登山靴やウェアは試着して自分に合ったものを購入できても、シュラフの試着ができるお店はそうありません。
ともするとスペックだけで比較してしまいがちですが、高い買い物ですから、なるべく自分にぴったりなものを見つけたいですよね。
そんなとき大いに参考になるのは、登山仲間の口コミや評価です。
わたしが長年愛用してきたのは、北海道の夏山定番モデルともいえる「ISUKA AIRエア450」です。使用感も良く、これまで特に問題を感じたことはありません。
ところが最近、子どもがテント泊デビューをすることになりまして、新たにNANGAダウンバッグ450STDを購入しました。これが実にいい!
せっかく北海道で人気のツートップが手に入ったので、比較レビューを書いてみることにしました。
北海道の夏山シーズン用として代表的なシュラフ「NANGAダウンバッグ450STD」と「ISUKAエア450」を実際に使ってみた感想を、率直に紹介したいと思います。
これから寝袋(シュラフ)購入を考えている人の参考になればうれしいです。
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北海道の夏山登山で使うシュラフの選び方
まずは、シュラフについて基本的なことにちょっと触れたいと思います。
山では、収納袋にいれればコンパクトになるダウン製シュラフが主流です。
通常、使用時期にあわせてシュラフの限界温度を決めます。
限界温度というのは快適に眠れる温度ではなく、「なんとか朝を迎えることができる温度」。快適に眠れる温度は、限界温度に5℃~10℃プラスするのが目安です。
7月に登る山の最低気温が5℃だとしましょう。この場合、快適に眠れるシュラフは、限界温度±0℃~-5℃の製品ということになります。
寒さの感じ方は個人差が大きくなります。寒さに弱い人(特に女性)なら、プラス10℃の余裕を持って【限界温度-5℃のシュラフ】を選んでおくと、しっかり睡眠をとることができるというわけです。
ちなみに、温かければ温かいほうがいいかというと、限度があります。限界温度が下がればシュラフのダウン量が増え、かさ張って重くなりますから、どこかで線を引かなければなりません。
北海道の夏山シーズン(7月~9月)で使うなら、限界温度-6℃のシュラフがおススメです。本州の3シーズン用にあたるグレードで、北海道の低山から大雪山系の2000メートル級の山までカバーできます。
今回比較する「NANGAダウンバッグ450STD」と「ISUKAエア450X」は、どちらも信頼の厚い日本のメーカーの製品で、上記の条件に合致したシュラフの中では人気・質ともにツートップ。
どちらを選ぶかで迷う人が多いツートップでもあります。
:参考リンク
北海道で使うシュラフについて詳しく知りたい方は、こちらの記事も読んでみることをおススメします。
北海道に行く前に知っておきたい、夏山登山の寝袋(シュラフ)の選び方まとめ
「北海道に縦走に行くのだけど、どんな寝袋(シュラフ)を持っていくといいのかわからない!」という方、多いですよね。 「夏なのに?!」と驚くかもしれませんが、北海道の夏山で使用するなら、限界(リミット)温 ...
イスカ(ISUKA)エア450 X
3シーズン用(春~秋)で、冬以外のシーズンに融通がきくモデルです。
メーカーの謳い文句は
残雪期の北アルプスでのご使用から、秋の涸沢や八ヶ岳、飯豊など。夏の北海道・大雪山系でのご使用にも代表的なモデル
特徴は3D構造です。
- エアモデルのシルエットは、かまぼこの断面のように上のほうにゆとりを持たせた立体構造
- 寝袋の内側と外側の生地を異なったサイズで裁断・縫製
- 充填するダウンの量をエリアごとに最適化
これらにより、体にあわせた裁断で「狭すぎず広すぎない」立体裁断構造となっています。
中国製ですが、メーカーに問い合わせたところ、【日本製の生地素材、パーツを中国工場に送り込み、仕様を指示、現地にて熟練の縫製技術にて仕上げ、ダウンを封入しております】とのことでした。
総重量840g、羽毛量450g、フィルパワー800FP、サイズ78×208cm、収納サイズφ16×32cm、限界温度-6℃
ナンガ(NANGA )ダウンバッグ450STD
3シーズン用(初春~秋口)で幅広く使えるモデルです。
シングル構造とよばれるシンプルな構造から「かさばらない」というのがメーカーの謳い文句です。
生地を挟み込みにくいYKK製ファスナーを採用し、仮に挟んだとしても生地を傷めにくいようになっています。
またファスナーの一部は畜光素材を使用し暗闇でも見えるようになっています。
タグに「日の丸」「Made in Japan」と誇らしげに表示されているように、今では希少な日本製です。
ダウンシュラフに関しては、永久保証で修理は無料です。※送料別
総重量890g、羽毛量450g、フィルパワー650FP、サイズ80×210cm、収納サイズφ18×29cm、最低使用温度-4℃、限界温度-8℃
NANGAとISUKAの比較
わたしが購入した2つのシュラフは、購入時期が異なるだけで、スペックや使用時期などは同じ想定で購入しました。
①重量:ISUKAの方が軽い
NANGA 890g(実測916g)、ISUKA840g(実測875g)
ISUKAが50g(約6%)軽いです。
ウルトラライトとよばれる軽さを追求した登山商品にこだわる方もいると思いますが、縦走で25㎏背負うことを考えると、50gというのは「誤差」みたいなものでしょう。
②フィルパワー:ISUKAのダウンの方が高品質
羽毛量は同じ450gですが、フィルパワーはNANGA650FP、ISUKA800FPと大差がついています。
FP(フィルパワー)とは?
羽毛のかさ高性を示す単位のこと。
羽毛1オンス(28.4g)のダウンをシリンダー内に入れ、一定の荷重をかけたときのふくらみ具合を体積で示します。
数値が大きいほど空気を多く含むため、空気による断熱効果が高く、保温性に優れた良質なダウンということができます。
目安としては、500FP以下は低品質ダウン、600~700FPは良質ダウン、700FP以上は高品質ダウンといわれています。
個人的な感覚ですが、明らかにISUKAのほうが収納袋から出すとすぐにふわっと膨らむように感じますし、NANGAはしばらくしてから膨らむように思います。そこら辺がフィルパワーの差なのかもしれません。
0℃程度の環境で両者を試し寝で比較しましたが、暖かさに違いは感じませんでした。生死を分けるような過酷な状況下でもない限り、ほとんど差はないといってよいでしょう。
③実勢価格:NANGAの方が圧倒的に安い
NANGA18,800円、ISUKA36,800円(当時)
NANGAが半値近くと安価です。
ISUKAは立体構造を実現するため、生地の使い方やダウンの充填などに贅沢なこだわりを持っていること、高品質ダウンが使われていることから、価格が高くなるのは当然。タグを使わず縫い付けでブランド表示をしているプレミアム感も出しています。
NANGAはフィルパワーを抑えて、コスパ最強のシュラフを実現しているといえますね。
④収納サイズ:ISUKAの方がコンパクト
NANGAφ18×29cm=7376cm3 ISUKAφ16×32cm=6431 cm3
ISUKAが体積で10%小さいですね。これは、立体的構造から実現していると考えられます。
見た目には明らかな差がありますが、どう捉えるか山行スタイルや装備によって大きく異なるところでしょう。シュラフを入れるザックが小さければ、この違いは大きくなりますね。
北海道ではテント泊が基本です。それなりの装備を背負うことになりますから、必然的に男女ともにザックは大きくなります。本州のように30~40リットルでは無理。
わたしのザックは80リットルですから、そこに詰め込む物として、容量にして1Ⅼ(=1000㎝3)未満の差はさほど問題にはならないと考えています。
⑤形状:広く感じるのはNANGA
NANGAはシンプルな構造のため、体感的に広く感じます。
ISUKAは足元を細くして無駄な空間を省き、重量減と保温性を考慮しているようです。
これについては評価が分かれるところで、足元が窮屈だという指摘が男性からよく聞かれます。狭いテント内では足を広げるようなことはそもそもできませんから、わたしはあまり気になりません。
⑥ファスナーの使い勝手:噛みにくさはNANGA
NANGAのファスナーは右側面にあり、胸元と足元の2か所から開け閉めができます。
胸元ファスナーは特殊構造で、生地を挟みにくくするためのスライダーが付いているため、若干は操作が重く感じます。
ただ、暗闇の狭いテント内でファスナーが生地を噛んでしまうと破らないように外すのが大変なので、これは地味に嬉しい機能です。
ファスナーは蓄光素材なので、ヘッドランプを消してもしばらくは光って見えます。足元側から開け閉めできるファスナーは通常タイプです。
ISUKAのファスナーも右側面です。胸元、足元側ともに通常タイプのファスナーです。
⑦収納のしやすさ:NANGAのほうが収納しやすい
袋がやや大きくなって収納サイズも大きくなりますが、NANGAは圧倒的に収納しやすいですね。
ISUKAは収納サイズがφ16cm(NANGAφ18cm)と細いため、収納するのに力とコツが必要です。
ISUKAの同じモデルを所有する女性や年配ユーザーからは、「袋に入れることができない」とのコメントがありました。
妻も親の敵とばかりに力任せに入れるので、いつか袋を破ってしまうのではないかと心配です。
⑧買うならコスパ最強のNANGAがおすすめ
これからシュラフを買う人には、日本製でありながらコストパフォーマンスに優れたNANGAがおすすめです。
NANGAはかなりコストパフォーマンスが高いです。
最新のモデルならAURORA light 600 DX
レギュラーでは、総重量1,100g、羽毛量600g、フィルパワー760FP、サイズ80×210cm、収納サイズφ17×31cm、最低使用温度-4℃、限界温度-11℃
上回る限界温度-11℃なら、北海道の2000m級の山でも安心して眠れます。ただし夏山シーズンのみ、ですが。
ナンガは女性でも収納しやすく、生地を挟みにくい特殊なファスナーがついているのも嬉しいポイントです。
信頼ある日本のメーカーで、製品に対する信頼性や製品保証などはお墨付き。
ということで、これから買う人にはコスパに優れたNANGAをおすすめします。
ちなみに、シュラフを初めて買う人は、シュラフカバーもマットも購入が必要になりますからお忘れなく!
結露で濡らしてしまえば性能が落ちますし、地面から冷たい温度が体に伝わるのでは、せっかくの高品質ダウンも性能が活かし切れません。
:参考リンク
シュラフカバーはシュラフ購入時にセットで買いましょう。シュラフカバーの役割や必要性について、こちらを参考にどうぞ。
北海道の夏山には、防水性と保温性の2つ理由でシュラフカバーが必要です
シュラフカバーは「あるといい」程度に思っていませんか? かさ張って重いので、荷物を軽量化しようとすると、真っ先に必要性が疑問視される存在になっていないでしょうか? 北海道では、必要性を論じる段階を通り ...