山から下りてくると、数日に渡って手足がむくんでしまうことがあります。
たかがむくみと軽く見てはいけません。ひどくなると腎不全を起こす危険性もあるんです。
妻はいつも登山中の手のむくみに悩まされています。これは長時間手を下げていることにより、重力の影響で血液やリンパ液が下にたまって生じるむくみです。
このような一過性ですぐに消える軽いむくみもあれば、下山後に体重が増える、数日間にわたって顔や脚など全身にむくみが及ぶレベルまで、登山でおきるむくみの要因は様々です。
代表的な登山のむくみの原因と対策方法をみていきましょう。
1.リュックサック麻痺によるむくみ
重たいザックを長時間背負うと、ザックの重みで肩が沈み込み、神経が引っ張られることで起きるのが通称リュックサック麻痺(正式には長胸神経麻痺)。
しびれや麻痺のほかに、血行不良で腕がむくむといった症状がでます。
予防するには、ザックのショルダーベルトを幅広にして重みを分散したり、重みが肩だけに集中しないようにフィッティングを調整してみます。
登山中は休憩のたびに伸びをして体をほぐしたり、ストレッチをしてみましょう。
一次的なものであれば、ザックを下ろしてしばらくすると治ります。しびれが長引くときは医療機関を受診したほうがいいでしょう。
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2.脱水の反動によるむくみ
一般的に、体内の水分が2%失われると軽度の脱水症とされます。
見た目には分かりませんが、喉の渇きを感じて運動機能が低下するとともに、尿量が少なくなります。
そうなると、水分をこれ以上失わせまいと、尿を減少させる抗利尿ホルモンが出ます。いったん出始めると、運動をやめたあとも12~48時間は出続けます。
そのため、運動後数日間は水分が排出されず、むくみをおこすのです。
予防策はこまめな水分補給。30分置きに200~250ml程度の補給を目安にします。
「喉が渇いてからでは遅い」が合言葉。一気にたくさん飲むのではなく、こまめに水分補給をしましょう。そうすれば無駄な汗や尿になりません。
トイレの関係で水分を控えてしまいがちな女性は参考にしてみてください。
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3.運動で筋が壊れることによるむくみ
登山のあと、数日間に渡る筋肉痛に苦しむのは誰しもが経験することです。
筋肉痛とは、筋線維が壊れたときに起こる炎症の痛みのこと。登山では、主に下りで急激に脚の筋肉が疲労し、たくさんの筋線維が壊れることから起きます。
筋が壊れると、それによって生じた老廃物(窒素化合物)を体外に排出しなければなりません。
処理するために腎臓に大きな負担がかかると、ろ過機能が低下してむくみがでることになります。
ひどくなると腎不全を起こす危険性もありますから見過ごすせません。
筋線維が壊れないようにするには、下りの歩き方を工夫して着地衝撃を少なくすること。
そして何よりも、日ごろのトレーニングで脚力を付け、基礎体力を強化することが重要になります。
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4.エネルギー不足で筋が壊れることによるむくみ
十分なエネルギー補給ができないまま運動を続けると、炭水化物(糖質)が枯渇します。
すると、体は筋肉や内臓のタンパク質を分解して炭水化物に転換し、燃料に充てようとします。
タンパク質には窒素が含まれているので、燃えカスとして人体に有害な窒素化合物が作られます。
それを処理するために腎臓には大きな負担がかかり、機能が低下した結果むくみが生じることがあるのです。
予防策はこまめに適量の炭水化物を補給すること。炭水化物は脳のほぼ唯一のエネルギー源でもあります。
枯渇すれば脳や神経の働きも低下しますから、炭水化物の補給には十分注意しましょう。
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参考
「登山の運動生理学とトレーニング学」山本正嘉 東京新聞