山の栄養学

山でバテないための栄養学

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登山はのどかなイメージがあるためか、ウォーキングの延長のような感覚で山に入る人が少なくありません。

実際は、運動としてはとてもハードです。長時間に渡る激しい運動を支えるために、登山の間も食事を摂り、エネルギーを補給し続ける必要があります。

エネルギーが枯渇すると、身体も脳も疲労して健康に悪影響が出てしまいます。うまく補給できると、快適で健康的な登山が楽しめます。

何を、どんなタイミングで食べるといいのか。登山におすすめの食べ物と食べ方についてお伝えします。

 

 

1.登山はエアロビ並みのハードな運動

登山はどの程度の運動なのか、身体活動の強度を示す指標であるメッツ値でみてみましょう。

メッツ値は、国際的に使われている身体活動の強度を示す単位。安静時を1メッツとした時と比べて、何倍のエネルギーを消費するかで活動の強度を表しています。

国立健康・栄養研究所によると、横になって静かにテレビを観る状態が1.0メッツ、犬の散歩は3.0メッツ、調理や食事の準備が3.5メッツです。

登山はというと、荷物なしで空身で登るのは6.3メッツ。ラグビーのタッチ練習などの運動強度に該当します。

4.5~9.1㎏の荷物を背負って山に登るのが7.3メッツ。一般的な日帰り装備での登山は、エアロビやテニスと同じ運動強度です。

テント泊や縦走装備に相当する9.5~19.1㎏の荷物を持って登るのは8.3メッツで、時速8キロのランニングやラグビーと同程度になります。

ごく一般的な日帰り登山でも、エアロビやテニスと同じくらいキツイ運動です。

しかも5~6時間は動き続けるのが当たり前ですから、いかに登山がハードな運動か改めて驚くでしょう。

運動を支えるエネルギーの補給も、それを念頭に考えていかなければなりません。

 

2.山でバテないためには炭水化物の補給がカギ

登山でバテないためには、炭水化物の補給がカギを握っています。

炭水化物は「糖質」と「食物繊維」で構成されています。食物繊維を多く含まなければ、炭水化物量がほぼイコールで糖質量となります。

糖質は、小腸で吸収されてグルコースという最小分子単位になり、肝臓に運ばれます。そこから血液中に出て全身に運ばれ、筋肉が活動するときのエネルギー源となります。

運動をすると真っ先に使われるのが、血液中の糖質である血糖。補給しないと数時間で枯渇してしまいます。

「前もってたっぷりとっておけばいいじゃないか」と思いますよね。でもこの糖質、食いだめができません。

とりすぎた分は、大部分を脂肪として貯蔵します。貯蔵場所はお腹の臓器の周り(内臓脂肪)と皮膚の下側(皮下脂肪)。心当たりがあるはずです。

というわけで、登山でバテないためには、炭水化物(糖質)を”こまめに” ”適量”を摂り続ける必要があるのです。

 

3.登山のおすすめ食べ物

具体的に何を食べたらいいのでしょうか。

筋肉が活動するときのエネルギーになる炭水化物(糖質)は大きく3つに分類されます。

糖質 代表的なもの 体内への吸収速度 含まれる食べ物
単糖 ブドウ糖、果糖など 速い ブドウ糖、果実、はちみつなど
二糖類 砂糖、麦芽糖など 速い アメ、お菓子、牛乳など
多糖類(ブドウ糖がたくさん連なったもの) デンプン、グリコーゲンなど 比較的ゆっくり ご飯、パン、麺類、いもなど

登山でバテないためにいちばん重要なのは「炭水化物」です。

炭水化物のひとつであるデンプン(多糖類)を多く含む食べ物(ご飯、パン、うどん、パスタ、餅、イモなど)が最適。

これらの食べ物は胃腸で分解されるため、身体への吸収がゆっくりで長持ちします。

登山中は、一口サイズのおにぎりを作るなどして、休憩のたびに口に放り込み、意識してこまめにエネルギー補給するようにしましょう。

小糖類に分類されるアメなど甘い食べ物は、唾液で分解されるため、吸収が早く摂ると途端に元気が出ます。急場のカンフル剤にはうってつけです。

ただし、効果は持続しませんし、大量に食べすぎると血糖値が急上昇して下がり、かえって疲れることもあります。摂取には注意が必要です。

登山では「~してからでは遅い」という言い回しをよくします。バテないためには「お腹が空いてからでは遅い」と覚えておきましょう。

長時間運動する登山では、ご飯やパン、餅などの遅効性の多糖類を含む炭水化物を「こまめに」「適量」摂り続けながら、燃料補給するのがメイン。

加えて、疲れがピークに達した下山時や低体温症が疑われたときなどには、即効性のあるアメやチョコレートなどを摂るといいでしょう。

糖質の特徴をふまえて、うまく組み合わせて食べるのがポイントです。

 

4.脂肪を燃やせ

登山のような有酸素性運動では、炭水化物のほかに、脂肪も筋の中心的なエネルギーになります。

長時間に渡るハードな運動では、歩き始めたときは主に糖質(炭水化物)がエネルギー源ですが、しばらくすると脂肪にバトンタッチしているのです。

食いだめができずたくさん貯蔵できない炭水化物と違い、脂肪は体内にたっぷりと貯蔵されています。

脂肪を効率よく燃焼させることができれば、莫大なエネルギーが手に入ることになります。

ところが、脂肪は炭水化物と一緒でなければ燃えません。

ここでもやっぱり炭水化物がカギ。エネルギー源の主役を脂肪にバトンタッチするとはいえ、炭水化物は摂取し続けなければいけません。

ダイエットがてら食べずに登山しても脂肪は燃えず、ただ疲れるだけ。炭水化物を食べない糖質制限ダイエットなど、山の世界ではもってのほかです。

 

5.食べないとどうなるか?

登山 ばてる

食べずに糖質が枯渇すると、筋肉などのタンパク質を材料としてエネルギーに代えます。

筋肉や骨、血液など、ひとの大部分を構成している栄養素「タンパク質」をエネルギーに回してしまうのですから、運動をしているのに筋肉がやせ細るといった、あってはならないことが起きてしまいます。

さらに、脳や神経の働きが低下し、運動能力や感覚能力、思考能力をつかさどる司令塔の役割が果たせなくなります。

全体重の2%しかない脳は、エネルギー摂取量の約20%を消費する大食い臓器。そのほぼ唯一のエネルギーが糖質なのです。

登山中にタンパク質がエネルギー源に使われて失われてしまうなんてことは、何が何でも避けなければなりません。

そのためには、こまめに適量の炭水化物を補給して糖質を送り続けることが大切です。

 

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参考
2012年4月11日改訂版『身体活動のメッツ(METs)表』独立行政法人国立健康・栄養研究所
「登山の運動生理学とトレーニング学」山本正嘉 東京新聞

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