身近でよくある道迷いを3つのパターンで紹介します。
1.人の踏み跡を当てにする
不思議なもので、人が歩いた跡があると無条件に安心してしまうようです。
もちろん、その踏み跡の方向が自分が行こうとしている方向と一致している保証は何もありません。だけど、付いて行ってしまって道迷いするケースが本当によくある。
登山歴30年以上になる知人は、あるとき「自分の庭」と豪語していた山で道に迷ったことを恥ずかしそうに告白してくれました。
理由は、残雪に残っていた踏み跡をついて行ってしまったから。
かばう気はありませんが、残雪があると登山道が雪で覆われて見えなくなって、周囲の景色が一変します。道迷いしやすくなるのは事実です。
こんなときこそ地図とコンパスの出番ですが、知人のように「頭の中に地図が入ってる」人だろうと最新型GPSだろうと、持っていても使わなければ役に立ちません。
後からわかったことですが、その踏み跡は、数日前に道迷いして遭難救助された道外からの老夫婦登山者がつけたものでした。
さらにその後、知人たちがなぞったことで老夫婦の踏み跡がより鮮明になってしまい、当てにしてついていった人たちが同じように道迷いしてしまうケースが多発してしまいました。
翌年から、自治体や警察、地元の有志で、残雪の上に赤い石灰で正しい方角を示す矢印を描くようになりました。知人が参加しているのは言うまでもありません。
2.他人の付けたピンクテープを当てにする
遭難事例を読むと、木に付いているピンクテープを登山道と誤認して道迷いする例が必ず出てきます。
実際、他人が残したピンクテープは「道迷いしないように誰かが親切に付けてくれている」と思っている人が必ずいるんですよね。
そんな人に見せてあげたいといつも思う風景があります。
日高山系で尾根歩きの途中から沢に入るコースを行ったときのこと。分岐地点は木や石ばかりで特徴がありません。
帰り道で迷わないように場所を正確に地図に記入しておこうと立ち止まると、木の枝にピンクテープがズラリと付いているのに気づきました。
幅50メートルくらいに渡って何十本と付いています。色褪せてボロボロなのもあれば、積雪期につけたのか、分岐とはかなり離れた場所にもついています。
もしもテープを当てにしていたら、たくさんありすぎて、どこが分岐点なのかわかりません。後から来た人を惑わせるだけと思ったら、やっぱりね。帰り際、テープの前でうろうろしている人を見かけました。
テープは、付けた人だけにしか分からない注意喚起の印です。林業関係者が造材目的に付けたり、「危険だから侵入するな」という意味で付けられていることもあります。
それを思い込みで当てにするのは本当に危険。そして、テープで印を付けたなら、責任を持って回収するのが登山者としてのマナーだと考えています。
3.下山のときこそ多い道迷い
登山の道迷いは、ピークに向かう上りより、広がる裾野に向かう下山中に多く発生します。
それを十分理解していたつもりのわたし自身が体験した話です。
独りで標高1000m程の独立峰に登った時でした。登りは尖峰に向かう一本道ですから迷うことはありません。ところが下山でルートを外れてしまいました。
気が付いたときには、登山道らしきものが全くなくなってしまいました。登山道が雪で覆われて不明瞭だったため、いつの間にか外れて、どうやら一本隣の沢筋に入りこんでしまったようです。
30分ほど登り返して本来の登山道に戻ることができましたが、一時は「戻れなかったらどうしよう」と不安に駆られたものです。
発端は、単独だったことから「あとは下山して温泉にでも浸かるだけ」と先を急いでいたこと。
登りでは地図とコンパスで方向を確認していましたが、下りはやっていませんでした。
どうも一度通った道は、安心感からか、現在地や進行方向を確認しない傾向があるようです。
いくら登山経験が豊富でも、技術や知識を持っていたとしても、活かさなければ意味がない、と胸に刻んだ苦い思い出。
これを教訓にして、今ではコンパスを首にぶら下げ、地図はポケットに入れて、いつでもルートファインディングするように心がけています。