山での三大死因は、「外傷」「心臓突然死」「寒冷障害(低体温症・雪崩埋没)」。
山では、助けを求めても救助隊が来るまで時間がかかります。その場に居合わせた人による応急措置が、生死を左右することもあるのです。
日本人初の国際山岳医 大城和恵医師は、登山者に知っておいてほしい救命術として、「止血」「気道確保」「低体温症を防ぐ対策」を上げています。
この3つは、歩き方やパッキングの仕方を学ぶのと同様、登山の基礎技術として学んでおきましょう。
自分の身を守るために、同行者を助けるために、最低限覚えておきたいことをまとめました。
止血・・・傷口を強く抑えて圧迫する
人間の全血液量は体重1kg当たり約80ml。その1/3を一気に失うと命の危険があります。救助を待つ余裕などなく、一刻も早く止血しなければなりません。
覚えておきたいのは、最も基本的で確実な止血方法「直接圧迫止血」です。
ガーゼやタオルなどを傷口に当て、4分以上直接強く抑えて圧迫します。出血量が多いときには、20分、30分単位でしっかり押さえる必要があります。
患部がえぐれているときは、ガーゼなどを詰めて、その上から押さえましょう。
すぐに包帯を巻いて手を離してしまうと、圧迫が不十分になり、血が止まっているかどうか確かめることができなくなりますので注意してください。
滅菌したガーゼやタオル、ビニール手袋などを持っていない場合は、自分の持っているものの中でいちばん清潔なものを使用します。
感染防止のため、他人の血液は直接触らないようにしてください。ビニールかゴム手袋などをした手で措置します。
他にも、直接圧迫しながら動脈を押さえる間接圧迫止血法や、布などで縛って近くの動脈を押さえる止血帯法がありますが、訓練を受けていないと難しいものがあります。
特に、古くから紹介されてきた止血帯法は、正しく行わないと神経麻痺や筋肉などの細胞を壊死させる危険があります。動脈を切断するなどして大量出血したときの最終手段だと覚えておきましょう。
気道確保・・・横向きに寝かせて窒息を防ぐ
意識が無くなった状態であおむけに寝ていると、あご、舌などの筋肉が緩んで、舌の付け根が落ち込み、気道をふさいでしまうことがあります。
窒息死しないように、すぐに「気道を確保」します。
意識がない人は口を開けてみて、吐しゃ物などが詰まっていたら取り除きます。
あとから嘔吐する可能性もありますから、吐しゃ物などが自然に流れるよう「横向き」に寝かせます。
その際、背骨ができるだけまっすぐなラインになるようにすること。また、傷病者のそばを離れないといけないときは、あおむけに戻らないように背中にザックをあてがいます。
低体温症になりやすくなるため、体を冷やさないよう注意しなくてはなりません。レスキューシートで体を覆ったり、持っている衣類をかけたりして体温を確保します。
低体温症を防ぐ対策
体の深部体温が35度以下に低下した状態を低体温症といいます。
低体温症は冬山に多いイメージですが、実際には、夏山シーズンに雨で濡れたり自分の汗で蒸れたりすることで発生するケースが多いのです。
いちばんの対策は、寒さを感じる以前から対策を講じ、体を冷やさないようにすること。
もし、寒さを感じて震えがきてしまったら、「食べる」「隔離」「保温」「加温」の4つの対策を講じます。
【食べる】
エネルギー補給します。
即効性のある飴やチョコレートなどの糖類と、ゆっくりとエネルギーになるおにぎりや餅などのデンプン類を組み合わせて摂るようにします。
極度に疲労したときは、何も口にできないことがあります。体内への吸収が速いブドウ糖を携帯するといいでしょう。
直接口に入れてもいいですし、お湯に溶かして飲むのも効果的です。スティックタイプで小分けになったものがおすすめです。
【隔離】
体温を奪うものから避難します。
風にあたったり、雨や自分の汗で濡れたり蒸れたりすると、体温が奪われます。
雨具を着用して、風の当たらない岩場の陰やハイマツ帯に身をひそめる。ツェルトを張って中に入る。濡れた衣類を脱いで乾いたものに着替える。山小屋に避難するなどしてください。
座る際にはマットなどを敷き、地面からの冷えで体を冷やさないようにするのも大切です。
【保温】
温かい衣類を着て体温が逃げないようにします。
雨具は防寒具ではありません。雨具で雨や風を防ぎつつ、中にフリースやダウンのミッドインナーなどの防寒着を着て、外部の冷気が直接肌に当たらないようにします。
首や手など末端を温めることも大切です。雨具のフードをかぶり、顔の周りを紐でしっかり縛って雨や風が入らないようする。帽子や手袋などあれば着用するなど、体温の確保に努めます。
【加温】
胸を温めると効果的です。
ペットボトルなどに熱湯を入れ、やけどをしないように服の上などから胸にあてます。
ポイントは、できるだけ接触面積を広くすること。プラティパスというプラスチック製の折りたたみ式水筒が便利です。
使い捨てカイロを常備している人は多いかもしれませんが、残念ながら体温上昇には役立ちません。
冷たい血液が心臓に戻ることがあるため、手足を温めたりさすったりするのは厳禁です。
低体温症は症状が進行して意識障害など起こすと、自ら対策を講じることができなくなります。いかに早い段階で「ならない」ための対策を取るかがカギとなります。
また、高齢者や子供など、筋肉量が少ない人は低体温症にかかりやすいといわれていますので特に注意が必要です。
心臓マッサージや骨折・捻挫の手当てなど、登山者が知っておきたい技術は他にもあります。
市町村の消防、日本赤十字社で救命講習の受講が可能です。日常でも役立つことですから、一度きちんと講習を受けておくことをおすすめします。
◆参考図書はこちらです。
◆プラティパスはこちら。
◆低体温症についてより詳しく知りたい方は、こちらを参考にしてください。