北海道には、本州のような山小屋はないものと考えてください。
あるのは、一部を除き、緊急避難用の無人の避難小屋です。
避難小屋は、原則として宿泊には使いません。泊まるところは、自分が担ぎ上げたテントです。ということは、縦走するなら、それなりの装備とそれを担ぐ体力が必要になります。
ところが、実際には避難小屋を宿泊施設として利用している登山客やツアー会社が数多く存在し、問題視されています。
本州の山小屋とは異なる北海道の山小屋事情をお伝えします。
山小屋はありません
宿泊や食事ができる北アルプスの槍ヶ岳山荘のような山小屋は、北海道にはありません。
あるのは避難小屋。緊急時に避難する目的で使用するものです。
規模や設備は、雨風がしのげる程度の簡素なもので、一部を除いて寝具などはありませんし、ストーブもなく暖をとることもできません。
山で泊まることは、すなわち野営を意味します。テントを含めて装備を全て担ぎ上げ、キャンプ指定地でテント泊するということです。
一部ツアー登山では避難小屋に泊ることを前提にしたものがあり、問題視されています。
人気の高い大雪山系では、避難小屋はツアー登山客で満員御礼なのに、屋外のキャンプ指定地は閑散としている、なんてことは日常茶飯事です。
2009年のトムラウシ山遭難事故のツアー登山一行も、避難小屋を宿泊場所にして縦走していました。
事故の直前に泊ったヒサゴ沼避難小屋では、前日の雨で濡れた装備を乾かすことができず、そのまま出発したといいます。
出発直後から強風と雨にさらされて低体温症を発症し、多くの人が亡くなりました。ストーブなどの設備が整った本州の山小屋をイメージしていたと思われる方には、本当に気の毒な話です。
夏季のみ有人という意味で例外的なのは、大雪山系黒岳石室や白雲岳避難小屋などごく一部。本州の山小屋感覚で来ると痛い目を見ます。
北海道の山小屋は、あくまで雨風をしのげる場所。避難するところであって、寝泊り前提の小屋ではないという認識でいてほしいですね。
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テント泊は登山の醍醐味
北アルプスの槍ヶ岳のような山では、山小屋泊を駆使して縦走することができます。食事もできますから、驚くほど身軽な装備で登山ができます。
対して、北海道の縦走はそうはいきません。テントや食料、燃料など、全ての装備をザックに詰めて、自分で背負って歩くことになります。
鍛えていないと荷物は担げませんから、人を選びます。別な言い方をすれば、テント泊は、体を鍛え、荷物を担いで汗して登った人だけが味わえる登山の醍醐味でもあります。
最近では、テント泊をベースにしているものの、ツアー会社が縦走ルートの途中数か所で食料や燃料などを荷上げして補給する「お気軽テント泊」ツアー登山も見かけます。
年齢的に自分で荷物を担ぎ上げるのは厳しいのであれば、こういったツアーを利用するか、ガイドを依頼してテントや必要な装備もろもろを調達してもらうといいでしょう。
避難小屋を宿泊場所として当てにするツアー登山は、一事が万事その調子であろうと推察できます。わたしなら利用しません。
避難小屋があるには訳がある
数年前、白雲岳避難小屋併設のキャンプ指定地に野営した際、暴風雨に襲われたことがあります。
大きく音を立て吹きすさぶ風が、直線を描きながら山肌にドーンと当たって跳ね返り、一晩中キャンプ指定地のテントを叩きました。
周りのテントは次々と破れたり支柱が折れたりして崩壊し、中にいた登山者は避難小屋に逃げ込んで夜を明かしました。
幸いわたしのテントは二人用の小型だったため、風を受けてもさほどダメージがなく、事なきを得ています。
その時分かったのは、そこは風の通り道だということ。避難小屋があるには訳があるということ。
大雪山系のヒサゴ沼避難小屋も、かつて親子が遭難死した悲しい事故をきっかけに建設されたと、当時救助に関わった知人から聞いたことがあります。
ヒサゴ沼に避難小屋ができる前は、その一帯には避難できる適当な場所がなく、いちばん近い避難小屋やエスケープルートからも相当な距離がありました。
訳あってその場所に避難小屋が作られているのです。安易に宿泊施設として利用するのはやめてほしいものです。
北海道では珍しい有人の避難小屋とキャンプ指定地についての記事はこちら。
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