本州では、人気のある山の水場は非常によく整備されています。案内看板があったり、汲みやすいように樋が置いてあるところもありますし、山小屋で買うこともできます。
それが普通だと思って北海道の山に登ると、あまりの違いに驚くことになるでしょう。
水場として整備されているようなところは極端に少なく、残雪がある時期に雪解け水を汲んだり、沢や沼から自力で調達することになります。
もちろんその水は飲料には適しておらず、必ず煮沸しなくてはいけません。
大腸菌? 一番の理由は、キツネが媒介するエキノコックス症に感染するのが怖いからです。
北海道の山の特殊な水場事情をお伝えします。
1.水場は自分で調べる

雪渓が供給源の水場
北海道では、水は自力で調達します。
本州の山小屋のようなものはありません。あるのは避難小屋で、そのほとんどは無人です。水は売っていませんし、食事も提供してくれません。
ガイドブックで調べたり、詳しい人に聞いてみるなどして、水を汲める場所を事前に調べておく必要があります。
近くに沢などがない稜線歩きが続くようなところでは、稜線がすこし低くなるコルと呼ばれる地形から下っていくと水場があることが多いでしょう。他には、沢や沼、残雪などで調達します。
いつも同じ場所にあるわけではなく、時期によって水場は変わります。
残雪のある時期は雪解け水をふんだんに汲むことできる場所でも、雪が融けてしまえば水を求めて数キロ移動するのは当たり前。
1週間前に行った人から「ある」と聞いて当てにしていたのに、行ってみたら水が枯れていた経験もあります。
例年より雪が少ないとき、暖かい日が続いた後など、条件は刻々と変化しますから注意しましょう。
日帰り山行では麓から担ぎ上げればいいことですが、縦走やテント泊となるとルート上に水場がなければ山行自体が成り立ちません。
北海道で縦走するとき、水場の状況は、時期やルート、山行そのものの可否を左右する重要な要素なのです。
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2.生水は必ず煮沸する
かつて丹沢や北アルプス南アルプスに登っていたころは、よく沢の水を飲んで喉を潤していたものです。
北海道では、キツネに寄生するエキノコックスが懸念されるため、緊急時を除いて、山で調達した水は必ず煮沸してから飲まなくてはいけません。
エキノコックス症は、寄生虫の卵が口から体内に入ることで感染します。人の体内で幼虫になり、おもに肝臓に寄生して深刻な肝機能障害を引き起こすのです。
卵は熱に弱く、60~80℃では5分、100℃では1分以内に死滅します。
標高が高くなれば水の沸点は100℃より低くなりますから、煮沸するときはグラグラと「沸騰してから5分」と覚えておくといいでしょう。
わたしがテント泊するときは、夕食の調理のときに翌日の水も準備しています。水筒容器に入れて、湯たんぽ代わりに使うこともできますから。
飛行機で北海道の山に訪れる人は、機内に燃料を持ち込むことができません。日帰りなら問題ありませんが、縦走登山では必ず山の上で水が必要になります。
個人旅行なら、到着したらまずはスポーツ用品店や登山用品店に立ち寄って、燃料を調達してから山に入りましょう。
ツアー登山では到着後すぐに山に移動するため、途中でガスなどの燃料を調達することが許されません。
その場合は、浄水器を持参してろ過するといいでしょう。エキノコックスの卵は0.03㎜(30ミクロン)ですから、この大きさをろ過できるものを選ぶようにしてください。
浄水器はろ過スピード、フィルターの寿命、吊るして落下させるタイプやストロー式といった形状の違いなど、様々な製品があり、例にもれず、価格は性能の違いに比例しています。
有名なところでは、世界最高水準の除去率で知られるSAWYER(ソーヤー) ソーヤー スクウィーズ フィルター。
ペットボトルや専用パウチにフィルターを接続することで、浄水しながら直接飲むことができます。フィルター本体の重さは約71グラムと軽量かつコンパクトなので、個人装備として携帯するのにおすすめです。
こちらはポンプ式の浄水器、MSR(エムエスアール) スウィートウォーター マイクロフィルター。
1分間に1リットル以上浄水する能力があり、重さが320gと軽量です。能力が高いので、個人山行レベルからグループ山行の共同装備としてもおすすめです。
エキノコックスについて詳しく知りたい方は「キツネが媒介するエキノコックス症(症状、予防策)」をご一読くさだい。