

 

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2.熱中症予防のための対策

熱中症にならないためには、体温上昇を防ぐことがカギです。

そのための手段は「伝導」「対流」「放射」「蒸発」が基本。ほかにも、アイススラリーを摂取して内部から冷却する方法などがあります。

①伝導

直接触れ合うことで熱が移動することをいいます。

捻挫をしたときのアイシングがよい例です。暑いときは、冷たいものに触れるといいでしょう。

木陰のひんやりした石の上や地面に腰掛けて休憩すると、体の熱も下がって一石二鳥です。

②対流

空気の流れで熱が移動することです。

山ではもっとも体温を下げてくれるのが風です。風通しのいい服を着たり、風通しの良い場所で休憩するといいでしょう。

無風のときは、タオルや帽子などであおぎます。水をかけて風を送るとより一層効果的です。

③放射 

身体が熱を放射することをいいます。

周囲の温度が自分より低いほど冷やす効果が高くなりますが、高いと逆に熱を吸収してしまいます。

直射日光を受けて帽子内が熱くなったら、身体が吸収しないように頻繁に脱いで熱を逃がすといいでしょう。

④蒸発

いわずもがな、発汗は体熱を下げる最大の武器です。

汗の素になる水分を十分に補給しましょう。

ただし汗は蒸発しないといけません。なぜなら蒸発するときの気化熱を利用して熱を下げるからです。

高温多湿のときは、汗が蒸発しませんから効果はありません。

⑤その他

熱中症にならないためには、そもそも体熱を発生させないようにするのがもっとも根源的な予防策です。

気温が高いときほど、同じ気温でも湿度が高いときほど、熱中症の危険が高くなりますから、高温多湿の時期には山に登らない。

ゆっくりと体熱が上がらないように登る。休憩をたくさんとって体熱を逃す時間を作るといった対策も有効です。

また、水分補給の方法としては、最近では氷と飲料水でできたシャーベット状の飲料水であるアイススラリーの摂取が注目されています。

スポーツ飲料でアイススラリーをつくれば、身体の冷却と、汗で失われた電解質、水分、糖分の補給もできて一石二鳥。

外部冷却と身体内部の冷却を組み合わせて取り入れると、より効果的です。

 

参考:環境省熱中症予防情報サイト
「登山の運動生理学とトレーニング学」山本正嘉著 東京新聞
「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」公益財団法人 日本スポーツ協会

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