シーズン初めには必ずといっていいほど苦しむ筋肉痛。「これさえなければ登山はもっと楽しいのに」と嘆くのは、わたしだけではないでしょう。
筋肉痛を防ぐ最大のカギは下山にあります。そして下山後にも、早く筋肉痛を和らげるコツがあります。
防げるものなら防ぎ、苦痛を和らげることができるのであればそれに越したことはありません。
ここでは、登山には付き物の筋肉痛とうまく付き合う方法をお伝えしていきます。
1.筋肉痛はなぜ起きる?
筋肉痛の原因はいまだにはっきりとわかっていません。最近の研究では、運動を行うと筋線維に微細な傷がつき、それが修復されるときに起こる炎症の痛みという説が有力です。
筋線維が損傷を受けて傷がつく。
↓
修復するときに白血球を中心とした血液成分が集まることで炎症がおきる。
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ヒスタミンなどの痛みを起こす刺激物質が生産され、筋肉の周囲を覆っている膜を通じて神経に痛みを伝える。
放っておけば1週間くらいで痛みは消えるため、ほとんどの人は筋肉痛を深刻にとらえることはないでしょう。
ところが、最近の研究では、筋の損傷によって筋力も低下することが徐々に明らかになり、思いがけない事故やケガにつながるとの指摘もされています。
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2.筋肉痛を防ぐ最大のカギは下山にあり

下山時は衝撃を少なく
登山で使う筋肉の収縮運動には主に2つあります。
①階段を下るなど、伸張しながら力を発揮する伸張性運動
②階段を登るなど、収縮させながら力を発揮する短縮性運動
この中で最も筋線維が傷つき筋肉痛になりやすいのは①伸張性運動。登山では下山に該当します。
下山では脚の裏側の筋肉が縮み、脚の前面にある大腿四頭筋などの筋肉が伸びて、着地で体重+装備の重量を支えるクッションの働きをすると同時に、その動きを止めるブレーキとして筋力を発揮します。
上りのほうが、心肺機能に負担がかかってきついイメージがありませんか?
意外に思うかもしれませんが、端的に言えば、上りと下りではきつさの質が違うということ。
登りでは大量のエネルギーを消費して、酸素もたくさん必要になり息が切れるほど。下りは筋肉の疲労がたまって、それによって、転倒などの事故が起こりやすくなります。
事故やケガは下山に集中していることを考えると、むしろ下山のダメージのほうが要注意だといえるでしょう。
筋線維が傷つく主な原因は着地の衝撃です。
下りの着地衝撃は上りの2倍といわれています。自分の体重とザックなどの装備の重さが倍になり、それがたった1本の脚にかかってくるわけです。
山行の間、何千回、何万回と繰り返される着地衝撃を小さくすることができれば、筋肉痛や疲れを和らげることができるともいえます。
衝撃を小さくするための歩き方の基本は、歩幅を狭くして、音を立てないようにそっと着地すること。
脚を下ろすときの高低差にも注意しましょう。50センチの段差を1歩で下りるより、2歩に分けて25センチずつ下りるほうが、当然衝撃が少なくなります。
ストックを利用するという手段もあります。上手に使えば脚にかかる負担を腕にも分散してくれますから、筋力の低下に悩む中高年や運動不足の人におすすめです。
ときどき走るようにして下山の速さを競う人を見かけます。着地衝撃が更に大きくなって、膝や脚にかかる負担は相当なもの。末永く登山を楽しみたいのなら、ジャンプしたり走ったりするのは厳禁です。
脚の筋組織が壊れると、筋力も低下してしまいます。そうなれば、下りで転んだりバランスを崩しやすくなります。筋肉痛を防ぐ対策は安全対策でもあるのです。
下記の記事では、ストックの種類やおすすめのタイプについて書いていますので、参考にしてみてください。 今では山の標準装備になりつつあるストック(トレッキングポール)。 足への負担を腕に分散させることができるのですから、楽にならないわけがありません。膝に不安のある人や、中高年にとっては脚力の低下を補う道 ...
ストック(選び方/メンテナンス)
ストックは持っているけれど、使いこなせているでしょうか? 正しい使い方を知りたい方は、こちらの記事をどうぞ。
3.下山後にしておきたい筋肉痛予防
①ストレッチで血行不良を解消する
運動によって筋線維が損傷を受けて傷がつくことで、痛みを起こす刺激物質が分泌され、筋肉痛がおこります。
この物質を早く体外に排出することが痛みを和らげる近道。そのためには血行を良くしてあげる必要があります。
痛みを感じるとその部分の筋肉は硬くなります。筋肉が硬くなると血流も悪くなるのです。
筋肉を緩めて血流を促すためには、ストレッチが効果的です。
痛みを感じるよりも前に、下山したらすぐにストレッチをする習慣をつけましょう。
反動をつけず、ゆっくりと筋肉を伸ばすようにしてください。痛みを感じない、気持ちよい範囲内にとどめます。
②冷やして炎症を抑える
下山後すぐ、筋肉痛になりそうな場所を冷やします。
筋繊維が損傷を受けると、修復するときに炎症が起きます。その炎症を抑えるために冷やすわけです。
半世紀以上の登山歴がある知人は、下山後の入浴で必ず水風呂に入ることを習慣にしています。なんでも、これまで一度も筋肉痛になったことがないとか。
真似をして脚部を水風呂に浸けてみましたが、あまりの冷たさに3分と持ちませんでした。
水風呂は荒療治ですが、入浴ついでにできる手軽なアイシング方法です。シャワーで冷水をかけるのもいいでしょう。
帰宅後や宿泊場所に着いてからアイシングしても遅くはありません。アイスノンや氷などでしっかり冷やすと効果的です。
長風呂して体を温めるのは、運動直後で筋肉痛が出ていない段階ではやめておきましょう。炎症を促進させてしまい、逆効果になる可能性があります。
③栄養補給で痛んだ筋肉を補修する
傷ついた筋肉を修復するためには、たくさんの栄養が必要になります。
筋肉を作り出すタンパク質をはじめ、三大栄養素の炭水化物や脂質、ミネラルやビタミンもバランスよく摂取しましょう。
食事で摂るのが理想ですが、下山してからちゃんとした食事をするまでは時間がかかります。下山後にすぐサプリメントを飲むのも筋肉痛対策として効果的です。
特に人の体内で作ることができない必須アミノ酸であるBCAA(バリン、ロイシン、イソロイシン)は、筋肉の修復に果たす役割が大きいことが知られています。
クセのある味ですが、各社が競合してずいぶんと飲みやすくなっています。下山して時間を置かずに摂取できるという点でおすすめです。
こちらは味の素が作っている顆粒スティックタイプのアミノ酸サプリです。飲みやすいのと、携帯しやすいのが気に入ってます。
4.繰り返し効果と残存効果を狙う
伸張性運動による筋肉の損傷には、初回の運動後に比べて2回目以降は大きく軽減される「繰り返し効果」という現象があることが分かっています。
登山でも、シーズン初めには激痛を伴う筋肉痛があり、山行を繰り返すうちにだんだんと軽くなって最後は無くなる、という経験をした人は多いでしょう。
この効果をうまく活用して、突然激しい運動をするのではなく、軽めの運動から徐々に負荷を上げて運動に慣れる期間を設けます。
軽い筋の損傷を経験することで、その後の大きな損傷(筋肉痛)を回避するのです。
もうひとつ、筋肉痛を1度だけでも経験すると、そのあと一定期間は筋肉が壊れにくくなる「残存効果」と呼ばれる性質があります。この効果を利用するのも筋肉痛対策に有効です。
たとえば、縦走などで重たい荷物を背負い長距離を歩くとき。
何のトレーニングもせずに山に向かえば、酷い筋肉痛や時には肉離れに見舞われて、数日間の縦走が苦行になることは目に見えています。
繰り返し効果を狙うなら、縦走する日に向かってなるべくたくさん山に登っておく。
忙しくて頻繁に山に行けないのなら、残存効果を狙って縦走の1か月から1週間前くらに、短時間でもいいのでハードなトレーニングをしてみるといいでしょう。
とはいえ、なんといっても日ごろのトレーニングが重要です。筋力を強くすることは、筋肉痛の根本的な解決方法ですから。
年齢を重ねるほど筋力は低下します。中高年ほど積極的にトレーニングしましょう。
参考
「新伸張性運動による筋損傷が運動機能に与える影響」遠藤隆志、遠藤基一郎植草大学学園研究紀要2014;6:5-13.
「登山の運動生理学とトレーニング学」山本正嘉 東京新聞
グリコ健康科学研究所「BCAAとは」
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