コラム

【登山の疑問】山で携帯電話の電波がつながりにくいのはなぜ? 

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山で携帯

携帯電話が登山の標準装備となって久しくなりましたが、今や山岳遭難の救助要請のほとんどが携帯電話からです。

山での電波通信状況が登山の安全に直結しているといってもいい。

とはいえ、山では携帯電話はほとんどつながりませんよね。

携帯電話のアンテナがないからつながらないと思っている人もいるようですが、それだけではありません。

『山での電波の届きやすさ』の根本的な仕組みについてお話します。

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淘汰されたアマチュア無線

わたしが高校山岳部で活動していた1990年代前半は、まだ携帯電話は普及していませんでした。

部員は全員がアマチュア無線の免許を取得して、山行では無線を活用していましたし、山の上では登山者たちがアマチュア無線家と無線交信を試みる風景がよく見られました。

北アルプスの槍ヶ岳から富士山が見えたとき、約150キロ離れた富士山にいた方とたまたま無線で会話ができて感動したことを懐かしく思い出します。

警察庁によると、平成28年に全国で発生した山岳遭難(2,495件)のうち、救助要請に通信手段を使用したのは76.4%(1,907件)。

うち、携帯電話の使用が76.4%(1,905件)で、無線はたったの0.1%(2件)。

携帯電話が圧倒的に多いのは、無線より携帯電話のほうが電波がつながりやすいから、というワケではありません。

無線には『免許とトランシーバー、無線を受信する相手』が必要です。

最近ではアマチュア無線を趣味とする人が減り、無線局が激減。
緊急時に、もはや絶滅危惧種となったアマチュア無線家が無線を傍受してくれる奇跡を願うわけにはいきません。

対して、携帯電話は登山の標準装備といってもいいほど普及率が高い。
一般の電話番号にかけることができるため、誰かが受信してくれることを祈る必要はないですし、警察なら100%受信です。

時代とともに、人々のライフスタイルは変化して通信技術も変遷し、登山の安全を担う通信手段も変化したのです。

とはいえ、電波がつながりやすさは圧倒的にアマチュア無線が優位。
活用次第ではまだまだ活躍の場があると考えています。

それでは、電波が「つながりやすい」「つながりにくい」とはどういうことか、根本的なことを説明していきます。

 

アンテナがないから入らない?

先日、妻とこんな会話がありました。

山でも携帯が使えるように、アンテナ建ててくれたらいいのに。

管理人
人の住んでいないところにアンテナを設置するなんて考えられないけど。

携帯電話がつながりにくいのは、アンテナというよりも電波の特性によるものが大きいんだよ。

山の上にアンテナがなくてもAMラジオは入るでしょ。AM放送の波長は長いから入りやすいんだ。


・・・?

 

電波や音波、光などは、波うちながら進みます。

波の山と山との間の幅を『波長』といいます。

 

波長比較

 

波長が長いと山の影でも電波はよく届く

電波や音は空中を伝わり、山などの障害物にぶつかると、反射することもあれば山の裏側に回り込むこともあります。

この回り込む現象を【回折】といい、波長が長いと回折が起こりやすくなります。

一方で、波長が短いと反射するだけで回折が起こりにくく、直進性が高くなります。

ちなみに、波長が極端に短いのは光で、一般に人の目に見える光の波長域は380nm~780nm(ナノメートル:10億分の1メートル)です。
壁があると、光は回りこむことができません。

なぜ回り込むのか理由を説明するには物理の教科書が必要となりますので、ここでは感覚的にとらえてもらう程度でよいでしょう。

 

山でよく届くのは何?

周波数と波長を表にしてみました。

周波数が高ければ波長は短くなり、低くなれば波長は長くなります。

波長が長いと回折が起こりやすくなり、山の裏側にいても届きやすくなります。

順位 種類 周波数 波長 備考
1 可聴域の音 20Hz-20KHz 15000km-15km 音さえ大きければ見えなくても聞こえる
2 アマチュア無線 144KHz 2.1km 山で良く届く
3 AM放送 1200KHz 250m 山で聴ける
4 FM放送 80MHz 3.75m 聴きずらい
5 携帯 1.5GHz 20cm ほぼつながらない

 

第1位:音

意外に思われるかもしれませんが、山でよく届くのは『音(音波)』です。

人が聞くことができる音は20Hz~20KHzで、波長はそれぞれ15,000km~15㎞と非常に長いのです。

ファミレスで仕切りの付いたブースに座っても隣の会話がモロ聴こえなのは、音が仕切りの周囲を回折して入りこむからです。

山では、大声で助けを呼ぶことも立派な通信手段だと覚えておくといいですね。

 

第2位:アマチュア無線

アマチュア無線で使う電波の144KHz帯は、波長が2.1と比較的長いのが特徴です。

電波が地形の影を回り込むことができるため、交信相手が地形の影で見えていなくてもよく届きます。

ただし、アマチュア無線は同じ周波数を聞いている「相手」がいないと通信できません。

最近ではアマチュア無線家もめっきり減ってしまい、緊急時の通信手段としては当てにならなくなりました。

ですが、大勢でのパーティー登山などでは、複数名で無線機器を携帯すれば緊急時でも連絡を取り合うことが可能になり、より安全な登山への近道となります。

アマチュア無線は、使い方次第で活躍の場はたくさん残されているのです。

 

第3位: AM放送

テント泊するとき、AMラジオの天気予報を聞くために必ず携帯するのがラジオです。

1200KHzの放送では、波長は250m

アマチュア無線よりは短く、山では若干ノイズが気になることもありますが、場所を選べば聞くことができます。
高校生のころは、テントの中でラジオを聞きながら天気図を書いたものです。

身近な例では、屋内でAM放送を聞くときはアンテナを伸ばさなくても聞くことができますし、車がトンネル内に入ってもカーラジオを聞くことができますね。

このことから、『電波が回折しやすい』ことがなんとなく分かるのではないでしょうか。

 

第4位:FM放送

FM放送の受信はたいていの山で難しいでしょう。

80MHzの放送では、波長は3.75m

AM放送より二ケタも波長が短くなり、回折しずらくなります。

といっても、FM放送は娯楽指向の番組なので、山で聴けなくてもそれほど問題ありません。

FM放送が回折しずらい身近な例では、家のなかでFM放送を聞くときにアンテナを伸ばさないと良く聞こえないことや、車でトンネルに入るとカーラジオがすぐに聞けなくなることから実感できますね。

 

第5位:携帯電話

ランキング最下位は携帯電話の電波です。

携帯電話に使用されている周波数帯のひとつ1.5GHzは、波長はわずか20㎝。

音に比べると大変短く、FM放送と比べても1/10以下。

地形の裏側に回折することがほとんどできなくなります。

山仲間のあいだでは、携帯で救助要請するときのため【〇〇山の▲■地点なら携帯が入る】などと情報交換します。

たいてい、携帯の入る場所は尾根やピークです。

山からみた集落

集落が見えるところは携帯が入る可能性が高い

なぜそのような地点で携帯が入るのかというと、携帯基地局の鉄塔まで見渡せるような条件だからです

つまり、直進する携帯電波をとらえらた時に携帯がつながるということですから、地形的に山で携帯がつながることはほとんどないといえるでしょう。

 

まとめ

電波は直進するのが基本で、波長が長い(周波数が小さい)ほど、障害物の陰にも回折することができます。

携帯電話やFM放送のように波長が短いと(周波数が大きい)と回折しずらいのは、直進性が強いからです。

携帯電波のアンテナは、人が住んでいない登山道向けに設置されることは原則ありませんから、『つながるところがあればラッキー』くらいの位置付けとしましょう。
依存しすぎるのは危険です。

携帯電波が入りそうな場所を見抜くのも、技術のひとつです。
休憩のときなど、要所要所で携帯電話を取り出し、電波を受信していたら地図に書き込んでおくといざというときに役立ちますよ。

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