山の栄養学

山でバテないための栄養学

更新日:

旭岳登山は誰でもできるスポーツで、ウォーキングの延長のようなイメージを抱く人が少なくありません。

ところが実際は、とてもハードな運動です。長時間に渡る激しい運動を支えるために、登山の間も食事をとり、エネルギーを補給し続ける必要があります。

エネルギーが枯渇すると、身体も脳も疲労して健康に悪影響が出てしまいますが、うまく補給できると安全で快適、健康的な登山が楽しめます。

何を、どんなタイミングで食べるといいのか。登山におすすめの食べ物と食べ方についてお伝えします。

 

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登山はエアロビ並みのハードな運動

登山はどの程度の運動なのか、国際的に使われている身体活動の強度を示す指標【メッツ(METs)】でみてみましょう。

メッツとは、安静時を1メッツとした時と比べて何倍のエネルギーを使うかを表す単位で、①運動の強度、②心臓への負担、③エネルギー消費量や脱水量、④体力の指標、⑤トレーニングの目安を表します。

下の図の右側に示した登山関係のメッツ値は「上り」での値を意味します(下りでは3~4メッツとなる)。

メッツ活動内容登山
1メッツ台寝る、座る、立つ、デスクワーク、車に乗る 
2メッツ台ゆっくり歩く、立ち仕事、ストレッチング、ヨガ、キャッチボール 
3メッツ台普通歩行、階段を下りる、掃除、軽い筋力トレーニング、ボウリング、犬の散歩 
4メッツ台早歩き、水中運動、バドミントン、ゴルフ、庭仕事 
5メッツ台かなり速く歩く、野球、ソフトボール、子供と遊ぶ 
6メッツ台ジョギングと歩行の組み合わせ、バスケットボール、ゆっくり泳ぐハイキング(起伏の緩いコースをゆっくり上る)
7メッツ台ジョギング、サッカー、テニス、スケート、スキー無積雪期の縦走(無積雪期の一般的な登山の上り)
8メッツ台ランニング(分速130m)、サイクリング(時速20km)、水泳(中速)バリエーション登山(岩山、雪山、沢登り、ヤブ漕ぎ、荷物が重いテント泊など)
9メッツ台荷物を上の階に運ぶトレイルランニング
10メッツ台ランニング(分速160m)柔道、空手、ラグビー 
11メッツ台速く泳ぐ、階段を駆け上がるロッククライミング

参考:2012年4月11日改訂 国立健康・栄養研究所「改訂版『身体活動のメッツ(METs)表』」、「高等学校登山指導者用テキスト」国立登山研修所

 

一般的な日帰り装備の登山は上りで7~8メッツ。上り、下り、休憩を含めて平均すると、約5メッツの強度があります。しかもこの強度を保ったまま5~6時間は動き続けるのが当たり前ですから、いかに登山がハードな運動か改めて驚くでしょう。

運動を支えるエネルギーの補給も、それを念頭に考えていかなければなりません。

 

 

登山のエネルギーは炭水化物の補給がカギ

沼ノ原

登山のような有酸素運動では、炭水化物と脂肪の2つが中心的なエネルギーになります。

炭水化物は体内にわずかしかなく、補充しなければ1.5時間くらいで枯渇します。それなら食いだめして蓄えておけばいいじゃないか、と思いますよね。残念なことにそれはNG。余った分は脂肪に変換して貯蔵されてしまいます。

そしてその脂肪は、というと、体内に大量にあるものの炭水化物と一緒でなければ燃えないという厄介な性質があります。

つまり、登山では炭水化物を少しずつ補給して、体脂肪を燃焼することが長時間歩き続けるカギとなるのです。

ダイエットがてら食べずに山に登っても、脂肪は燃えずただ疲れるだけです。炭水化物を食べない糖質制限ダイエットなど、山の世界ではもってのほかです。

 

 

登山におすすめの食べ物

炭水化物は「糖質」と「食物繊維」で構成されています。食物繊維を多く含まなければ、炭水化物量がほぼイコールで糖質量となります。

糖質は、小腸で吸収されてグルコースという最小分子単位になり、肝臓に運ばれます。そこから血液中に出て全身に運ばれ、筋肉が活動するときのエネルギー源となります。

炭水化物(糖質)は大きく3つに分類されます。吸収のスピードが違いますので、時間差でエネルギーになるように、様々な種類の糖質を組み合わせてとるとよいでしょう。

 分子の数吸収の速さ種類
単糖類1つ

 

それ以上分解されないので、食べたあとスピーディーに消化・吸収される。ブドウ糖、果糖、ガラクトース

はちみつや果物などに含まれる

二糖類2つやや速いショ糖(砂糖)、麦芽糖、乳糖

飴、菓子、牛乳などに含まれる

多糖類数十個~数百万個つながったもの多くの分子がつながっているので、消化・吸収に時間がかかるでんぷん

ご飯、パン、麺類、パスタ、餅、イモなど

 

多糖類

登山の土台になるのは、デンプン(多糖類)を多く含む食べ物(ご飯、パン、うどん、パスタ、餅、イモなど)です。デンプン(多糖類)は胃腸で分解されるため、身体への吸収がゆっくりで長持ちします。

登山中は、一口サイズのおにぎりを作るなどして休憩のたびに口に放り込み、長時間の運動を支えることができるように、意識してこまめにエネルギー補給するようにします。

 

二糖類

二糖類に分類されるアメやお菓子などの甘いものは、吸収が早く、食べると途端に元気が出ます。疲れがピークに達する下山時など、急場のカンフル剤にはうってつけです。

ただし、効果は持続しませんし、大量に食べすぎると血糖値が急上昇して下がり、かえって疲れることもあります。摂取には注意が必要です。

 

単糖

糖質のなかで吸収と代謝がいちばんいいのが単糖のブドウ糖です。速やかに吸収されて即効性があることから、低体温症が疑われるときやシャリバテ(お腹が空いてバテる)したときなど、緊急時に摂取したい食べ物。

薬局などで購入できるので、救急用品のひとつとして持ち歩くことをおすすめします。

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メモ

長時間運動する登山では、ご飯やパン、餅などの遅効性の多糖類を含む炭水化物を「こまめに」「適量」とり続けることを基本とします。

加えて、疲れがピークに達した下山時や低体温症が疑われたときなどには、即効性のあるアメやチョコレート、ブドウ糖などを組み合わせてとるといいでしょう。

 

 

いつ何を食べるといいのか?

筆者が実践している栄養補給のタイミングや内容の一例です。体力や体調、し好によっても変わってきます。自分のベストを見つけてください。

登山開始前登山開始3~4時間前に朝食(おにぎり、脂肪の少ないパン、うどんなどを中心とした高糖質食)をとる。

登山開始1時間~30分前に消化吸収のよい糖質(バナナ、エネルギーゼリー、100%果汁ジュース)をとる。

運動前に甘いもの(砂糖を大量に含む炭酸飲料、菓子パン、ようかん、チョコレートなど)を多量にとると、血糖値が跳ね上がったのちに低下し、バテやすくなる。

登山中最低でも1時間おきに食べる。

休憩のたびに、一口サイズのおにぎりやパンなどの多糖類を中心とした食べ物をとる。脂肪やたんぱく質も合わせてとるとよい。

後半で疲れがピークに達しているときは、単糖を単独でとると即効性がある。シャリバテや低体温症が疑われているときも単糖が有効(ブドウ糖がよい)。

下山後すみやかに食事をして糖質を補給し、筋グリコーゲンの回復を早める。

運動後1時間以内にバランスのよい食事をするのがベスト。

食事が無理な場合は飲み物(スポーツドリンク、100%オレンジジュース等)で補給。

食べ物が消化される時間は、果物30分~1時間、ご飯や麺類・イモなどは2~3時間、肉や魚などのタンパク質は4~5時間、脂肪は7~8時間かかります。そこから逆算して摂取します。

 

 

どのくらい食べるといいか?

では、どのくらいの量を食べるといいのでしょうか?

「登山の運動生理学とトレーニング学」山本正嘉著より、メッツを利用した登山用のエネルギー消費量(kcal)推定式を紹介します。

軽装で、整備された無積雪期の登山道を、標準タイムで歩く場合に使う簡易式です。年齢、性別によらず当てはまります。1時間に10分程度の休憩を含むものとします。歩行条件がよい場合を想定していますので、消費の「下限」を示すものと考えてください。

行動中のエネルギー消費量(kcal)=体重(kg)×時間(h)×5

例:体重60kgの人が8時間の登山をした場合
60kg×8時間×5=2,400kcal

 

生活中のエネルギー消費量(kcal)=体重(kg)×時間×1

例:体重60キロの人が8時間登山の後「テント泊」した場合の1日の総消費エネルギー

行動中のエネルギー消費量:60kg×8時間×5=2,400kcal
生活中のエネルギー消費量:60kg×16時間×1=960kcal
1日の総消費エネルギー:2,400kcal+960kcal=3,360 kcal 

 

登山中に消費したエネルギー量の全てを補う必要はありません。このうちの7~8割を補うようにするといいでしょう。その際、朝食でとった分は差し引いて考えます

 

 

エネルギーが欠乏して起こるトラブル

登山 ばてる

エネルギー消費量に見合った量を行動中に補給しないと、さまざまな疲労やトラブルが起こります。とくに炭水化物が欠乏して起こるトラブルがこちら。

  • 筋を活動させるエネルギーが不足して疲労が起こる
  • 低血糖を起こし体が動かなくなる(シャリバテ)。とくに糖尿病で血糖値を下げる薬を飲んでいる人は、登山中は血糖値が下がりやすい
  • 脳神経系の活動能力も低下して、バランス能力や敏捷性などが低下。思考力、判断力、意志力などの精神的な能力も低下する
  • 熱産生の能力が低下して、低体温症にかかりやすくなる
  • 炭水化物の代替エネルギーとして、筋や内臓のタンパク質が分解されてしまう(糖新生)
  • 分解されたタンパク質から老廃物が多量に生じ、腎臓に負担をかける。その結果、むくみが生じることもある

食べずに糖質が枯渇すると、筋肉などのタンパク質を材料としてエネルギーに代える「糖新生」がおきます。筋肉や骨、血液など、ひとの大部分を構成している栄養素「タンパク質」をエネルギーに回してしまうのです。運動をしているのに筋肉がやせ細るといった、あってはならないことが起きてしまうんですね。

さらに、全体重の2%しかない脳は、全身のエネルギー摂取量の約20%を消費する大食い臓器であり、ほぼ唯一のエネルギーが糖質です。糖質が枯渇して血糖が低下すると、めまいがしたり、筋力や判断力が低下。疲労度が急に増して、脳が司令塔の役割を果たすことができなくなってしまいます。

登山はとてもハードな運動です。登山の間もこまめに適量の炭水化物を補給して、エネルギーとなる糖質を送り続けることは、安全で快適な登山を楽しむうえでとても重要なのです。

 

「何をどのタイミングで食べるといいの?」具体的な食事のとり方を知りたい方は、こちらをどうぞ。

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参考
2012年4月11日改訂版『身体活動のメッツ(METs)表』独立行政法人国立健康・栄養研究所

「登山の運動生理学とトレーニング学」山本正嘉 東京新聞

「高等学校登山指導者用テキスト」国立登山研修所

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