山でバテる原因は大きく分けて5つあります。
①上りでおこる疲労
②下りでおこる疲労
③エネルギー不足による疲労
④水分不足による疲労
⑤環境の影響による疲労(暑さ、寒さ、雨、風、高度)
このうち、上りと下りでおこる疲労は、歩き方を工夫することでかなり軽減することが可能です。
山では、ベテランと初心者が同じ距離を同じように歩いていても、方や景色を眺めおしゃべりする余裕があるのに、方や歩くので精いっぱいということがあります。
体力のある無しだけではなく、歩き方のコツを知っているかどうかでも疲労は大きく違ってきます。
年齢とともに身体能力は衰えていきますが、知識を補うことで適応する力を伸ばすことが可能です。意識して歩いてみてください。
1.心拍数で自分のペースを知る「180公式」
歩くペースは個人差が大きいものです。
日ごろからランニングなどで鍛えている人は速く歩いてもバテませんし、体力不足の人などちょっと速く歩いただけですぐにバテてしまう人もいます。
背負っている荷物の重さや登山道の傾斜、その日の体調によっても変わってきますから、自分の快適なペースを知り、それを維持するのは誰にとっても難しいものです。
初心者が陥りがちなのは、速く歩きすぎてバテてしまうパターン。
一般的に、平地を歩くときの半分以下のペースで歩くとよいと言われています。でも、「半分以下のペース」「ゆっくり歩け」と言われてもなかなかピンときませんよね。
体調管理のための目安として、心拍数から自分の快適速度(マイペース)を知る「180公式」をご紹介します。
180公式は、マフェトン博士が考案したアスリートがスポーツの競技成績の向上と健康を両立させるためのトレーニング理論から生まれました。
運動中の心拍数を、180から自分の年齢を引いた数を1分間の最大心拍数とし、そこから10を引いた程度に収めることで、最も体に負担が少なく効率的な有酸素運動ができるというものです。
例えば、基礎疾患の無い60歳の人なら180から60を引いた数「120」を最大心拍数とし、そこから10を引いた「110」との間で収まる程度に目標心拍数を設定します。
登山中は立ち止まって手首や首で15秒間脈拍を計り、それを4倍して割り出せばいいだけ。面倒な計算も要らず簡単です。
日常的に運動不足の人や、病気が治ったばかりの人、持病などの不安を抱えている人は、最大心拍数を「180-年齢-10」とするのも可。
毎日レーニングを欠かさない人であれば最大心拍数を「180-年齢+5」とするなど、各人が自分の体力に応じた上下加減を行うことも必要です。
感覚に頼っていると、本人に自覚がないままオーバーペースになってしまうことがほとんどでしょう。気づいたときには帰りのエネルギーが枯渇してしまったなんてことにもなり兼ねません。
心拍数のチェックは負荷の度合いを数値化するので分かりやすく、オーバーペースを客観的に判断することができます。
また、チェック度にその場で修正できるのもいいところ。体調管理に取り入れてみてください。
2.音を立てない猫歩き
かつてベテランから「猫のように歩きなさい」とアドバイスを受けたことがあります。
よく観察してみると、なるほど、登山経験が豊富で疲れ知らずの人ほど足音を立てず静かに歩いています。特にそれは下りで顕著です。
コツは、膝をクッションにして、よい足場をみつけたら靴の裏をそっと地面に置くように着地すること。
速足では難しいのでゆっくりと。1歩あたりの高低差を小さくするために、歩幅を狭くします。
ゆっくり丁寧に歩くと、脚や心肺機能への負担が軽減されます。ぬかるみで滑ったり、浮石を踏んで大きくバランスを崩すようなときでも、立ち直り動作がし易くなります。
勢いを付けてドタドタと乱暴に歩いているときは、一気に全体重が移動しますから、なにかアクシデントがあるとケガや転倒事故などにつながりやすく、脚の筋肉の疲労も激しくなります。
一般的に、着地の際に脚にかかる衝撃は「体重+装備」の2倍といわれています。
体重が70㎏の人が10㎏の装備を背負って歩くとき、着地のときに160㎏の衝撃が片方の脚にかかってくる計算です。
猫のように歩く理由のひとつは、着地衝撃によって脚が受けるダメージを最小限にし、無駄に疲労しないようにするベテラン登山者の経験則なのです。
ただし、動作をゆっくりと行うためには、一定の姿勢を保持するための筋力が必要になります。
脚が笑う、下りでブレーキが利かず小走りになるような人は、まずはトレーニングで筋力を付けることが先決です。
場合によっては、ストックの力を借りることも必要かもしれません。ストックの選び方こちらを、ストックの使い方はこちらをご覧ください。
3.無駄な動きをしない
「一度上ったらなるべく下りない、一度下りたらなるべく上らない」
ある登山家と登っていたとき、登山道を歩くときもコース取り(ルートファインディング)を考えるとよいと教わりました。
本来ルートファインディングとは、雪山や沢の渡渉、ヤブ漕ぎなど、はっきりとした道がないところで最適なコースを見極めることをいいます。
登山道は道がしっかりついているとはいえ、石や樹の根がゴロゴロ露出していて平坦ではありません。
何も考えずに脚を運んでいると、1歩下りてから大きな石に上がり、また元の場所と同じ高さまで下りる、といった無駄な動きをしてしまいます。
ちゃんと周囲を見渡せば、下りて上らずに済む迂回ルートがあるかもしれません。足元ばかりに気をとられて周囲をよく観察していないと気づかないものです。
小さなアップダウンでも、何千、何万と繰り返すことで疲れが蓄積していきます。意識して足を運ぶかどうかで疲労度は大きく変わります。登山はただ歩くだけではないのです。
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