山の栄養学

山でバテないための栄養学

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登山はのどかなイメージがあるためか、ウォーキングの延長のような感覚で山に入る人が少なくありません。

ところが実際は、とてもハードな運動です。

長時間に渡る激しい運動を支えるために、登山の間も食事をとり、エネルギーを補給し続ける必要があります。

エネルギーが枯渇すると、身体も脳も疲労して健康に悪影響が出てしまいますが、うまく補給できると、快適で健康的な登山が楽しめます。

何を、どんなタイミングで食べるといいのか。登山におすすめの食べ物と食べ方についてお伝えします。

 

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登山はエアロビ並みのハードな運動

登山はどの程度の運動なのか、国際的に使われている身体活動の強度を示す指標【メッツ値】でみてみましょう。

安静時を1メッツとした時と比べて、何倍のエネルギーを消費するかで活動の強度を表しています。

メッツ活動内容
1.0座って安静にしている状態
3.0普通歩行、ボウリング、犬の散歩
7.0ジョギング、バドミントン試合、スキー
7.3エアロビックダンス、テニス、スカッシュ

4.5~9.1kgの荷物を持って山を登る

8.0バスケットボール試合、アメフト試合
8.39.5~19.1kgの荷物を持って山を登る、ラグビー
9.019.1kg以上の荷物を持って山を登る

ランニング8.4km/時

10.0ホッケー試合、サッカー試合、22.7~33.6kgの物を上の階に運ぶ、水泳(速いクロール)、水球
15.5雪山登山

出典:2012年4月11日改訂 国立健康・栄養研究所「改訂版『身体活動のメッツ(METs)表』」

 

一般的な日帰り装備の登山は7.3メッツで、ジョギングやエアロビに匹敵します。

縦走装備を背負った登山は8.3~9.0メッツで、ラグビーと同等レベルの運動強度。

しかもこの強度を保ったまま5~6時間は動き続けるのが当たり前ですから、いかに登山がハードな運動か改めて驚くでしょう。

運動を支えるエネルギーの補給も、それを念頭に考えていかなければなりません。

 

山でバテないためには炭水化物の補給がカギ

炭水化物

登山でバテないためには、炭水化物の補給がカギを握っています。

炭水化物は「糖質」と「食物繊維」で構成されています。食物繊維を多く含まなければ、炭水化物量がほぼイコールで糖質量となります。

糖質は、小腸で吸収されてグルコースという最小分子単位になり、肝臓に運ばれます。そこから血液中に出て全身に運ばれ、筋肉が活動するときのエネルギー源となります。

厄介なことに、糖質は体にたくさん貯蔵しておくことができません。

補給しないと数時間で枯渇してしまうし、とりすぎた分は大部分を脂肪として貯蔵します。

そのため、登山でバテないためには、ご飯などの炭水化物に含まれる糖質を「こまめに」「適量」とり続けることが重要なのです。

 

登山のおすすめ食べ物

では、具体的に何を食べたらいいのでしょうか。

筋肉が活動するときのエネルギーになる炭水化物(糖質)は大きく3つに分類されます。

体内への吸収速度が違うため、うまく組み合わせて食べるのがコツです。

糖質代表的なもの体内への吸収速度含まれる食べ物
多糖類(ブドウ糖がたくさん連なったもの)デンプン、グリコーゲンなど比較的ゆっくりご飯、パン、麺類、いもなど
二糖類砂糖、麦芽糖など速いアメ、お菓子、牛乳など
単糖ブドウ糖、果糖など速いブドウ糖、果実、はちみつなど

 

多糖類

登山を支えるのは、デンプン(多糖類)を多く含む食べ物(ご飯、パン、うどん、パスタ、餅、イモなど)です。

デンプン(多糖類)は胃腸で分解されるため、身体への吸収がゆっくりで長持ちします。

登山中は、一口サイズのおにぎりを作るなどして休憩のたびに口に放り込み、長時間の運動を支えることができるように、意識してこまめにエネルギー補給するようにします。

 

二糖類

二糖類に分類されるアメやお菓子などの甘いものは、吸収が早く、食べると途端に元気が出ます。

疲れがピークに達する下山時など、急場のカンフル剤にはうってつけです。

ただし、効果は持続しませんし、大量に食べすぎると血糖値が急上昇して下がり、かえって疲れることもあります。摂取には注意が必要です。

 

単糖

糖質のなかで吸収と代謝がいちばんいいのが単糖のブドウ糖です。

速やかに吸収されて即効性があることから、低体温症が疑われるときやシャリバテ(お腹が空いてバテる)したときなど、緊急時に摂取したい食べ物。

薬局などで購入できるので、救急用品のひとつとして持ち歩くことをおすすめします。

 

メモ

長時間運動する登山では、ご飯やパン、餅などの遅効性の多糖類を含む炭水化物を「こまめに」「適量」とり続けることを基本とします。

加えて、疲れがピークに達した下山時や低体温症が疑われたときなどには、即効性のあるアメやチョコレート、ブドウ糖などを組み合わせてとるといいでしょう。

 

 

どのくらい食べるといいか?

では、どのくらいの量を食べるといいのでしょうか?

「登山の運動生理学とトレーニング学」山本正嘉より、メッツを利用した登山用のエネルギー消費量(kcal)推定式を紹介します。

軽装で、整備された無積雪期の登山道を、標準タイムで歩く場合に使う簡易式です。1時間に10分程度の休憩を含むものとします。歩行条件がよい場合を想定していますので、消費の「下限」を示すものと考えてください。

 

行動中のエネルギー消費量(kcal)=体重(kg)×時間(h)×5

例:体重60kgの人が8時間の登山をした場合
60kg×8時間×5=2,400kcal

 

 

生活中のエネルギー消費量(kcal)=体重(kg)×時間×1

例:体重60キロの人が8時間登山の後「テント泊」した場合の1日の総消費エネルギー

行動中のエネルギー消費量:60kg×8時間×5=2,400kcal
生活中のエネルギー消費量:60kg×16時間×1=960kcal
1日の総消費エネルギー:2,400kcal+960kcal=3,360 kcal 

 

ただし、登山中に、消費したエネルギー量の全てを補う必要はありません。

朝食や行動食などを合わせて、このうちの7割を補うようにするといいでしょう。

 

 

脂肪を燃やせ

登山のような有酸素性運動では、炭水化物のほかに、脂肪も筋の中心的なエネルギーになります。

長時間に渡るハードな運動では、歩き始めたときは主に糖質(炭水化物)がエネルギー源ですが、しばらくすると脂肪にバトンタッチしているのです。

食いだめができない炭水化物とは違い、脂肪は体内にたっぷりと貯蔵されています。

脂肪を効率よく燃焼させることができれば、莫大なエネルギーが手に入ることになりますよね。

ところが、脂肪は炭水化物と一緒でなければ燃えません。

脂肪を燃やすうえでも炭水化物がカギ。エネルギー源の主役を脂肪にバトンタッチするとはいえ、炭水化物は摂取し続けなければいけません。

ダイエットがてら食べずに登山しても脂肪は燃えず、ただ疲れるだけ。炭水化物を食べない糖質制限ダイエットなど、山の世界ではもってのほかです。

 

 

食べないとどうなるか?

登山 ばてる

食べずに糖質が枯渇すると、筋肉などのタンパク質を材料としてエネルギーに代える「糖新生」がおきます。

筋肉や骨、血液など、ひとの大部分を構成している栄養素「タンパク質」をエネルギーに回してしまうのです。

運動をしているのに筋肉がやせ細るといった、あってはならないことが起きてしまうんですね。

さらに、全体重の2%しかない脳は、全身のエネルギー摂取量の約20%を消費する大食い臓器であり、ほぼ唯一のエネルギーが糖質です。

糖質が枯渇して血糖が低下すると、めまいがしたり、筋力や判断力が低下。疲労度が急に増して、脳が司令塔の役割を果たすことができなくなってしまいます。

登山中にタンパク質がエネルギー源に使われて失われてしまうなんてことは、何が何でも避けなければなりませんし、頭が働かなくなっては事故やケガにつながります。

登山では、こまめに適量の炭水化物を補給して糖質を送り続けることが大切なのです。

 

「何をどのタイミングで食べるといいの?」具体的な食事のとり方を知りたい方は、こちらをどうぞ。

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参考
2012年4月11日改訂版『身体活動のメッツ(METs)表』独立行政法人国立健康・栄養研究所
「登山の運動生理学とトレーニング学」山本正嘉 東京新聞

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